第36話 ラストボール!甲子園三連覇!そして。

甲子園。そこには全ての球児達の夢があり、それを楽しみに見に来る

大勢の人達を集める場所。そこに凍夜達、地区大会を勝ち上がった

強者が集う。


この二年間、過去最高の盛り上がりを見せている甲子園。それも

凍夜という世界一の球児が現れたからだ。今では世界中の野球

ファンが凍夜に注目をし、球団を持っている全ての関係者も彼に

注目をしていた。来年、今年のドラフト、もしくはメジャー挑戦

などプロも騒いでいるからだ。


凍夜達、碧陽は三日目に登場する。碧陽以外でも今年は注目校が

多く、さらに盛り上がりを見せる。


そんな中、凍夜にある異変が起きていた。甲子園が始まった夜。凍夜は

苦しんでいた。幸い、誰もいない場所だったので、凍夜は見つからない

様に、地面に横になった。


「まさか、もう限界なのか?この苦しみは尋常じゃない。くそ」


凍夜はしばらく動けなかった。しかも、血を吐くほどの苦しみが

しばらく続いた。なんとかおさまり、ホテルに戻る。洋子達

にばれないようにいつも通りにしているが、まだ胸の苦しみは

少し残っていた。


凍夜は次の日、早苗に報告しに病院に行った。


「試合に出るなと」

「ええ。何もしてない状態でそんな事があったら、試合になんてとても」

「大丈夫だ。今はおさまってる」

「今はでしょ。もし、投げてる時に倒れたら」

「それでも、それでも俺は試合に出る。あと少しで、甲子園三連覇を

あいつらと達成できるんだ。絶対、倒れない」

「わかったわ。でも、少しでも様子がおかしかったら、試合中でも

私は止めに入るから」

「ああ。それでいい。俺はまだ倒れん。絶対優勝するまではな」

「本当に変わったわね。今のあなたは生きる力がある。だから、私も

医者として、そして、親として全力で見ていくわ」

「ありがとう。母さん」


凍夜は初めて、早苗を母さんと呼んだ。そして、凍夜達碧陽が

甲子園三日目に登場する。


スタンドには碧陽全校生徒と、地区大会で戦った風花達や、野球女子

達の翔子と加奈子達も見に来ている。

球場は超満員、マスコミも多く、世界中が今甲子園に注目をしている。


試合の時間になり、両校の選手がベンチ前で円陣を組み、声を出す。

グラウンドに向かう両校。盛大な拍手喝采が起こり、あいさつを

し、そして、マウンドには凍夜が上がる。凍夜は自分から今回は

全て先発で出ると洋子に志願した。その時いた遙やマネージャー達

からは反対されたが、凍夜が初めて洋子達に頭を下げたのだ。


それを見て、相棒である遙が、押してくれて洋子達も凍夜の意思を

尊重し許可を与えた。


そうしてマウンドに上がった凍夜。今まで地区大会では抑えに

回ってたので、ここでもそうだろうとファンやマスコミは

思っていたが、凍夜がマウンドに上がり、先発だとわかると

歓声が沸いた。


その凍夜の第一球、体をひねり、そしてトルネードで投げた。そう

いきなり超速球を投げたのだ。当然、相手は一球も打てず

凍夜は久しぶりに完全試合を成し遂げた。


試合が終わった後、凍夜は一人、ホテルを離れ、少し離れた

小さい公園にいた。そこで、また凍夜は苦しみだした。


「やはり無理か。もう、限界だな。でも、ただでは死なん」


しばらく倒れこんで落ち着いてからホテルに戻った。そうしてときどき

豪雨等で中断したりする事もあったが、進んで行き碧陽も凍夜が

連投し、勝ち上がって行った。


そして、ついに凍夜達は決勝まで来た。決勝前夜、凍夜は別のホテルに

居た。そこにはめぐみとゆいもいた。二人は決勝だけを見に来たのだ。


「本当に出るの?」

「ああ。俺はこの為に生きて来た。ここで出なかったら今まで

なんのために野球をやってきたのかわからんからな」

「そうね。でも、できれば生きてほしい。私と、この子の為にも」

