第35話 最終回へ向けて!

早朝、凍夜は誰より早く学園に来ていた。甲子園が終わり、夏休みも終わって

二学期が始まっている時期。凍夜はいつもこの時間に洋子が来るのを知って

いたので駐車場で待っていた。車が一台やってきて下りて来たのは洋子だ。


「あらっ!珍しいわね。こんな所にいるなんて」

「ああ、ちょっと監督に相談したくてな」

「相談?」


凍夜達は校内に入り、誰も来ない資料室に入って、そこで凍夜は洋子に

これまでの事を話した。


「まさか、あなた達がそんな事になってるなんてね」

「黙ってて悪かった。あんたには言おうと思ったんだが」

「ま、そうね。でも、教えてくれてありがとう。それで、プロになりたいの?」

「なりたいと言えばウソだな。だが、今の俺が稼げるとしたらそれしかない

からな」

「そうね。日本のプロじゃ無理でもアメリカでトライアウト受ければ

すぐに入団はできるわ。まぁすぐと言っていも何日かはかかるだろう

けど。でも、あなた一人でアメリカに行くの?」

「それなんだよ。あいつらを置いていくのはと思ってな。本人は

気にしなくていいって言ってくれるが」

「心配なのね。本当に変わったわね。最初のあなたとはまるで別人ね」

「そうだな。俺自身でもそう思うさ。だから今は生きる意識を

持つ様になった。でも、何をしても俺はあと一年もつかどうかだ。だから

その間にあいつらに楽させればと思ってる」

「できるなら、あなたの変わりになってあげたいけど、それも不可能な

事。どうにかしてあなたが生き延びれる事ができれば」

「俺はどうすればいい?今は監督で大人のあんたに頼るしかない」

「わかったわ。だけど、私のはあくまで参考程度に思ってね。最後に決めるのは

あなた自身なんだから」


そう話し合ってから二人は朝練に向かった。凍夜はその間も迷っていて

部活でも、教室でもずっとぼっとしていた。


放課後、家に帰る途中で凍夜はファミレスによった。たまに一人で

食べにくる事もあるので、周りを気にせず店に入る。もちろん

帽子や眼鏡をして変装はしている。


メニューを選び待っているとテーブルに置かれていたチラシを

見た。


「アルバイト募集か。そういえば、バイトしてるやつもクラスに

いたな。それでも稼ぎには入るか」


凍夜はそのチラシをもらい、店を出て、帰る間に本屋に寄ったりもした。

家に帰り、めぐみ達と食事をする。その時に凍夜がめぐみに相談する。


「バイト?」

「ああ。向こうに行くのはしんどいからな。だったら、ここでバイトでも

して少しでも稼げればなってな」

「私はそれはしてほしくないわ」

「どうしてだ?」

「……あなたは今、世界中から注目される選手よ。その期待には応えて

上げてほしいの。もちろん、できないかもしれないけど、それに、稼げ

なくてもいいから。私は、最後まであなたが野球をしていてほしい。他の

事に手を出さず、ただ野球だけをしてほしい」

「めぐみ」


部屋に戻ってからずっとベッドで横たわる。凍夜。めぐみに言われたら

そうするしかないと思った。それがめぐみにとって一番喜ばしい

事だからだ。

それなら凍夜はプロにはいかず、このまま三年間碧陽で野球をし、生きてる

間に甲子園三連覇をするという目標に切り替えるのも悪くないとも

思って来た。


そうして、凍夜はその考えを相談していた洋子にも伝え、これから

また悩んだら相談に乗ってほしいと伝え、洋子も承諾した。


二年目の二学期、学園祭もスムーズに進み、去年と同じ事をしたが、去年より

も盛り上がって、凍夜は普通に学園祭を堪能した。その際、部員達から

バンドをしようと誘われ、凍夜はそれを受け入れ、学園祭のステージで

キーボードと、ピアノをソロで演奏し、また話題を呼んだ。


秋大でも、何の問題もなく優勝し、次は春のセンバツに向けて動きだす。

その間に凍夜達も三年生になった。凍夜はそれまで倒れる事なく試合も

し、めぐみに言われた通り、野球だけをする事にしていた。


それからセンバツも優勝し、地区大会も勝ち、そして、二年連続の

春夏連覇、そして、三年連続甲子園優勝をかけて、凍夜達の

三度目の甲子園が始まろうとしていた。


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