三十九、さみしがり竜
『スミー……スミ』
ハイエナ妖精こと、私の運送主兼パートナーのスミーが隅の方で大人しくしている。
シャレじゃないよ、不可抗力だよ。
ブラックカースドラゴンことコクジュの巨体と凶悪面を見て、気絶することはなくなったんだけど、借りてきた猫みたいになってしまった。
コクジュがいなくなったら、すぐ元気になるんだろうなぁー……。
いい性格してるっ。
スミーのことはどうでもいいや。
とにかく、魔法が属性縛りで覚えられないってのは想定外だったわ。
コクジュとか絶対強力な魔法を覚えていそうなのに。もったいない。
うー、女神の奴め。ホントいい加減な仕事しやがってー。
魔法がダメとなれば、スキルか。
スキルって習得条件があるっぽいけど、本人がそれに準じた動きをしないといけないみたいなんだよなぁ。
ふむ。こうなってくると、私がコクジュからなんか貰って強化作戦は、最初から破綻していたような気がしなくもない。
ダメぽ。なんかダメだわー。
『うーん。コクジュって、ここでなにしてんの?』
『我ハ、
そーっすよねー。
種族の縛りがあるから、コクジュを連れてくこともできない。
妖精からドラゴンに乗り換えはできないのだ。
……うん。私がここでできることは終わったわね。
ここから脱出する方へシフトするとしましょうか。
『ねぇ、コクジュ。ここから出るにはどうしたらいいの?』
『ガ。サッキノ縦穴ヲ昇ッテイケバ、外ニ出ルガ……』
私の質問に、動揺が伺えるコクジュの思念。
なんだ? なんか変なこと言ったかな。
『マァ、マダ来タバカリ、デハナイカ。ソノ、モウ少シ、ユックリシテイケバ』
……ん?
なんか、引き留めようとしてない? この黒呪竜。
よく見ると、ソワソワと翼や尻尾を動かしている。
ドラゴン丸出しの凶悪面が、心なしか焦ったような表情に見える。
まさか、私に出てって欲しくないっての?
『いやー、私がここにいても得にならなそうだし、コクジュにしても邪魔なだけでしょ?』
『邪魔トイウ程ノ事デハナイ。ア、ソノ、貴様ノ異世界トヤラノ姿ヲ、モウ一度見セテ欲シイナ……ナンテ』
うん、確定だわ。
この黒呪竜ただのさみしんぼうだわ。最早キャラ変わってるじゃん。
コクジュがいるこの場所には仲間が沢山いると思いきや、ほぼ全てが闇を纏ったような異形のモンスター達に囲まれている。
よく分からない呻き声を上げながら大量に徘徊しているのだが……あいつら、意思とかなさそうだしな。
ただそこにいるだけの存在なのだろう。
そんな中に、コクジュは一人ぼっち。
人間の魂を持つ私と意思の疎通が行えるくらいの知性を持つコクジュには、ここの環境は苦痛なのかもしれない。
『えー、そんなの見たいの? どっしよっかなー』
『イイジャナイカ、減ルモンデモナイシ』
いや、減るよ?
でも、コクジュがどうしてもってんなら、しょうがないなー。ちょっとだけだぞ?
私は『スクリーン』を詠唱すると、制服姿で華麗に回る。
あくまで映像としての私の身体だけど、操作しているのは私である。
やっぱり身体があるって素晴らしい。擬似的に動かしてるだけなんだけど、気分が幾らか高揚するわ。
べ、別にコクジュに見せたかったわけじゃないんだからね。私が『スクリーン』したかっただけなんだから。
『ウム、ウムム、楽シソウダナ。不思議ト、貴様カラハ、人間ノ身体ヲ大事ニ思ウ、強イ意思ガ感ジラレル』
『不思議と、じゃなくて渇望してんのよ。空き瓶にされたこっちの身にも、なってみなさいよねー』
『ムウ、ナントモ、楽シソウダナ』
やたらと食い付いてくるコクジュ。
誰かと話をするのに焦がれていたのかもしれないけど、今度は人間の身体に興味を持ち始めたのか?
それには私も興味があります。興味っていうか、こっちは本気のお願いのやつね。
『……ウム。コウスレバ、良イカ』
なにが、こうすれば良いか?
なにって、私の身体のこと? それとも踊りのことかな? ヘイヘーイ。
勢い余ってステップを踏む。
自由自在よ、私の身体。だって、魔法で創り出した映像だものね。
言っててちょっと虚しくなるけど、これはコクジュにはできないでしょう。
手足はあるどころか翼も尻尾もあるドラゴンだけど、人間の身体のように自在に手足は動かせない。
可動域が決まっているからね。
もちろん人間も可動域は決まっているけども、ドラゴンよりは自在に動ける。
だから人は、人なのよ。
自由な発想で、何にも縛れない。
空き瓶なんて、ガッチガチに身体を固められてますからね。
と言っても、こんにゃくに羽交い締めされてるみたいなもんだけど。
『詠唱構築ハ……』
そんで、ドラゴンがなにするつもりだって?
急に一人でブツブツ言い始めたけど、そんなに話し相手が欲しかったのかしら。
私も部屋で一人でいる時に、よく独り言を言っちゃう方だけど。
でも、私はここにいるよー。
目の前に話し相手がいるのに、一人で話し込んじゃってるのは失礼じゃなーい。
ていうか、ちょっと不気味ですよ。
ぼっちドラゴン過ぎて、透明なお友達と話をする癖が付いちゃってるのかーい?
『……我ヲ呪エ「偽リノ器」』
ん? 魔法の詠唱?
そう思った頃には、辺りに立ち込めた闇がコクジュの身体を包み込んでいた。
あぇ? 雲隠れですか?
巨大な竜の身体を完全に覆い隠した闇は、徐々に体積を減らしていき、あっという間に人間くらいの大きさになってしまった。
なになに? どんなマジックなの?
あのかさ張って仕方のなかったお布団が、こんなに小さく……!
「フム。人間の身体とはこういうものか」
晴れた闇の中から見えてきたのは、一糸纏わぬ姿をした褐色の少女だった。
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