これが僕らの青春です。

第7話

参加メンバーが全員揃い、飲み物も行き渡ったところでサークル代表である優亜が立ち上がった。

｢よーし、全員揃ったところで新入生歓迎会を始めたいと思いま〜す。今年はなんと5人の1年生が入ってくれました！新入生の皆さん、入学おめでとう！そして、賢人会へようこそ！それではかんぱーい！！｣

｢｢｢｢｢｢｢｢かんぱーい！！！｣｣｣｣｣｣｣｣

皆が一斉にグラスを掲げた。

新歓が始まると一気に賑やかになる。近くの人同士で雑談したり、料理に手をつけたりと思い思いに楽しんでいる。

聞いていた通り、男はふたりだけ。あとは目の保養となるような美人と呼ぶに相応しい先輩と同級生ばかり。ある種の桃源郷がここにはあった。

大学生の飲み会というものは普通ならもっと男臭いものだ。女子の先輩や新入生は意外と少ないなんてことはよくある。

新歓というものは少ない女子を奪い合う男たちにとっての狩場なのだ。男（ケダモノ）たちはほぼJKな新入生を狙い、繋がりを作ることに躍起なり、まだ見ぬポイントの高いカノジョを求めて奮励努力するのだ。

だがここはエデンの園。そのような醜い争いとは無縁だった。

｢彩峰くん、嫌いなものとかある？ないなら適当に取っちゃうけど｣

｢あっえっと、ありがとう。とくに嫌いなものはないので｣

｢加藤くんは好き嫌いは大丈夫？｣

｢おっ、サンキュー！俺も特にないから大丈夫｣

唐揚げや枝豆を小皿に取り分けて凛と時雨の前に置き、自分はサラダを皿に盛っていた。

◇◇◇

加藤時雨は心底、ご満悦であった。というのも、前も横も可愛い女の子ばかりで先輩に同級生皆、魅力的。普段なら彼女らを眺めることすらはばかられるが、今は違う。初対面に等しい先輩や同級生の顔や身体をしっかりと見て覚えても誰も文句は言わないのだから。

正面に座る優亜は小柄で幼く見えるが、全体的に引き締まっており、スポーツの経験者なのではないかと時雨は睨んでいた。そして、Fカップと立派なものをお持ちで、その存在感は圧巻の一言に尽きる。

隣に座る出雲は160以上はあるだろう身長に長い手足、モデル顔負けの整った顔立ち。そして目を引くのは腰まで伸びる流れる様に艶やかな黒髪。さらにEカップあるという多くの要素を詰め込んだ夢と希望のよくばりセットである。

優亜の隣に座る真姫奈は黒髪を肩口辺りまで伸ばしたナチュラルストレートの髪型と落ち着いた物腰によってメンバーの中では一番大人びている。優亜や菫が童顔なため、保護者にも見える。こちらも出雲と同様女性としては高めの身長で、切れ長な目にスッと通った鼻筋とシャープに整っているためクールな印象を受ける。クールビューティーといった感じである。ちなみに時雨の見立てではD手前のCである。

その真姫奈の隣には幹事役の菫が座っている。菫の第一印象は優しいお姉さんという感じだが、見ていると意外と天然なのではないかと思うようになった。先程も間違えて隣の人のビールを飲んで苦さに顔を顰めていた。優亜や真姫奈は後輩というより妹の様に接している。周りから好かれやすいのだろう。

彼女も引き締まっているが優亜よりさらにしなやかな筋肉の付き方をしている。時雨は剣道に打ち込んでいた自分に近いものを感じた。身長は優亜と真姫奈の間くらいで胸は真姫奈より少し小ぶりといったところか。

そんな風にひたすら女の子たちの分析をしていると菫のよく通る声が響いた。

｢それでは皆さん、お楽しみのところすみません。今日は全員による初顔合わせということで1人ずつ自己紹介をしてもらいたいと思います。順番はそうですね。優亜先輩と加藤くんがジャンケンして勝った側からということで｣

