第4話 Knit Knit Knit !

 中学校1年生の夏休みに、わたしと芽衣の関係は少し、変わった。


 小学生の頃、芽衣は時々うちに遊びに来た。


 スマホは中学生になってから、といわれていた。だからできるゲームは限られていたけど、わたし達はゲームをして遊んだ記憶がない。いや、あったかも。二人分のコントローラーで、画面の中、テニスをするゲーム。


 芽衣にめちゃくちゃセンスがなくて、ぜんぜん続かなかった。どうしよう、って思ったけど芽衣が上手くなるまで修行する、なんてマンガに出てくるみたいなことを言って。しばらく芽衣が一人で遊んでいたけど、おもしろくないからわたしがもうやめようよ、って言って止めさせた。怒るかと思ったら、そうだね全然面白くない、って。だったらもっと早く止めれば良かったのに。


 芽衣にはそういうところがある。


 何をして遊んでいたんだろう。お菓子作り?そう、ママが言い出してホットケーキをつくったりクッキーを焼いたことはあったかも。でもそれはスペシャルな日。そうじゃなくて、特別ではない普通の日、わたし達は何をして遊んでいたんだっけ。あの年ぐらいの他の子たちは、友達とは何をして遊んでいたのだろう?


 冬のある日、二人して毛糸を絡ませながらマフラーを編んだことがあるけれど、あれは遊びにしては二人とも、むきになり過ぎていたと思う。ママが、中途半端だからあなたたち、自由に使っていいわよ、と、ほんとうに中途半端、同じ色が2玉もないバラバラな毛糸玉をどっさりよこした。


 わたしはビビットなピンクと水色、そしてやわらかな灰色を取り出して、芽衣は茶色と紺と黒の毛糸玉を手に取った。なにそのセレクト、って言ったら、なにその"セレクト"って、って返された。ママがいちばん簡単な編み方、といって、かぎ針1本でできる編み方を教えてくれた。ほんとうに簡単で、わたしと芽衣はすぐむきになって、今日残りの時間でどれだけ編めるのか、ひたすら作業に没頭した。


 お互い競い合っていたわけではない。ベッドを背もたれにして座り、ただもくもくと。あまりにも静かなわたし達の様子を心配して見に来たママが、電気もつけずによくもまあ、こんな暗いところで編み物なんか!と大声で呆れた。


 限界を試したかっただけ。そう、そんなところがわたしと芽衣は似ているのだ。

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