三十五、お話し合い①

『なによ、気持ち悪いこと言わないでよね! 私が女神の手下だとでも思ってるの?』


 ドラゴンの言葉に、語彙が思わず強くなる。

 全て思念でのやり取りなので、言葉とか語彙とかで合ってるか知らないけど、異世界にしかない意思疎通法だから、表現のしようがありません。

 てことで、言葉みたいなもんだと捉えていきましょう。


『貴様ハ、女神ノ縁ノ者デアロウ。ソウイッタ者ハ、勇者ト呼ブ。勇者ハ、女神ノ手先ダ』


 ほーん、ほんほん。

 なんとまぁ、世界の裏側を知ったような気分。

 私自身が裏側を通って来た存在だけど、やっぱりというかなんというか、この世界の女神は勇者を使って手を回しているのね。

 どうせ、ろくでもない事ばっかやってるんでしょ。

 少なくとも、このドラゴンはその憂き目に遭ったことがあるのだろう。

 彼だか彼女だかの思念を読み取ると、くすぶるような怒りを感じる。


『んー? 私が女神と関わってるのが、あなたには分かるっていうの?』


『アア。女神ノ気配ガ、漂ッテイルカラナ。嫌ナ、トテモ嫌ナ気配ダ。言イ表スノモ、億劫ナ程ニ』


 うぉおーい、年頃の乙女になんてこと言うんじゃーい!

 敏感な年頃なんだぞ。夏の汗ばみ、週後半の体育着。

 お母さん、柔軟剤入れといて!


『イヤ、臭イトイウ訳デハナイ……』


 ドラゴンが気を使った気がした。




『おーい、起きろー。朝だぞー?』


 私はスミーの頬に蓋をぶつけた。跳ね返った蓋は、見事に私の首に戻ってくる。

 凄いな、ブーメランかなんかなの? さすがは女神も絶賛してたスキル。

 空き瓶の蓋を開けたら、閉めるのは当然だもんね。

 貰ったのが女神ってとこだけは腹立つけど。


 それはともかくこの妖精。静かだと思ったら気絶してやんの。

 まぁ、間近にドラゴンの凶悪顔が迫って来たら無理もないか。


「スミッ? スミー……スミィイイ!?」


 あ、目覚めたと思ったらドラゴンの顔を見てまた気絶した。

 もうコイツは放っておくか。

 私としてはただの乗り物だと思ってるから、ドラゴンさんとのお話し合いには参加しなくても大丈夫です。


 そうなんです。実はこの度、ドラゴンさんとお話しをさせて頂くことになりましたー。

 ちょっと話してみると、このドラゴン普通に良い人(?)でした。意思が通じれば、なんとかなるものね。

 とりあえず、色んなことを知ってそうな訳ありドラゴンぽかったので、これまた曰くの付き過ぎてる私としては、異世界の情報を仕入れておきたいと。そう思うわけですね。

 その辺りを落ち着いて話してくれるみたいなので、戦いは終わり。私の中では良いドラゴン認定されました。


『じゃあ、色々と聞かせてもらうわよ?』


 岩壁にできた大きな窪みに、上手く身体を丸めたドラゴンが座っている。

 身体も黒いし、辺りも暗いからよく分からないけど、猫みたいに丸くなるわね。

 そこからもたげた首には、凶悪な顔が付いているけど。


『ソノ妖精。ソノ妖精モ気ニナルガ……イイカ』


 なんでスミーのことが気になるの?

 コイツはただの乗り物なんで、気にしなくていいです。


『ソウカ。先ニ聞イテオキタイノダガ、貴様ハ……ソノ、ナンダ?』


『そ、そーねー……なんだろねぇ……』


 困惑したような思念と共に送られてくる言葉に、私も少し返答を考えてしまう。

 君は何者だい? と問われても、答えは誰も持ち合わせてはいないのさ。

 人間は誰しも、自分が何者かを探して生きているのだから……なんて、カッコつけてもダメだよね。そうだよね。


『あなた、色々と知ってるみたいだから言っちゃうけど、私は異世界のよ。身体はこんなだけど、歴とした人間です!』


 言葉と一緒に『スクリーン』を唱え、私の姿を映し出す。

 『ミラー』に『プロジェクション』を投影するイメージで完成させた『スクリーン』。

 暗闇に光が浮かび上がると、人の姿を形どる。

 巨大化した等身大のサイズの私が、相変わらずの制服を着て、くるりと回る。

 ふふっ、どこからどう見ても可憐な少女ね。


『グガ。ソレハ、光ノ魔法カ? 光ノ魔法は勇者ノ魔法ダ。貴様ハ、ドウシテ使エル?』


 おぉーい、可憐な私の姿には質問なしかい。

 いつでも感想、質問受け付けてるわよー。


『ミ、見慣レヌ衣装ダナ。異世界ノモノカ……』


 無理してる、明らかに無理して気を遣ってるよこのドラゴン。

 だが、そこが良いドラゴン。


『私をにしたのは女神です。だから、私はアンチ女神です。寧ろ、デストロイ女神』


 映し出された私が、両手を腰に当て言い聞かせるように言う。

 なかなかの操作具合でしょう?

 ちなみに、一度唱えておくと暫くは消えない。というか、ずっと消えない。

 持続させるためにMPマジックポイント消費しないんかいとか思うのだけど、今のところ数十分間程度では減らなかった。


『詳シイ経緯ハ分カランガ、貴様ガ、女神ヲ嫌ッテイル、トイウノハ分カッタ』


 私の動きを見て、頷くように身体を揺らすドラゴン。

 よしよし、良かった。女神の手下疑惑が解消できて。

 誰があんな奴の下で働くかってんですよ。

 寧ろ、私がこき使ってやりたいくらいよねー。それって、新世界の神?


『ソレデ、何ガ聞キタイ?』


 今のやり取りで私への不信感が消えたのか、ドラゴンが問い掛けてくる。

 何が聞きたいって、全部聞きたいわよ。この世界がどんなものかも聞いてないんだから。

 本来だったら女神から少しは説明があったのかな?

 いや、あの女神がそんな親切なことする筈ないか。

 どうせ適当に放り込んで終わりよね。

 そういった意味では、空き瓶にされてなくても苦労はしてただろうし、女神を良くは思ってなかったかもしれない。


『そうね。まずらあなたの名前を聞いてもいいかしら?』 


 自分の不遇を思いながらも、人として他人と関わる上で、最低限のところから入ってみる。

 自己紹介はお互いによ。


『我カ? 我ハ、厄災ノ迷宮カラミティの主、ブラックカースドラゴン、デアル』


 なんか、中二みたいな名前出てきたー!

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