第28話 再開占い師!

ナーシャに濡れ衣を着せられ、屋敷から追い出されて帰路を進んでいると。


「あんた生きてたんだね」


 老婆の声が真横から聞こえたので、音源の方へ目を向けてみると、俺に死の宣告をした占い師がいた。


「悪運は強い方でしてね、俺が死を切望しても世界がそれを許してくれない……」


 俺は意味ありげに1人で呟くが、誰も反応をしてくれないので実に恥ずかしくなる。


「ちょっと相談があるんだがいいか?」


 ゼスティが占い師に話を切り出すと、対面する様に設置された椅子に腰を掛ける。


「なんじゃ、言ってみぃ?」


「人間って人格が変わったと思ってしまう程に急に変貌する事ってあるのか?」


 占い師に向かい、ナーシャを元に戻す方法を尋ねているのだろう。


「友達にそんな症状が出ているとかかえ?例えばそこの少年は前に来た時より態度がデカくなっている様な気がするんじゃが」


「ああ、態度がデカいのはいつもの事だから気にしなくていいぞ、それでその具体的な症状が暴力的になってしまうとかで、原因とかがあるのかなぁ〜と」


 常日頃から他人には極力謙虚な俺に向かい、全く酷い事を言いやがるぜ。


「悪霊が取り憑いたり、他人が入れ替わっていたり、洗脳をされていたり、それとも人格が変化する位の大きな出来事が起きるか、それくらいじゃな」


「それを見抜く術ってあるのか?」


「真実を見通す鏡を使って見ることじゃな、それに不純な者が映ると、邪悪な瘴気がその者を覆っているのが見えるらしい」


「その鏡ってどこで手に入れんだ?」


 ゼスティが質問責めで、占い師を圧倒的する。


「烈炎の壱の奥にいる魔物を撃破すると落とすんじゃ、市場で取引されているのは希少価値があるもんで金貨5枚程で売買されているから欲しいなら前者を選んだ方がいいと思うぞ」


「じゃあこの後3人でダンジョンに行くぞ」


「嫌だ、マジで」


 俺は顔の前でバツを作り、体を使い拒否の念を示す。


「そういえば私魔法を覚えたんですよ、これこれ見て下さいよ!もちろん決め手は名前のカッコ良さですけど」


 フィーエルがゼスティに身分書を渡したので、それを横から覗き込むと、魔法の欄に"無限創造インフィニット"と表記されていた。


 インフィニットという言葉の響きに心を揺さぶられない少年なんていないだろう、俺的中二心に刺さる英単語ランキングトップ3位に入るレベルで好きだ。


 ちなみに消費魔力は80という名前にしては、微妙な感じだった。


「こんなカッチョいいもんどこで手に入れたんだ?」


 羨ましい!俺もスモークみたいな魔法じゃなくて、魔力不足で撃てるかは関係無しにこんな感じの魔法を覚えたい!


「堕天してくる時に偶然持ち合わせていたとある漫画を読んだら覚えました」


「その本は?ウェアウェア?」


「勿論携帯してますよ、ほらここに……ってあれ?」


「どうした早くしろ?先生3分間だけ待ってやるから」


 フィーエルは皮のリュックの中に手を突っ込んで中身を確認するが、見つからない様なので入っている中身を路上に全部出し、捜索を続けるがその手は止まらない。


「凄くヤバイです、漫画落としてしまいました!ああもうこの世の終わりですよ!!」


 もしかして日本の高品質な漫画この世界の住民の目に入ってしまったが為、本来の歴史を辿らなくなり、そこから発生した歪みによって重篤なタイムパラドックスが起きてしまい、そして銀河系が無くなってしまうとかそんな感じだろうか。


「大丈夫だお前の罪なら俺も背負う!一緒に世界、いや全宇宙を救おう!そして報酬で楽して生きるんだ!」


 俺は涙目のフィーエルの肩に手をポンと置き、元気付けるように言うが、いまいち心に響いていない様子だ。


「へ?何言ってるんですか、救うって何をです?」


「端的に言えば、お前が別世界の物を持ち込んだ事によって全宇宙が消えてしまうって話だろ?」


 俺はフィーエルの言動から読み取った事を声に出し羅列する。


「ああ、袋とじを開けていなかったなって話です、てか漫画を落としただけで全宇宙が無くなるとか、考えがあれですね、ゲームのしすぎですよ!」


「え?マジで?俺の早とちりだった?」


 俺は瞬間、顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。


 何だよ世界が、宇宙が無くなるって!本当にただの痛い奴じゃねーか、恥ずい!恥ずい!恥ずいィィィィ!!と、頭の中がその言葉だけで埋め尽くされていく。


「あの、ごめん、今の話は全部俺の妄想って事で処理しておいてくれ」


 俺は逃げ出したい気持ちを抑え、必死に言葉を絞り出すと。


「でも、嬉しかったですよ?蒼河さんが私の為にそこまでしてくれるなんて、こんなの初めてで、ちょっとドキドキしました『お前の罪なら俺も背負う』って所カッコよかったかも……って不思議です、何故か暑くなってきました!」


 あの時のように、普段のフィーエルからは想像も出来ない程に天使の様に優しい声色だった。


「いや、俺は別に、お、お前の為にやった訳じゃねーし、か、勘違いもいい加減にしろよ!!」


 羞恥か、それとも別の感情か、赤くなった顔をフィーエルに見られないように言う。


「って言ってあげないと、当人は耐え難い羞恥心に苛まれてしまうので、優しい口調で言ってあげましょうってマニュアルに書いてありました」


「で、デタァ!フィーエルの十八番であるマニュアル!」


 俺の羞恥はすっかり無くなり、一瞬で変なツッコミを入れれる程に回復していたので、これもフィーエルの計算の内なのか否か。


「それで2人共?ダンジョンに行く決心はついたのか?」


 俺達が会話していた間、占い師が持っている情報を根こそぎ喋らせたであろうゼスティが満足そうな表情で言う。


「私は行きますよ、この魔法を皆さんの前でお披露目したいですからね!」


 フィーエルが了承したので、残っているのは俺だけだ、それにしても2人の視線が痛く、それに屈した俺は素直に従った。


「分かったよ、但し俺は繊細で脆いからな、お前らしっかり俺を守れよ?」


 3人だったら、再びあの状況になっても抜け出す事は出来るだろう。


 そんな短絡的な事を数時間前の俺は思っていた。


 俺に時間を巻き戻る力があったとしても、神に祈る事位しか出来ないだろう、だってそれしか打開策がないから。


 って、事にならない様にしっかりと事前準備をし、俺達は鏡を求めてダンジョンへ出発するのであった。

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