三十四、決戦、ドラゴン(下)

 光が収束し、極太の魔力線が放たれると、すぐさま『レンズ』によって歪められた空間に飛び込んでいく。

 集められた光が魔力場により更に圧縮されて、極光の筋を解き放った。

 破壊の力を持った光が、寸分違わず開いた口内へ━━。


 私が攻撃用に創造した『ビーム』は光魔法Lvレベル5だ。

 『ライト』からの『レンズ』と、二段の行程を踏む必要がないのだけど、消費MPマジックポイントが20と燃費は悪い。

 だけどその分、詠唱が短い。

 たった三つのワードで光の粒子を飛ばすことができる。


 それも威力は『ライト』あんど『レンズ』よりも高威力だ。

 結局は、それでも割に合わないのでお蔵入りしようかと思ってたけど、私の最大の魔法なのは間違いない。

 それを、土壇場で『レンズ』に通して、ドラゴンといえど鍛えることのできない目……から予定が変わって、口内にぶちかましてやった。

 目でも口の中でも一緒よ。

 頑丈そうな鱗が生えてない部分ならなんでもいいのよ! 結論。


「ギャオオォン!」


 悲鳴のような咆哮を上げたドラゴンが、すぐ側の岩壁に頭を打ち付ける。

 本日二度目の激突だけど、口内へのダメージはあったのだろうか。

 貫通した? 貫通したんじゃない?

 もしかして、ドラゴンを貫通するぐらいの威力があったんじゃない?

 上手くいけば、そのまま喉か脳にまでダメージを与えられたのじゃなかろうか。


『グルゥオォ……オノレ、勇者メ……』


 うぇ? スミーなんか言った?

 どっかから電波━━じゃなかった。思念のようなものが届いたみたいなんだけど、宛名が不明。

 誰、どちら様? イタズラのDMですか?


『一度ナラズ、二度マデモ……許サヌゥウウ!』


 どわー!?

 岩壁に突っ込んだドラゴンが頭を引っこ抜くと、天に向かって咆哮する。

 今のムーヴ……届いてくる思念と連動してた。

 てことは、つまり……この思念はドラゴンのものなの?


『ウガァアア!』


『うわぁあ!? ちょっと、待ちなさいよ!』


 暴れ出すドラゴンに、おもいっきり思念を飛ばしてみる。

 まさか、こんな大きなドラゴンが意思を持っているなんて。いや、ドラゴンだからこそなのか?

 モンスターといえど、意思がある相手なら話が通じるかもしれない。

 意思だけなら妖精にも、空き瓶にでも有るしね。


『あの、ちょっと、私達……なにか誤解があると思うのよね?』


 咄嗟で言葉出てこぬぅ!

 なんか、行き違った恋人の弁明みたいになっちゃったじゃないの。

 便利なスキル【思念伝達】の本領は、言葉で伝えることじゃない、筈よね。念じれば伝わる。

 私のクリアな……じゃなくて、クリーンな意思をしっかりと届けなくちゃ。

 私は、全然、あなたに、敵意はアーリマセーン。

 何故かカタコトなった。ホワーイ? このさん言葉ワーカリマスカー?



『……ガァ? 貴様カ、私ニ思念ヲ飛バス、者ハ』


 暴れていたドラゴンが動きを止め、私に思念を返してくる。

 岩壁に取り付いたまま私達の位置を確認すると、隻眼の凶悪顔が間近に迫ってくる。

 お、おおぅ?

 思いのほか意思が通じたわ。けど、マジ顔ドラゴン。

 既にドンパチやっちゃった後だけど、ここは冷静に、話でもしようじゃない。

 ねぇ? ドラゴンさん。


『……貴様。貴様ノ目的ハ何ダ? ドウシテ、ココニ来タ』


 私はクリア。空き瓶のクリアです。

 なにを言っているか分からないかもしれないけど、ちょっとした手違いで空き瓶になってしまった悲しい女の子なの。

 だからお願い、話を聞いて下さい。


『私の名はクリア。ここには……寝て起きたら流されていた?』


『貴様、フザケテ、イルノカ?』


 いやいや、顔近い、近いってば。

 珍しく私の意識が途切れたと思ったら、ここにいたんだから、それ以外に説明のしようがないじゃないの。

 更に言えば、もっと遠くから流されて来たってもんだわよ。


『……遠ク?』


『いやー、なんていうか。遠くよ。ここではないどこか? なーんて』


 ドラゴンに言ったところで分かりやしないのだろうけど。

 異世界転生は人に隠すのが常よねぇ。相手ドラゴンだけど。


『遠クカラ、来タ。ヤハリ、貴様ハ勇者カ!』


 急に興奮し出す容疑者……じゃなくてドラゴン。

 なんでそうなるのよ!?

 さっきから勇者、勇者って連呼してるけど、あの勇者のことなの?

 勇者って、大体遠くから来るんかい?

 異世界は遠い。異世界から来た人は勇者。イコール、遠いから来た奴は勇者。

 おーぅ、納得だわ。

 女神も勇者の存在を明言していたところから、やっぱり勇者はこの世界にいるのね。

 だけど━━。


『興奮してるとこ悪いけど、私は勇者なんかじゃないわよ!』


 そう。私は勇者なんかじゃない。

 勇者ってのは、女神に力を与えられて女神のために戦うものよね?

 じゃあ、私は逆だもの。

 女神に切り捨てられ、ろくでもない身体にされて捨てられた……女神に仇なす存在だもの!

 うおぉお! 久々に、女神許さねぇええ!


『……貴様ハ、勇者ジャ、ナイノカ?』


 私の恨みが籠った思念が届いたのか、ピタリと停止するドラゴン。

 返された思念には、疑惑の色が感じられる。

 うーん、聞き分けがいいんだか悪いんだか。どうやら特定のワードに過剰反応するようね。情緒不安定か。

 ただ、それ意外に関しては意思の疎通の意思有りと。そんな感じかしら。

 私の特大の魔法が炸裂した筈だけど、意に介してはいないみたいだし。


『ンン? 貴様ノ魔法ナド、少シ、口内炎ガデキタクライダ。チクットハ、シタガナ』


 口内炎んんん?

 げー、私の全身全霊の一撃が、ドラゴン相手にも通用したと思ってたけど、全然効いてないってこと?

 ……ちょっとショック。


『私ニ危機ヲ覚エサセル、ノデアレバ、全力デ戦カッテモ、ヨカッタ、ノダゾ?』


『いえ、私は遠慮しておきます』


 なによ、その脅しじみたやつは。

 相手のに救われたってことなの? 納得いかないわー。

 ぐぬぬ、ドラゴンって本当に強いのね。異世界最強のモンスターは伊達じゃないわ。

 ここのダンジョンに出てくるドロドロのモンスターは、基本光魔法で一撃だったから、自分が強いって勘違いしちゃったじゃない。


『本当ニ、貴様ハ勇者デハナイノカ? 貴様カラハ、女神ノ気配ガ感ジラレルガ、ドウイウコトダ?』


 私がドラゴンの分厚い壁にぐぬっていると、そんな思念が投げ掛けられた。

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