第3話 スノードロップのステンドグラス
中学校1年生の夏休みまでは、私と梨華はけっこう一緒にいたと思う。
梨華が私のいた小学校に転入してきたあの日、午後から降り出した雨の中、傘もささずに帰ろうとする梨華を呼び止めて、梨華のうちまで一緒に帰った。すでに梨華の洋服もランドセルもびちゃびちゃに濡れていて、私の体は半分になった傘のせいというより、梨華に触れた部分から次第に濡れていった。
触ったらうつる病気みたいに。
いわれたままに道を歩き、着いた梨華のうちは一戸建てで、玄関のドアにステンドグラスが嵌め込まれていた。
もしよかったら学校のこと教えて、と梨華に頼まれて、思いがけずにおじゃますることになった。学校が終わったら、今日は図書館に行くことになってたのを思い出したけど、小学3年生の私にとって、同級生の家も図書館もそうたいしてかわらなかった。マンション暮らしの私にとって、一戸建ての家が珍しかった、というのが単純にその理由だ。
梨華、もうお友達ができたの、とにっこり笑う梨華のお母さんに出迎えられた。梨華は何か英語でお母さんに話しかけていて、おお、外国人、と子供心に思ったのを覚えている。
早口で文句を言っているらしいのはその口調で分かったけれど、濡れた靴を玄関に脱ぎ捨て、靴下も脱いで、そこでとまらずに廊下を歩き始めながらTシャツもスカートも脱ぎはじめたのには驚いた。優しそうな梨華のお母さんもさすがに眉をしかめて梨華を叱ったけれど、英語だからなんと言ったのかは分からなかった。
ごめんなさいね、あらあなたのお名前もあの子教えてくれなかったわ。梨華のお母さんの顔は梨華によく似ていた。あたり前か。千原芽衣です、と自己紹介すると、どうぞ上がっていって、もしよかったら学校の様子を聞かせてくれないかしら、と客間にお茶を用意してくれた。
私を誘う言葉は、母娘でまったく一緒だった
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