第21話
朝の渋滞に巻き込まれた天音と菫。
ゴールデンウィーク初日とあって天音たちと同じように行楽地を目指す人と世の中の休日とは関係なく仕事に向かう人、それぞれが入り乱れて普段以上の混雑が生まれていた。
焦る気持ちを抑えてハンドルを握る天音。優亜からは電話で「気をつけて来て。」と言われているので幾分か気分が軽くなった。
「やっと動いてきたね」
助手席に座る菫は特に焦った様子もなくのんびりとしている。時間にルーズという訳ではない。性格の違いである。菫は大らかな性格で物事にあまり動じない性格で、天音はそんな菫を羨ましく思うことがあった。
「よかったッ!みんなを待たせてるのが申し訳なくて」
「天音ちゃん、大丈夫だよぉ。みんな怒ったりしないから。優亜先輩も怒ったりしてなかったし。むしろ、心配してくれてたよ〜」
「心配してもらうのもそれはそれで申し訳ないんだけど」
しゅんとした天音の頭を菫は前を向いたまま、ぽんぽんと優しく撫でた。
やっと渋滞を抜け切った天音の車は集合時間を30分ほど遅れるかたちで翔陽大学に到着することになった。
「お疲れ様。大変だったね!」
天音たちの遅刻を責める者は居らず、皆到着を歓迎すると待たせていることに責任を感じていた天音は温かく迎えられてやっと胸を撫で下すことができた。
「お疲れ様です。皆さん、お待たせしました!」
皆が合宿を楽しみにしており、天音たちの到着を待ちわびていたのだ。優亜が代表して天音と菫に声をかける。車から降り、皆に軽く頭を下げて荷物を積めるようミニバンの後部を開ける。
「優亜先輩、真姫奈さんは来てます?」
すると優亜は離れた所の駐車スペースを指差した。
「まきちゃんね。あの子、いつの間にかしれっとあそこに車止めて寝てたみたい。来てないと思って鬼電したらブチ切れられた!」
そう愉快そうに語る優亜に本人は気にしていなさそうだが少し同情してしまう。心配してかけてきた電話にブチ切れる真姫奈もアレだが、多分優亜もかなりしつこく電話したのだろう。それも悪ノリしたに違いない。困った先輩たちだ。
「じゃあ、私たちが最後ってことですね」
「うん。これで全員だね」
全員揃ったことを確認し合い、優亜と菫はそれぞれが乗る車の割り振りを開始した。菫たちの遅刻は不可抗力とはいえ、時間が押している事実は変わりないためテキパキと行動する必要がある。
「そっちの車に誰が乗るかは任せるよ。わたしはとりあえず寝てるまきちゃんを起こしてくるから。あの子、酒癖と寝起きは最悪なんだよねー」
「酒癖はまぁそうですね。そんなに寝起き悪いんですか?」
「起きちゃえば大丈夫なんだけど、起きるまでがながいんだよ。前、まきちゃんちで飲んだ時なんか授業あるのに全然、起きないからディープキスかまして起こしたよ。あとで引っぱたかれたけど」
寝起きに優亜にディープキスをされて起こされる姿を想像し、その強烈な光景に菫はなんとも言えない顔をする。
菫の表情も優亜にとって特に気にする要素は皆無なため、「眠るお姫様を起こすにはやっぱりキスが一番でしょ」と、こちらに投げキッスを寄越して眠り姫のもとへと小走りで駆けていく。
その数秒後、真姫奈の悲鳴と頬を張る乾いた音が響いた。
「なんか凄い音しましたけど、大丈夫ですか……?」
「良い子は気にしなくて大丈夫です。それじゃあ、車の割り振りをするから一旦集まってー」
心配そうに尋ねてくる出雲に菫は笑顔で大丈夫だと言い切って、車の割り振りの指示を出す。
「荷物の積み下ろしに男の子の力を借りたいので2人は別々の車にお願いしたいです。女の子は───」
最終的に車の割り振りは、天音の車には菫、凛、出雲、奏鳳。真姫奈の車に優亜、時雨、チェルシーとなった。
遅れはあったが無事にそれぞれの車が目的地を目指して走り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます