二十六、魔法錯誤

 モンスターに知性はないわ。

 特に、こののモンスターはなんか普通のモンスターじゃないしね。

 アホよ、アホ決定。

 光━━ってか魔力だけど、そんなのに寄って来る時点で、ちょっとどうかと思うしね。


 やっぱ、虫眼鏡かな。

 凸レンズを魔法で作成して、その裏から光を当てて収束させよう。

 ん、んんー……うん、その名の通り『レンズ』。

 空間を歪めて光を屈折させるよ。

 巨大なガラスを作り出そうと思ったけど、光魔法から外れるっぽい。

 私の『ミラー』も実際の鏡を作り出してる訳じゃない。あれは空間を反射させるイメージの魔力場? みたいなのを設置してるだけだ。


 という訳で、空間よ歪めー。

 あ、空間は歪まないわ。時空魔法じゃないから。時空魔法あんのか知らんけど。

 えーっと、光が歪むイメージ。

 え? これ結局、空間が歪むんじゃないの?

 あー、わからん!

 蜃気楼にしても空間が歪んでる訳じゃないものね。

 光の屈折、屈折。お風呂の屈折。

 水でレンズ作ったら楽な気もするけど、やっぱり属性縛りがあるみたいね。

 私が水を生成できれば、青ポーション作り放題がより楽になりそうなんだけどな……っと、脱線したわ。


 光なんて元々実体のないもんなんだから、じょわーっと集まって、すぱぁー! と、出てくるイメージでいいのよ。

 むむ、む、できそう。

 ちょっと詠唱必要かな。Lvレベル3くらいで出来そう。


 『集まれ、集まれ、光よ集まれ━━「レンズ」』


 水面に波紋が生じたように、空間に一つの歪みが現れる。

 うーん、我ながら頭の悪い詠唱文句。

 やっぱりイメージしにくいものだから、それが詠唱にも影響されたのね。

 でも、魔法は無事に創造できたようだ。まだ完成じゃないけれど。

 一つの魔法では攻撃性を与えることができないので、そこに『マルチライト』で作り出した光球を送り込む。

 よーし、『レンズ』の照準オーケー。目標は、唸ることしかできない木偶野郎だ。

 間抜けの頭をすっ飛ばしてやれ。


 ━━キュン。


 魔力的質量を伴った光球がに吸い込まれると、一筋の光線が弾き出された。


「……ギョ! ォ……オォ……」


 一つ、大きな声を出した闇ゴブリンの呻き声が徐々に小さくなり、その身体も床に沈むようにして消えていった。


 お、おぉ、おおー! ゴブリンの呻き声じゃないよ?

 なに、今の! めっちゃカッコ良くなかった?

 光球が、『レンズ』に入ったかと思ったら、キュン! っていってゴブリンが貫かれた。

 ま、魔法だぁあああ! 今更だけど、魔法っぽい魔法だわぁー!



 は、はぁー、落ち着こう。

 できたわ、私にも異世界っぽい攻撃力を持った魔法が使えた。

 やった事はモンスターの虐殺なんだけど、そんな下らない倫理は肉体と共に置いてきた。

 いや、人間殺した訳じゃないんだから、いっか。

 自分を襲って来たモンスターを殺したって事に、忌避感を覚えるやつなんているかって話よね。

 それが少女型のかわいいモンスターだったら? ふんじばって調教するわ。


 ふむ。モンスターを倒した訳だけど、特に力が湧いてきたりファンファーレが鳴り響くような事はないわねぇ。

 やっぱり私ってばLvレベルが上がって成長するような存在じゃないのかー。

 種族とかしっかりあるんだけどな。空き瓶だけど。

 空き瓶はスキルを覚えられるけど、身体的な位階は上昇しないってことかい。

 ええー、進化とかしたかったなー。

 モンスターでさえそんな雰囲気があるのに、自身の定義に再び疑問を持ってしまうな。


 ……ん、まいっか。

 この適度で精神耐性さんに頼る必要はないわ。

 私としては最終的に女神に復讐できればいいだけで、それまでは厳しかろうがのほほんとしてようが、異世界生活を楽しむだけよ。

 リィナと交流を持ちたかった思いはあるけど、現状からはちょっと難しいかな。

 最後まで行く末を見てないし。生死も不明だ。

 地上へ無事に生きて脱出できたと思っておこう。


「……ォ」


「オォ……ォ……」


「プミ、プミプミプミ……プミ」


 はーい、色々考えてるうちにお客さんがいっぱいだよー。

 一匹変なのが混じってるけど、発動させていた『マルチライト』の灯りにモンスターが群がっている。

 うおぉ、うっかりしてたら踏み潰されそうだな。あんまり集めるのはよくないかもしれない。


 MPマジックポイントには余裕があるし、どんどん撃退していきましょー。

 危なくなれば灯りを消せばいいだけだしね。

 『レンズ』の消費MPマジックポイントは8か。思ったより高いわね。

 そこに『ライト』か『マルチライト』で光球を作り出す必要があるから、一発の消費が最低3ということになる。

 ちなみに『マルチライト』は二個以上の光球を作り出す事ができて、三個目以降はMPマジックポイントを3消費する。


 それって『ライト』を連発するのと何が違うのかって? 一度に無数の光球を作り出す事ができるメリットがあるんだよ。

 連射も可能なこの光砲撃はMPマジックポイント11からとなっております。

 そして、その無数の光球を『レンズ』に放り込むと……。


 ━━キュン、キュンキュン!


「ォオオ……ォ……」


「ギョ、ォ……」


「プミ……プミプミ、プミー!」


 ふっ、アイドルの歌う歌詞みたいな擬音で闇のモンスターがばったばた倒れて逝くわ。

 約一匹、元気なのいるけどな! 

 なんだコイツは……できの悪い芋虫みたいな風貌をしている。

 確か、私の光魔法に貫かれたと思ったけど、ピンピンしてるな。

 コイツも粘度のある闇を纏ったモンスターだと思うのだけど、ゴブリンよりは強いモンスターなのだろうか。

 うーん、もう一発射ってみるか? あまり刺激して攻撃が効かないとなれば、万が一襲って来たら対処のしようがない。

 単純にのし掛かられただけで、私の耐久値が減ってしまうだろう。


「プミ……プミー!」


 なんだ?

 芋虫の出来損ないみたいなモンスターが、地面に顔とおぼしき部位を押し付けている。

 その辺りを注意して見ると、輝石の欠片のようなものが落ちていた。

 この芋虫の出来損ないはそれを食べているようだ。


「プッミー!」


 喜んでる?

 輝石の欠片━━魔石を食べた芋虫が喜びの声を上げている。

 なーんだコイツ。同族の遺物食って喜んでら。

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