三十八、スキルと魔法

 陽光の届かぬ地底。

 オーグスト大陸の中心の、更に真下の広大なダンジョン……らしい。

 地上から隔絶された空間は、光る鉱石によって僅かな輪郭を見せている。

 その中でも入り組んだ奥の、奥。

 巨大な縦穴から繋がった先には、光る鉱石の密集した場所があった。


『ふーん、ここがあなたの住処ってわけね』


『住処トイウノハ、チョット違ウガ、ソンナモノダ』


 曖昧な回答をよこすコクジュの思念。

 なにかね? ここに住んでるとか、巣みたいな言い方をされるのが嫌なんかい?

 ドラゴンだって寝床くらい必要でしょうよ。

 まあ、私も置かれた棚が「立派なマイホームですね」とか言われたら、微妙な気持ちになるけども。

 要は、厄災ノ迷宮カラミティのどこでも自分のナワバリだって言いたいんでしょ。はーいはい。


『ナンカ、言ッタカ?』


『べっつにぃー』


 おっと、危ない。私の思念が身体の端から滲み出て漏しまったようだ。

 情報遮断情報遮断っと。心を閉ざして自分の殻に閉じ籠るのよ。


 さて、コクジュのお家はどうでもいいんだけど、厄災ノ迷宮カラミティの主とかいう、よく分からない種族にされているこのドラゴン。

 女神が用意したポジション的には、結構な重要人(?)物だと思われる大陸の覇者。

 まだまだ、私の糧になることができるよね?


 この世界の情報はある程度聞けたから、今度は私の身になるものが欲しいなぁ……と言っても、なにか物で貰えるわけではないし、仮に貰ったとしても空き瓶には扱えない。

 ふーむ、ここはスキルか魔法ですかねぇ。


 魔法は新たに創造することができる。

 その資格が各種魔法スキルだと思うのだけど、私は光魔法を最初から覚えていたので、なんとなくな勢いで新たに魔法を創造することができた。

 だけど、本来は魔法を一から創造するのはとっても難しいと思われる。

 何故なら、異世界ここの人達は科学的な観点で、物事や事象を捉えることができないからだ。


 なにもファンタジー世界だからって、全てが魔法的な要素で回っているわけじゃない。私の知る科学や物理法則も、しっかり適用されている。

 万物が地面に真っ直ぐ立っているのは、惑星の重力が作用しているからだ。

 人間が息をしているのは、植物が光合成をして酸素を生み出しているからだ。

 全部が魔力で回っているわけじゃない。

 でも、それらの法則を易々と覆してしまうのが魔法であり、私の知る世界の法則もしっかり組み込まれている世界。それが異世界。


 魔法は世界の大部分をまかなっているけど、その分便利になり過ぎている。

 当たり前過ぎて魔法の原理に意識が回らない。

 魔法は魔法。覚えれば便利。

 私だってスマホの仕組みやネットの構造を考えた事は無い。

 それらを作り出すのは、極一部の技術者だけだ。

 魔法を創造するのは自由だけど、魔法を創造するという発想に至ること自体がまず希であり、実践するのにもスキルという才能が必要となる。


 なので、通常は伝聞や、一握りの賢者が記した記述などから、新たな魔法を獲得することができると思われる。

 そんで、ここからが本題なのだけど、魔法は人からも教わることができる。

 つまり魔法の師匠的な感じで、コクジュからもなにか有用的な魔法を教えてもらえないかという作戦である。



『という訳で、なにか魔法を教えてー』


『ナニガ、トイウ訳デ、カ知ランガ、貴様ノ属性ハ、「光」デハナカッタカ?』


 『思念隠蔽』のお陰で私の意思が伝わってないわ。ちょっと緩和させとこう……。

 こちらを立てれば、あちらが立たずね。

 それはそれで、コクジュったらなにを言ってるのかしら。

 自分で勇者の属性は『光』だ、どうのこうの言ってたくせに、そんなことは分かってるわよ。それのなにが問題なの?

 まさか、勇者と同じ属性の者には、魔法は教えられないってんじゃないでしょうねー。


『イヤ、我ノ属性ハ、「闇」ダ』


『あー、さっきチラッと見えたわね。それがなんなの?』


『「光」属性ノ者ハ、「闇」属性ノ魔法ヲ、覚エル事ハ、デキナイ』


 ……は?


 な、なんですってぇー!?

 なによ、なんだよー。属性違うと魔法覚えられないの? それとも闇属性と光属性の相性が悪いの?


『「光」と「闇」。ソノフタツハ、勇者ト魔王ノ属性ダ。特別ナ属性ダカラ、他ノ属性ノ魔法ハ、使エナイノダ』


 ぬわー。定番のやつきたわね。

 これは、四属性プラスニ属性のパターンね。

 自然を司る四大元素に、善と悪を司る光と闇。

 だいたいどこのソシャゲも、これだけは外さないもんねー。

 じゃあ、コクジュは魔王ポジションなんだ。そりゃあ、勇者と対立するわな。


 ほんで私ってば、空き瓶とかいう珍しい存在なんだけど、全属性扱えたりしませんかね?

 一応、異世界から来た特別な魂なんですけど……。


『全属性ヲ、扱エルトスレバ、ソレコソ女神、ダケダロウナ』


 あ……ですよねー。

 最後のボスは全ての属性を駆使してくるぞ!


 ううむ、どうやら私がコクジュから魔法を教えてもらうことはできないらしい。

 ファンタジー世界にも最低限のルールというか、根幹的な仕組みがあるのね。

 空き瓶が思考して、魔法ぶっ放したりするのにね。


『あ、空き瓶って無機物だから、無属性魔法はないっすかね?』


『ソノ辺リハ、スキルニ分類、サレルテイル』


 あー、なるほど?

 まあ確かに【万物操作】とか明らかに技術というより、魔法だものね。

 私はスキルは技術だからMPマジックポイントを消費しないと思ってたけど、無属性という分類でもいいのね。その辺曖昧というか、いい加減だわー。


 私の光魔法もスキルだったと思うのだけど、スキルが無属性魔法扱い?

 無属性魔法のスキルに分類されている、属性魔法はスキル。へぁ? なんか矛盾してない?


『ソンナ文句ハ、女神ニ、言エ』


 結局、女神がやっぱりダメな奴というのが分かっただけだった。

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