指名された時雨と優亜が立ち上がった。注目がふたりへと集まっていく。

｢負けないよ〜｣

｢負けたいよ〜｣

同じことを言っているようで全く逆のこと言っているふたりの姿に笑いを誘う。

｢それでは、行きましょう。最初は、グー。｣

｢｢ジャンケン、ポン！｣｣

｢｢あいこでしょ！｣｣

｢｢あいこでしょ！｣｣

｢がー、負けた〜｣

｢勝った〜｣

悔しがっているようで悔しがっていない時雨と嬉しそうに両手をあげる優亜。こうして、優亜から自己紹介することになった。

｢それじゃ優亜先輩から自己紹介を。次に加藤くんで真姫奈先輩という感じで交互に自己紹介ということで｣

｢いや、ジャンケンの意味！！1年生が先か。先輩方が先かを決めるジャンケンじゃなかったんですか！？｣

｢初めに自己紹介する人を決めるジャンケンです｣

皆が一斉に吹き出した。

何のためのジャンケンだったのか。場を盛り上げる為か、ただの天然か。菫の場合、どちらも有り得た。とりあえず、場の空気は温まった。

｢それでは、優亜先輩から自己紹介よろしくお願いします｣

菫が優亜へとバトンを渡すと菫から優亜に注目が移る。

｢それじゃ、2・3年はいつも。1年生は入学式の日に全員と会ったかな。賢人会代表の社会学部社会学科3年、仙洞 優亜です。好きなことは料理かな。昔はバスケしてたからスポーツもそれなりに。メンバーが増えたから皆で旅行とか行けたらいいなと思ってるんでよろしく〜｣

またバストサイズ云々などとんでもないことを言うかと思ったが、意外とまともな自己紹介だった。料理が趣味という家庭的な一面にも少し驚いた。お酒を飲むと逆に真面目になるのかもしれない。

優亜の次は時雨の番だ。時雨が立ち上がると180cmはあるため、皆が見上げる格好となる。

｢どうもはじめまして。社会学部社会学科の1年、加藤 時雨です。加藤って苗字は珍しくないので気軽に時雨って呼んでください。皆さん首が疲れると思うのであえて長めに｣

そこでどっと笑いが起きた。何人かはなんだよとツッコミを入れる。なかなか上手い掴みだ。

｢では、改めて。好きなことというかもう日課なんですけど、中学生まで剣道をやってたんで運動がてら素振りを毎日してます。あと、美術館巡りが好きで休みなんかは展覧会とかよく行きます。身体を動かすとボランティアに興味があるんでそっちのサークルと掛け持ちになりますがよろしくお願いします｣

｢美術館巡りとボランティア、似合ってないぞ〜｣

｢そこ、似合わないとか言わない！｣

優亜がちゃちゃを入れるとすぐさまツッコミをいれる時雨。ふたりのやり取りにまた笑いが起きる。

｢次は私ね。何人かの1年生には挨拶したけれど、はじめましての子もいるので、改めて社会学部社会学科3年鷹藤 真姫奈です。優亜みたいに緩くないから面白みがなかったらごめんなさい。私も芸術全般が好きだから時雨くんとは趣味が合いそう。賢人会は女の子の比率が高いから男の子がいるのは何だか新鮮。1年生の皆さん賢人会へようこそ。歓迎します。こんなところかしら｣

｢まきちゃん、緩いってどういう意味かな？｣

｢それはスイーツ(笑)的な｣

｢甘くて美味しいってこと？｣

うん、わかってらっしゃらない。誰も何も言わないところをみるとこれが平常運転らしい。しれっと、毒舌な真姫奈と全く堪えない優亜と3年コンビはビターアンドスイートと言った感じでなかなかいい味をだしている。多分だが真姫奈はSだろう。優亜をからかう姿は実に楽しそうだ。

そして、出雲の番がやって来た。この子もどんなことを言うのか気になる。すでに優亜に乗っかり、バストサイズ公表を断行したという前科がある。意外とやらかすのだ。

｢彼方出雲、文学部英文科1年です。よろしくお願いします。まずは好きなこと、趣味ですよね。バイクへ乗ることと朝のランニング、あと文学部ということで読書も好きで1日1冊読むよう心がけています。先日、彩峰くんとタンデムでツーリングして楽しかったので、また行きたいですね｣

やはり爆弾は投下された。全員の視線が一斉に凛へと集中する。今日は何かと衆目にさらされる日だ。凛はあえて気づかぬフリをしてウーロン茶を啜った。今すぐに酒がほしい。シラフはキツい。キツすぎる。

恐る恐る出雲をみるとねっ？みたいな感じでウインクしてきた。さらに視線が強まるのを感じたが、凛はとにかく無言を貫いた。

とんでもない空気を作り出した張本人は一礼して腰を下ろすと、サラダを食べ始めた。

(おいー、せめて何か弁明しろー！！)

凛の魂の叫びは誰にも聞こえることはなかった。

変な空気を打開すべく立ち上がったのは頼もしき幼なじみの菫であった。

｢───次はわたしですね。今日の新歓の幹事を務める社会学部スポーツ社会学科2年の相川菫です。よろしくお願いします。今までわたしたち2年が1番下だったのでこんなにたくさん後輩ができてうれしいな。趣味はかわいい小物集め。それとギターとベースが弾けます。賢人会の活動で演奏会とかできたらいいなって思ってます。以上です｣

菫の自己紹介が終わった。出雲の何気ない一言によって注目を集めた凛だが、やましいことは特にないのでスルー。ここは黙ってやり過ごしたい。やり過ごしたいのだが、次は凛の番だ。