「俺も死ぬ気はない。生きて優勝を持ち帰る。そして、プロに行って

お前達を楽させる」

「ありがとう。じゃぁ約束しましょ。絶対生きて帰るって」

「ああ。必ず帰ってくる。ゆいが俺の名前を呼ぶ前では死なん」


凍夜はゆいを抱きかかえた。この日はめぐみ達と一緒に眠った。


決勝当日。甲子園は朝から長蛇の列やマスコミ、さらにはヘリ等も

飛んでいて、今までにないおそらく今、世界一盛り上がっている

場所になっていた。


その主役の凍夜達碧陽は今までにない緊張をしていた。控室、そこで

凍夜以外の全員が緊張をしている。そこに洋子が話しかける。


「皆、緊張してるわね。当然ね、これだけ騒がれてたら」

「そうですよ。本当にこんなに注目されるなんて」

「ああ。一年の時にはただの部活だったのにな」

「そうそう、最弱なんて呼ばれてたしな」

「そうね。でも、今のあなた達は最強よ。それも、凍夜君が

居たからだからね。ありがとう凍夜君」

「礼を言うのは俺の方だ。あの時の俺は絶望の中にいた。生きる事に

なんの意味ももたず、すぐに死にたいと思ってた。そんな俺と一緒に

野球をしてくれてありがとう」

「!?」


凍夜が素直にお礼を言ったのに遙達は驚いた。


「凍夜、礼なら優勝してからだ」

「ああ、俺達が三連覇して日本の歴史に名を残そうぜ」

「ま、残るのは凍夜だけだろうがな」


緊張していた部員達も笑いながら話すぐらいになった。凍夜も

普段の無表情とは違い、笑いながら話していた。


そうして、時間になり、決勝が始まった。


当然、凍夜がマウンドにあがり、初めから超速球を投げた。

打者でも、一番で出て、初球ホームランをするなど、途中

まで、凍夜の独壇場になっていた。しかし、凍夜は自分の

体の異変に気付いていた。


普段かかない汗を出したり、息を切らしたり、心臓が苦しみだしたり

今にも倒れそうな状態だったが、それをばれないようにいつもの

表情で動いていた。


それを、早苗はスタンドからでもわかっていた。一緒に変装を

しているめぐみと話していた。


「まずいわね。あの子、止めた方がいいかも」

「え!?じゃぁ」

「ちょっと様子を見にいった方がいいかも」

「あのお母さん」

「何?」

「最後まで、彼には声をかけないでほしいんです。少しでも私達が

行くと、不安にしてしまうかもしれないので」

「それでいいの?もし、本当に何かあってから遅いのよ」

「わかってます。でも、あの人なら大丈夫です」

「わかったわ。なら、最後まで見守りましょう」


めぐみに言われた通り、早苗は最後まで凍夜に話かけないように

した。しかし、それが間違いだったかもしれない。


3対0で碧陽がリードをして、最後の9回にやってきた。


凍夜がマウンドに上がるのを全ての野球ファンが見守る。その

凍夜は立っているのがつらくなってきていた。もちろん、誰にも

苦しいとは言わず、そのまま上がった。


そして、二人をアウトにし、最後の一人になり、球場もそのコールが

鳴り響く、一度、遙がマウンドに行き、凍夜と話した後、戻り

ミットを構える。あと一人コールが鳴りやまない中、凍夜は投げた。


超速球で2アウトを取り、あと一つで優勝にまで来た。しかし、凍夜はもう

限界だった。息を切らし、汗を流し、体が動こうとはしなかった。


「苦しい。今にも吐きそうだ。心臓も飛び出るくらいの鼓動をしている。でも

あと一球だ。あと、一球で優勝だ。これを投げれば楽になる。そうすれば

めぐみ達と遊べる。ゆいを抱いてやれる。行くぞ、これが最後の一球だ」


凍夜は動かない体を無理に動かし、トルネードで超速球を投げた。


その超速球は遙のミットに吸い込まれ、そして、試合が終了し、凍夜達

碧陽が優勝を決めた。


だが。


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