三十七、クリアはワガママを言った!
『勇者、ユウシャ! 勇者ハ、敵ダ! コノ傷ハ、勇者ニ付ケラレタ……我ノ汚点!』
急に興奮しだす容疑者……じゃなくてコクジュ。
もー、そんなに暴れるとまた━━『スミッ!?』飛んできた岩がスミーの頭に落ちてくる。
踏んだり蹴ったりの妖精に、少しは同情してしまった。
ふむ。やっぱり勇者というワードは、コクジュを怒らせる要因のようね。
それも、ポロッと溢してたけど、
どうにもコクジュは勇者に恨みがあるらしい。
勇者は女神の手先だと言う。
そんな勇者に恨みがあるということは、コクジュも女神を良く思っていないのではないか。
それはアンチ女神の私としては大歓迎なのだけど、コクジュは女神から
てことは、この世界の住人は皆が女神を創造主とか、管理者として崇めてるわけよね?
勇者も女神が指名しているんだとしたら、双方の関係図には微妙な歪みが生じていることになる。
『コクジュって女神の気配が忌々しい的なこと言ってたよね。じゃあ、女神のことは良く思ってないわけよね。創造主だか管理者だか知らんけど、そこんとこどうなの?』
『我ハ、最初カラ女神ヲ、良クナド、言ッテハイナイゾ。
なんとまあ、肯定的ではない思念。
ポジション的に仕方ないってニュアンスかしらね。
そりゃあ、学校の担任がいい人かっていうと、そうでない学年もあっただろう。
私達も教室という、狭いながらに確立された世界で、担任という存在の管理下に置かれて過ごしているのだ。
そこに、好き嫌いはどうしても出てくるし、担任は選べない。
教室という枠組みは、世界とは比べものにならない小さな規模だろうけど、身近なところに置き換えれば、根本的な構造は同じなんだろうな。
勇者とコクジュに確執があったとして、それは学級委員長と不良の対立の如く……いや、それだと風紀委員か。
そもそも不良は担任に与えられた役割じゃないし、例えがよく分かんなくなってきた!
けどまあ、そういうことよね。
『じゃあさ。コクジュは、女神を敵対視してるの?』
『女神ハ、敵対視スルモノ、デハノイ。アレハ、事象ノヨウナモノ。個トシテ、捉エルノハ、間違ッテイル』
うわー、ごもっともな回答。
世界の管理者は管理者であって、神様に立ち向かっても天に向かって唾を吐く行為に他ならない、と。
はー、ごもっともごもっとも。
優等生なご意見ですと。
━━でもね。それじゃあ、私は、納得できないのよ。
女神だかなんだか知らないけどね、なにがなんだか分からないうちに、空き瓶にされた身としては、たまったもんじゃない。
コクジュへの扱いや、勇者を使った企みを鑑みると、私への仕打ちも納得できるような気がする。
つまり、この世界の管理者は腐っている。
私が女神に復讐するのは私怨だけれど、もっと他の大義名分がありそうなのよね。
元々、
うーん。そんなおかしな事ってば、ぶっ壊してやりたくならない?
『じゃあさ、コクジュ。もし、コクジュに勇者と戦う機会があったとしたら、今度はぎゃふんと言わせてやりたいよね?』
『勇者ハ、許サヌ! 我ノ迷宮ニ、勝手ニ入ッテ来テ、我ニモ、手傷ヲ負ワセタ!』
うーん、それって勇者がダンジョン攻略に来たってだけなんじゃ……。
コクジュって、ここのボスみたいだから、当然の流れと言えば当然の流れよね。
でも、そんな役回りを与えているのも女神なわけだから、コクジュの恨みの先は、女神だと思うのよね!
『勇者は女神の手先だから、一番悪いのは女神よね! だから、私と一緒に女神を倒そう!』
ぐふふふ。つまりは、そういうことよ。
圧倒的なステータスを誇るコクジュ。
その役割は一つのダンジョン……ひいては一つの大陸の支配者なのよ。
その彼だか彼女だかを私の味方に引き入れることができたのなら、女神復讐への最高のショートカットよね。
明日にもこの黒呪竜に乗って、頭のイタイ女神の元へ乗り込んでってやるんだから!
『イヤ、ソレハナイ。女神ニ弓ヲ引クナド、時間ノ無駄ダ』
ガクッと、ない筈の膝が崩れた気がした。
『なんでよ!? 一番の元凶よ、元凶! そいつに復讐したいと思わないの?』
『デハ問ウガ、流レル川ノ水ヲ、掬ッテ無クス事ガ、出来ルカ? 日ノ光カラ、全テノ大地ヲ、隠ス事ガ、出来ルカ?』
『な、なによその例えは……』
『女神ニ立チ向カウ、トイウノハ、ソウイウ事ダ。女神トハ、世界ト同義。個トシテ見ル、意味ハ無イ』
ななな、なによ、なによなによ。
なにもかも悟ったみたいなことを言って……この、根性なしがーッ!
ムッキー! 頭にきたわ。
私が、意味ないって言うの? なんだか訳の分からないうちに異世界に連れて来られて、
異世界生活をのんびり過ごしたい気持ちも、もちろんあるけれど、今のままじゃあそれもままならない。
じゃあ、
ううん。それでも、一発は殴ってやらにゃあ気がすまない。
だって、ここまで時間が経っても、私の復讐の炎はこれっぽっちも勢いは衰えていないのだから。
だから、必ず私は女神に一泡噴かす。
それがなけりゃあ、空き瓶なんてやってられないわよ!
『うぬぬぬ、ぬぅー! じゃあ、私の為になんかやって頂戴!』
『ナ、ナンダト?』
厚かましいのは百も承知で、私はこの黒呪竜に頼み込んでみることにした。
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