二十五、深海にいるアレ

 おー、あー、今更なゴブリン感があるんだけど、明らかに普通のゴブリンじゃないんだよね。

 なんだろなー、この感じ。

 恐らくだけど、通常のゴブリンより強いだろう。

 でも、ゴブリンなんだよなぁ。

 後半のダンジョンで出てくる、色違いの強いモンスターみたいな?

 やっぱり、纏わり付いた闇のせいかな。

 これは、変わり果てた赤土のダンジョンに関係する事かもしれない。


「……ォ?」


 そんな闇ゴブリンが、私になんの用かしら?

 モンスターの知り合いはいなかったと思うのだけど。

 いかにモンスターといえど、さすがにポーションの空き瓶を襲ったりはしないだろう。

 私がモンスターにカテゴライズされていれば分からないけど、贔屓目に見て道具ってとこよね。

 インテリジェンスを付けてもいいのよ? インテルっぽいもの入ってる。


「……ォ……」


 うーん? コイツ、ただ単にボヤッと突っ立ってるだけね。

 なにに引かれてここまでやって来たんだろう。

 お腹の青ポーションを狙ってるのか?

 蓋はちゃんとしてあるし、モンスターがポーションを求めるなんて話は聞かない。

 美味しそうな匂いがするわけでもないし……不気味ねぇ。


「ォ……」


 いや、動かねぃ!

 なによ、なんの用があるってのよ? こっちには用ないですけど!?

 依然として佇む闇ゴブリン。

 その場に立ち尽くしたまま呻き声を上げている。

 かー、モンスターの考える事は分からないわ。ポーションの空き瓶の方がまだ理解できる。


 んー、私がやった事といえば『マルチライト』を使ったくらいだけど、まさかその光に寄せられて来たとか?

 光魔法に闇のモンスター寄って来んだろ。

 灯り魔法に攻撃力は無い筈だけど、攻撃されてるとなったら逃げて行くよなぁ……。


 真っ暗な空間に、ゆらゆらと魔法の灯りが揺らめいている。


 どっかで見たシチュエーションねぇ。

 はて、なんだったかしら?

 ダンジョンの奥底で、灯りを揺らす、怪しい生き物……あ、もしかして、チョウチンアンコウじゃない!


「……オォ……」


 ……マジで?


 光の届かない深海に生息していて、頭に生えた触覚を動かし擬態して、やって来た獲物を襲うという、アレですか?

 うわー、モンスターって……なんだかなぁ。

 まさか、光そのものにつられてやって来た、って事じゃないと思うんだけど。それだったら、ダンジョンの壁面に設けられた篝火にモンスターが集まっちゃうもんね。虫じゃあるまいし。

 魔法の灯りというのが重要なのかもしれない。魔力の波動というか波長に引き寄せられたとか。

 異世界的に考えれば、そちらの理由の方がもっともよね。

 そもそもモンスターってのも、魔力が影響して出現する生き物なイメージだし。


 私がMPマジックポイントを魔力に変換し、魔法として発散することにより、モンスターが引き寄せられて来るってことですかい?

 わたしゃ、植物かなにかか?

 食虫植物になった覚えはなくってよ。

 ん、待てよ。

 食虫植物作戦か……いいかもしんない!


 ダンジョンにはモンスターが出現する。

 私が灯りをともせばモンスターが寄って来る。

 光魔法でモンスターをキルする。

 私の魔法が上達して良いことがある。

 私がスーパー化して、ダンジョンを脱出できるよ!



 うっひょっひょー、そうと決まったら新しい魔法を創造すると致しましょうー。

 私の光魔法もLvレベル4になって久しい。って言っても数日だけど。

 なんでか勝手に覚えた【魔法の才能】がいい働きをしてくれるお陰だ。

 もしかしたら、女神に貰ったやつより有用なんじゃないかと。

 だって【万物操作】さんは、物や道具を扱うスキルなんだもん。空き瓶に手足はありません。

 せいぜい私にできる事といえば、箱の蓋を開くくらいだ。ここには箱もないしね。

 いつの日か私の役に立ってくれる日も来るでしょう。


 さて、光魔法ですが。

 私がこれまでに『光魔法Lv4』で創造した魔法はこれ。

 私が使える魔法一覧は【魔法の才能】さん参照です。


 光魔法

 Lv1 『フラッシュ』MP2 『ライト』MP3

 Lv2 『ミラー』MP4 『マルチライト』MP6

 Lv3 『プロジェクション』MP6 『スクリーン』MP8

 Lv4 『ミラージュ』MP10


 うーん、攻撃力を持った魔法が一つもなーい。

 なんなのこれ。確かに光魔法って感じの魔法ばかりだけど、異世界的になんの役に立つのかしら。

 光って、映して、幻影を出す勇者とかいるのかい?

 トリッキー過ぎるでしょ!

 光属性が勇者の属性とか絶対に嘘。女神の罠だわ。ええいくそぉ、悪い女神めぇ。


 光魔法のスキルLvレベルが上がればビームが出そうな気がするんだけど、それを上げる手段があまりない。

 Lvレベル4の魔法を連発してればいいのかもしれないけど、やっぱモンスターを倒した方が熟練度だか経験値が溜まりそうよね。

 ステータスを開いてみてもそんな数値は載ってないんだけどね。

 その辺りは空き瓶の私だからなのか、元々システムとして備わっていないのか……謎である。

 でも、こんな気持ち悪いモンスターがわらわら集まって来ても嫌だから、Lvレベル4での攻撃的な光魔法を創造して、どんどん倒していこう。そうしよう。


 攻撃的な光ねぇー、なんかあるかしら?

 あ、虫眼鏡。

 光を収束して畳に穴を開けるやつ。

 この昨今、虫眼鏡なんて久しく見てないわね。探偵が使ってそうなオーソドックスなやつ。

 虫眼鏡というと、あんなイメージしか浮かばない。

 あとは、光を操るとすれば……鏡をいっぱい集めて肉を焼くとかかな。コロニーでもいいわよ。


 ところでここはダンジョンです。

 どこのダンジョンの奥底か知らないけど、光源の殆ど存在しない闇の世界。

 とーおくの方にポチポチ光源があるような気もするけど、収束する程の光は絶対にないのだ。

 ふむ。なにも太陽の光を収束する方法を取らなくても、私自身が光魔法で光を産み出せるのだから、二つの仕組みで魔法を創造すればいいでしょう。


 ━━『ミラー』。


 反面が輝き、反面が暗い空間を映し出す板が現れる。

 んー、『ミラー』じゃないかな?

 ここで『ライト』や『フラッシュ』を使ったところで、光を収束するには余程の数が必要になる。

 そんなもんを宇宙いっぱいに広げられるのは、コロニーを蒸発させようとする時だけだ。

 あ、闇ゴブリンが反応してる。

 野生の動物は鏡というものを理解しないというけど、モンスターはどうなんだろう?


「ォオオ!」


 うわ! 攻撃しやがった!

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