第27話 降臨ナーシャ!

ダンジョン付近の道を通り、屋敷への歩みを運ぶロックリーの後ろを3人でついて行くと。


「ここです」


 顔を見上げると、そこには絵に描いた様に荘厳な屋敷があった。


 正面には門があり、使用人の様な風貌をした男性が待機している。


「爺帰ったよ」


 そう言うと使用人の男性が足早に向かってきて、低い腰でロックリーに頭を下げる。


「おかえしなさいませ、そちらの方々はご友人ですか?」


「うん、屋敷の中で遊びたいんだけどいいよね?」


 ロックリーが俺達の方へ手を向けてそんな事を言うと、使用人は門の奥に見える扉を見る。


「ですが、今日もナーシャ様がお見えになられておりまして」


 ナーシャというのは言わずもがな、ロックリーの許嫁の名前だろう。


「うん、だったらナーシャも含めた5人で遊ぶよ」


 使用人はほっと胸を撫で下ろして『どうぞお入り下さい』と言い、それに従い俺達は門を潜って屋敷の中へ向かう。


 どうやら使用人の様子から見て、ナーシャが暴力娘だと知らないらしい。


 ロックリーをついて行っていると、背後から使用人の嬉しそうな声が聞こえる。


「皆さん、ロックリーお坊ちゃんのご友人として今後もよろしくお願いします」


「あ、はい、こちらこそ?」


 俺が1番後ろを歩いていたので、必然的に俺が代表となって返事をする。


 使用人は俺に深々と頭を下げた後、再び門の横へ戻って見張りを再開している。


 ロックリーが開けた扉から赤いカーペットに豪華なシャンデリアの豪奢な内装が目に入り、それ相応の振る舞いをしなきゃいけないなと、俺の心に眠る紳士魂が火を噴くぜ!


「そんでナーシャはどこにいるんだ?」


 と、俺がロックリーに質問した時だった。


「あたしの名前を読んだのは何処のどいつだァ!!」


 音源は真上だ、恐らくシャンデリアの上だろうか、反射的に見上げると、そこには視野一杯にシマシマのパンツが広がっていた。


 いや違う、正確に言うと目と鼻の先に、何かが迫ってきており、それがどんどん近づいてきて。


「食らえ!!」


 そんな声と共に、俺の体が宙に浮き顔面からカーペットに叩きつけられた。


 俺はうつ伏せに倒れ、痺れて痛む顔をさすりながら起き上がろうとしたが、そうは上手くいかなかった。


「痛いッ!痛い!マジでやめろォォッッ!!」


 首を力が掛かり、海老反りになる俺の体。何が起きているのかが全く分からない。分かるのは技をかけられている事だけだ。


「降参降参!!折れるからホントにやめろッ!やめてッ!」


 バンバンとカーペットを叩き、抵抗の意が無い事を示すが、それが原因なのか逆に強くなっていっている。


 誰か助けてぇッ!!と、この状況を打破してくれるヒーローに救いを求めていると。


「ナーシャやめてくれ」


 その声、その一言だけで痛みは無くなって俺は自由になった。


 ナーシャは乱雑に俺を投げ捨てると、大人しくなった少女が未来の夫を泣きそうな瞳で見つめている。


「ロ、ロックリーなの?」


「うん、僕だよ」


 行き別れの兄妹の感動の再開と言ってもいい程に、ナーシャが華麗に飛んで抱きつくと。


「何処で油売ってたんじゃ!!」


 途端にさっきの状態に戻り、ロックリーを頭から背後に設けられた窓ガラスに投げつけると、それが割れて嫌な音が耳を撫でる。


 そして得意技なのか俺にした様に、首に技を掛けるとロックリーの体が海老反りになる。


「大変なんだな」


「正直ここまで酷いと思ってはいなかったぞ」


 初対面の俺に向かってあれを仕掛けてくるほどにはぶっ飛んだ思考をしてる。


「お手数ですが、助けてくれないか?ナァッ!!」


 ロックリーが俺と同じようにカーペットを叩き、俺達に助けを求めてくるので、俺達はそれを受け取って助けに入ろうとするが、突如入り口の扉が勢いよく開く。


「どうされましたか!?」


 使用人が切羽詰まった声で全員に語りかけて来るが、1目見れば分かる状況なのでそれについては誰も答えない。


「坊ちゃん、どうされたんです!?」


 使用人がロックリーが倒れている窓ガラス付近に近づいて、俺達に尋ねるが、誰よりも先にナーシャが声を上げた。


「あの人達がロックリーさんを投げ飛ばしたんです!」


「それは実ですかね?」


 ナーシャの言葉を信じ、鋭い眼光で俺の瞳を睨む。


「違いますよッ!だよなロックリー?」


 と、本人に言うが、余計な口出しをしないよう、あらかじめナーシャの手により気絶していた。


 永遠の愛を誓った許嫁と、何処の馬の骨かも分からない奴らの言い分、どっちを信じるかは言うまでもなかった。


「あんたら今すぐ出ていってくれ!!」


 そんなの当たり前だ、しょうがないと割り切るしか無い。


「ほら、帰るぞ」


 2人は余計な口出しをせずに黙って俺の言葉に従い、屋敷を後にした。


 俺達は門の前にある木の幹に腰を掛けて一連の出来事について愚痴っていた。


「なんなんですかあの言い方、実にムカつきますゥ!あと人に罪をなすりつけるとか、蒼河さんがギリギリ勝てる位の屑さですよ!」


 フィーエルがアッカンベーを屋敷にむかってすると、俺は『俺の方が屑なんかい!』と言って屋敷に向かって小石を投げつけたが、綺麗に跳ね返って頭に直撃した。


「くぅ〜いてぇ〜」


 俺が涙目でうずくまりながら頭を押さえていると。


「ここにいてもしょうがない、今日の所は引き上げよう」


 ゼスティがそんな甘い事を言う。


「ナーシャが屋敷から出てくる所を夜襲するんじゃなかったのか?」


「そうですよ、やられたらやり返せの精神ですッ!」


 ネタが少々古いような気がするが、天界と現世の時間との多少の違いがあると思うので、あえて突っ込まないでおく。


「そんな計画いつ決まったんだ……」


 ハァと溜息をこぼして呆れるゼスティ。


「今日の所って、もしかしてまた来るつもりなんです?」


「だって毎日あんな事されてると思うとほっとけないだろ……」


「確かにロックリーは悪い奴じゃないし助けてはやりたいけどよ」


「また明日にでも店に来るだろ」


「そうだな、今日の所は勘弁してやるか」


「なんか蒼河さん、スゴく小物っぽい事言いますね」


「お前には俺が大物に見えるか?」


「どこからどう見ても雑魚キャラにしか見えませんね」


「2人共もっと早く歩いてくれないか?」


 そうな他愛の無い自虐を挟みつつ、俺達は店へと帰路を進めたのであった。

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