わたしのシキガミさま!

 


「じゃあじゃあ、今度また不思議なことがあったらみんなで調査ってことで!」

「わかった、がんばる……!」

「ナツメくんも手伝ってくれるって! ね!」

「あ? ああ……まあ」

 もえちゃんのお父さんがお店の開店準備を始める時間になるので、わたしたちはおとなりのお豆腐屋とうふやさんに油揚げを買いに来た。

 ちょうどナツメさんも帰ってきて、わたしたちはお店の前で、さっきの「残り五人のシキガミ」について話した。

「カッパさんに今度キュウリ持っていって、ついでに心当たりがないかきいてみない?」

「アイツのとこに行くなら、俺も行く」

「じゃあ、またみんなで河川公園に行こうね」

 そんな約束をしている間、シキガミふたりは少し離れたところでじゃれていた。というか、ヨジロウのシッポにメロリがじゃれていたというか。何だか仲良し兄妹きょうだいみたいでほほえましいなあ。

 ちなみに、メロリの赤いフード付きケープは脱いでもらいました。目立つので。

 本当はふたりともスマホの中に戻ってもらえばよかったんだけど、もえちゃんのお父さんがお店に出てきて、お礼とか言ってたら、タイミングを逃しちゃって。

 人前でスマホにもどるわけにいかないしね。

「なあ、もえ。ミント、ヨジロウとメロリも」

「へっ?」

 ナツメさんが改まって言った。

 あ、ナツメさんに名前呼ばれたの初めてかも。

「ありがとうな。ほんと」

 照れくさそうに言って、思い切ったように頭を下げた。

「わたしも! ミント、ありがとう!」

 うわあ! もえちゃんも並んで頭を下げだした。いいのに!

「いや、わたし何もしてないから」

「しただろ。カワグマをカッパにもどしたのは、ミントの力だ」

「そうだよ。ミントがいなかったら、カッパさんと仲直りできなかったよ」

 う、うう、そう言われると照れるなあ。

 でも戦ったのはヨジロウだし、守ってくれたのはメロリなんだよなあ。

 ふと気づくと、ヨジロウがいつの間にかわたしの隣に立ってた。

「いいこころがけだ、ナツメ、もえ。その感謝のねん、忘れるなよ」

 と悪ーうい笑顔で言った。

「ナツメこれから毎日俺に油揚げを」

「こらヨジロウ! 無茶言わないの!」

 言うと思った! もう頭の中全部油揚げか!

「じゃあね、もえちゃん、ナツメさん! また明日ね~!」

 わたしは無理やりヨジロウをひきずって、歩きだした。

 ナツメさんはぽかんとしてて、もえちゃんは「またね~」って笑いながら手をふってくれた。

「おいミント! せっかく油揚げをたらふく食えるかもしれないってのにお前」

「油揚げなら買ったでしょ? お母さんにもおすすめしといてあげるから!」

「ぐう……! あぶらあげえ……」

「もう。いくら好きだからって、人に迷惑かけちゃだめ」

「うっ」

「? どうしたの?」

「なんでもねえ」

 急にしょんぼりしたヨジロウは、わたしの手を振り払って、少し手前を在るき始めた。

「ねえどうしたの?」

 わたしの質問に答えずに、スタスタと歩いていっちゃう。

 メロリが、わたしのスカートのすそをくいっとひっぱった。

「あのね、いまの、めいわくかけちゃだめって。あんずひめが、よくいってた」

「え? そうなの?」

 ヨジロウったら……きっと大昔から油揚げに夢中でわがまま言ってたんだろうな。

「ヨジロウよっぽど油揚げ、好きなんだね」

「うるせえな」

 照れくさそうにぼそっと言うヨジロウの背中を見て、ちょっとだけかわいいとこもあるんだなって思っちゃった。

 夕陽に向かって歩いていくと、ヨジロウの白い耳が、ちょっとだけオレンジに染まっていく。

 それを見ていて、ふとアプリの図鑑の空欄を思い出した。

「ねえヨジロウ、ヨジロウはあの図鑑に乗らないの? やっぱりキラキラしてないからかな?」

 ヨジロウがぴたりと歩くのをやめた。

「ヨジロウ?」

「図鑑だとか、キラキラだとか、何のことか俺にはわかんねえよ」

「え? わかんないの?」

 そう言えば、大昔はスマホなかったんだもんね。でもメロリはキラキラしてライト当てたら図鑑に載ったし……。

「けどな」

 そう言って、ヨジロウがこっちを振り向いた。

 夕陽がさして、ヨジロウの耳も、顔も、オレンジ色だった。


「そんなことしなくても、俺は、お前のシキガミだ」


「う、うん、そうだね」


 なんだろ、ちょっとドキドキする。


「改めてよろしくね、ヨジロウ、メロリ」

 メロリがうれしそうにわたしの手にすりよってきた。


「今はな」


「え? 今何か言った?」

 ヨジロウが何か言ったような気がして、顔を上げると、ヨジロウは光の玉になって、スマホに戻ってしまった。

「わああ! こんなとこで!」

 だ、誰もいない? 誰にも見られなかったよね?

 周囲を見渡す。見事に田んぼしかない。

 もちろん誰も歩いてないし、車も走ってない。

 うん。田舎でよかった。


 ちょうど人もいないので、メロリにもスマホに戻ってもらうことにした。

 にっこり笑って、光の玉になってスマホにもどっていく。

 アプリを立ち上げると、田んぼの前でトコトコ歩くメロリと、屋根の上で丸くなったヨジロウがいた。

 こうして見ると、ふたりとも本当にかわいいんだけどなあ。


 夕陽を見ながら、わたしは少しだけワクワクした気持ちになって歩きだす。

 なんだろう、これからちょっとだけちがう、新しい毎日が始まるような、そんな気がしてた。

 ヨジロウと、メロリと、もえちゃんとナツメさんと。

 これからきっとどんな不思議で、大変なことが起こっても、一緒ならきっと、大丈夫だよね?


 夕陽が照らす、白花はっかの町は、今日もきれいで、少しだけ夏のにおいがした。


 これからよろしくね、わたしのシキガミさまたち!

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わたしのシキガミさま! 祥之るう子 @sho-no-roo

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