第18話 私、気になります

 ジョヴァンナから事情を聞くと早速魔女ガブリエスのもとへと双頭犬オルキュロスの馬車を走らせた。


 海と沼地に囲まれた丘の上にガブリエスの大きな館は建っていた。


 センス良い高級家具を備えた部屋に招かれる。


「ジョヴァンナからの大変細かく長たらしい「魔文」であらましを聞いていますが、まずは自己紹介をしましょうか。

 私は当代のキルケーである『ガブリエス・チェルチ』です。

 貴女とは先祖同士の因縁がありますが、私達には関係のないことでしょう。

 とはいえ、私の心情的に貴女とその仲間のためにはできる限りの協力をしたいと思います。」


 落ち着いた物腰のガブリエスは俺を見つめそう告げた。


 驚きだったが、同じく俺も神話のスキュラとキルケーのことなど自分とは関係ない。気にしてくれる彼女の方が善人なのだろう。魔女だけに言葉通りではないのかもしれないが。


 むしろ、当代のキルケーということに興味を持った。

 つまり、俺が当代のスキュラなのだろうか。他にも同時期に発生することはないのか。

 だが今は俺のことを考えるときではない。


 俺たちは、簡単に自己紹介と異世界から来たということを話した。


 応えてガブリエスは驚いた様子もなく静かに話し始めた。


「まず貴方達には伝えておいたほうが良いと思いますが、つい2日前に人間ヒューマンの軍団に魔境の端にあったゴブリンの町が落とされました。


 ツナツルが狙われたことと無関係ではないでしょう。バングヘルムのジョヴァンナ達が貴方達に気付いたように、他の都市でも早くから異邦人の存在に気付いていました。


 ノイモント・テーテンズィーがどこの勢力として動いたのかは分かりませんが、

ツナツルの危険は続くでしょう。

 何故狙われたのか原因を探ることが解決の糸口です。


 方法として手っ取り早いのは、再度相手が手を出してきたところを虜にし口を割らせることですが、魔法を使っても恐らく無理な相手でしょうかね。


 自力で何かわかるということもあるかもしれません。


 もしくは【鍵】【扉】【門】【召喚】【封印】といったキーワードを頭に浮かべ、魔道書『ヘス・ヲ・ホーソア』を調べれば、答えを得られるでしょう。」



「その魔道書はどこにあるんですか?」


 ツナツルが思わず口を挿む。



「残念ながら不明です。常に世界の書架のどこかに在ることだけは間違えありませんが、一所に留まることがない物なのです。ただ、巨大都市のどこかの大図書館に存在していることが多いですが。洞窟の廃墟の本棚にあったこともあるそうです。」


 俺たちは落胆するが、構わずガブリエスはツナツルへ向け言葉を繋ぐ。


「最後に恐らくジョヴァンナが貴方達をここに寄越した本題ですが、

ツナツルに貴女が既に会ったことのある者にしか貴女だと気付かなくなる魔法をかけましょう。これは顔写真や特徴を照合しようが気付きません。自ら明かせば別ですが。

 効果は貴女がトリガーを使うまで続きます。」


「よろしいですか? 」



 ツナツルが同意すると、魔女ガブリエスは部屋を出ていき、ポーションの類を3人分持って戻ってきた。ツナツルに飲ませると額に手を翳し呪文を唱えた。

 勧められ念のため俺たちもかけてもらう。



 一般教養程度に習ったかぎりだが、この世界の魔法は基本的には、

その日に使う呪文をあらかじめ準備しておく。当然普通は起きて早いうちに準備するほうがよいだろう。

 準備とは自分の内なるスロットに一つずつ呪文をセットする行為らしい。

 拳銃の弾丸を装填するようなものだな。

 同じ呪文を何度も使う場合は、その回数分準備が必要で、呪文レベル毎にその日に使用できる上限がある。

 準備しておいた呪文は最短は精神集中するだけで発動できる。だが術者と呪文によってトリガーとなる動作や発声、媒体等が必要なこともある。

 準備せずにその場で使うこともできるが、その場合は呪文の詠唱が必要になる。当然、その日の呪文レベル毎の使用回数上限を超えることはできない。

 呪文のレベルは0から9まである。


 特殊能力、特殊技能で魔法同様の効果を起こす場合はこの限りではない。



 その晩はガブリエスの館に泊まった。

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