第26話 地底に月
俺とグヴィンが双頭犬に跨り地下回廊を進んでいく間、夢魔エンプーサのヴァンタユ・エペが盛んに話しかけてきた。
彼女は、見事な太くそそり立つ2本角を持つ濃紺の馬?に乗っている。
先端が少し外側へと開いて伸びたその角は、頭近くでは間隔の狭い螺旋に捩れ、先端へ向かうほど真っ直ぐに伸びている。長さは1m近くありそうだ。
角を含め姿形は馬というよりは頸部に肉垂れがないジャイアントイランド(ウシ科ブッシュバック属)といった感じだ。足こそ長いが牛のようにお腹周りがちょっとぽってりしたところなどもそう思う。
これがこの世界のバイコーンらしい。自分はもう少しスマートなサラブレッドのような姿で、アイベックス(ウシ科ヤギ属)のように後ろに反り返る大きな角のイメージを持っていた。
純潔を穢す不純な存在とされるバイコーンが乗騎というのがエンプーサらしいか。
そもそも俺もグヴィンもこの妖しいお姉さんに対し無茶苦茶警戒している。
一つ、冥界の月神ヘカテーに仕え、その命で旅人を喰う。
一つ、眠っている男に悪夢を見せながら吸血や吸精をする。
一つ、その名の起源の一説に「雌蟷螂」とあるように、男を誘惑し交わった後、喰い殺す。因みに名前の他の起源の説には「力ずくで押し入るもの」なんてのもある。
こんな感じでエンプーサについて旅の伴侶として少しも安心できない予備知識を二人とも持っていた。
そんなこと知ってか知らずかまるで構わず、ヴァンタユは、やれ前を行く冒険者のオーガは見かけだけだだの、隊商の商人が腹黒で護衛士達とごたついているだの、微妙に役に立つのか、嘘なのか本当なのか、判断のつかないような情報を提供し続けてくる。
ただ、ひとたびこの集団に襲いかかる魔物が現れると、いの一番に飛び出していき、指の長く鋭い鉤爪の一本を、その千変万化の術を使ってか、自分の身の丈ほどある巨大な、光り輝く
集団が
レイスは目元がぼんやり橙に光る暗黒のローブを纏った透けた幽鬼で、大半は邪悪と闇のエネルギーから生まれるが、魔導士の成れの果てであったり、時に自ら望んで不死となった者であることもある。触れるとエネルギーを吸われダメージを受ける。対してこちらの単純な物理攻撃はすり抜けてしまい効果がない。
太陽の光のない地下では非常にやっかいな相手だ。
ウィル・オー・ウィスプは見かけによらず知性がある。この鬼火は他者の恐怖を餌にする。そのために墓地や戦場に現れるのだろう。自分では能動的に戦いを仕掛けないが、攻撃的な魔物に随伴することがある。そして自身は魔法にほぼ完全な耐性を持ち、高所にたゆたいながら姿を隠し、随伴者が誰かを殺すのに致命的なサポートをする。
隊商の護衛士、冒険者達がゾンビの集団に対抗し交戦する。これにグヴィン・ゴヴィンも加わる。
ヴァンタユはレイスとウィル・オー・ウィスプと戦っている。煌めく円月鎌は特殊なエネルギーを持っているのか霊的存在のレイスにもダメージを与えているが、相手が並みのレイスではないらしく、その強力な魔法攻撃に苦戦している。
さらに頭上で青い鬼火が時折姿を現しては、爆発する小さな火球や蒼い稲妻を放って、非常にいやらしいアシストをしているのだ。
俺はキャトルサンクをヴァンタユの支援にまわす。原理はよく分からないが双頭犬のエナジードレインは霊的存在にも効果があった。
俺はハープを構え、自作の「死者のための鎮魂歌」を熱唱し演奏する。味方にアンデッドがいないのは確認済みだ。この場に存在するアンデッドは力が弱まり動きが鈍る。もっと熟練し、存在の弱いアンデッドであれば、消滅するらしい。
歌の効果あってかゾンビ集団を打ち破り、ヴァンタユとキャトルサンクがレイスを撃破する。
そして…、姿を消したウィル・オー・ウィスプが、突如、明るい光とともに俺の目の前に現れた。青く輝く鬼火はカタカタと振動し音を出す。
「ヨ・ロ・シ・ク」
それはたしかに共通語だった。どうやら旅の伴に加わるようだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます