第19話 poet

「キュラとグヴィンに折り入って頼みがあるんだけど…。

 魔道書探し手伝ってもらえませんか!

 報酬は後払いになるけど必ず稼いで払うから…。いくら払えばいいのかもわからないけど。」


 夜、ガブリエスが俺達のために用意した部屋で、ツナツルに膝をつきこうべを垂れて頼まれた。


「そんな恐縮しなくても、初めからそのつもりだけど。キュラは?」


 グヴィンがさも当たり前のように自然に言う。

 こいつ絶対イケメンなんだ。


「俺もそのつもりだよ。どうせ彼方此方の都市やら廻ろうと思ってたし。

 そんな畏まって気にするこたないよ。」


 流されてるところあるけど当たり前に一緒に行くもんだと思っていたからな。



 ツナツルは少し思い詰めた表情でもう一度口を開く。


「何でそんな軽く引き受けるの?

 二人は見てないから知らないだろうけど、あの私を連れ去りに来たデュラハンだって、物凄く怖かったんだよ。声掛けられただけでみんな昏倒して瀕死だったんだから。

 ジョヴァンナだって二度勝てる保証はないって言ってたんだよ。


 私が頼んで、本当に手伝ってほしいのにあれだけど…。

 ―― …しっかり考えてほしい。」



 たぶん、そのデュラハンは、俺もあったことがある、あれだろう。

 確かにやっかいだと思った。


 だが、俺の気持ちは、勝手に溢れ出るよう静かに発せられた。


「俺は元の世界で腑抜けてて…。世間から見りゃお利口に見えただろうけど…。

 やりたいことも、欲しい物も。本当は別で。無理だろうと諦めてて。

 始末の悪いことに気持ちの整理も、納得も、出来てしまってて。

 明日死ぬのも望むところくらいの気持ちでしか生きていなかった。


 そんなの今回のこととは何も関わりないけどね。


 ―― 結局変わらず今も明日死んでも悔いがないままなんだよな。

 そんで引き受けるのは完全に自己満足でしょーもない理由だから。お前が怖い顔して責任感じることないな。」


 我ながら要領不明の恥ずかしいこと言うなよな。ポエマーかな。



「俺は守るべきを守るべきだけ。」


 グヴィン・ゴヴィンが妙な言い回しを静かに呟く。



「二人とも ―― 本当にごめんね。」


 目に少し涙を溜めてツナツルは礼を言った。


 ありがとうでいいんだよ。てか、こいつの声どこかで聞き覚えある気がするけど、まさか知り合いか有名人じゃないよな。照れ隠しかそんなことを思いながら眠りについた。




 翌朝、ガブリエス・チェルチに見送られ、最寄りにあるオーガの都市『オルカツォト』へと双頭犬オルキュロスの馬車を向かわせる。


 一応、魔道書「ヘス・ヲ・ホーソア」を探す旅に出る旨をジョヴァンナに知らせる「魔文」を送ってもらうようガブリエスに頼んだが、当然の如く、細かく長たらしく報告してくれるつもりだったらしい。


 ジョヴァンナから貰ってある地図をあらためて眺めると、やはり地球の地中海周辺に似た地形だと思う。


 ただ、アドリア海がない。


 そのせいで、初めは今一何とも感じなかったのだ。イタリアが長靴の形をしていないから。

 バングヘルムのある位置は地球ではアドリア海の上だ。

 地形については、結局、前に考えた時もそうだが、だからなんだ、となるのだ。

 地球とアンクトンが同じ大陸の地形をしていても、その事実があるだけだ。

 SF的に地球とアンクトンが同じ世界だったみたいなことを考えても、感慨深くなるだけでしかない。感動はあるだろうけど何となく悲しみが多く占めそうだ。


 また機会があれば賢人らしいガブリエスに尋ねるといいだろうか。


 そう思ったところで気付いたが、ガブリエスの口ぶりでは何でも分かりそうな魔道書「ヘス・ヲ・ホーソア」で、そもそもの今回の現象及び元の世界に戻る方法等を調べれば良いのだ。分からないのかも知れないが試す価値はあるだろう。


 もしかしたら、ツナツルが『鍵』だというのは、元の世界に戻る『鍵』なのではないか。それは自分達に都合の良いように考えすぎだろうか。


 ともかく俺たちにも魔道書を探す理由が十分にあった。



 二人にドヤ面して話すと、グヴィン・ゴヴィンにわれた。

 ――「今頃気づいたの。」と言われた。

 俺が恥ずかしげなく自分語り始めたから言わなかったらしい。


 地形の話もついでにしてしまったのだが…。

 ――「我オーストリア人ぞ。」と言われた。

 

 あっ、はい…。でもオーストリアの位置を正確に言えない日本人は多いんだ。

 ツナツルも顔を赤くしてごまかしてたしな。



 肩の上でピクシー、『キティーラ』と命名、だけが手を打ってまで大爆笑していた。

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