十四、本当のことさ

 時は深夜。

 皆が寝静まった夜~、私は動き出すのだー。今は動けない、それが運命さだめだけど。

 それは前作ね。


 栗髪少女━━リィナは一頻り飲み食いした後に、確保しているであろう宿屋の部屋に戻って来ると、私を机の上に置いてすぐに寝てしまった。

 ベッドとテーブルセットがあるだけの簡素な一室。

 としての最低限の機能を果たしてくれる仮宿だ。

 私の部屋も似たようなもんだけど、リビングとか他の部屋はもちろんない。

 一人暮らしをしたことのない私からすれば、若干味気なく思えた。

 家庭には家族がいる。

 自分以外の心許せる存在がいて、そこに温かみがあると教えてくれる。

 それが、この部屋にはなかった。

 部屋の扉を開いても無機質な廊下に繋がっているだけで、そこを歩いていけば家族の誰かに会うような事もない。

 同じ様にして孤独の部屋が並んでいるだけだ。

 それが宿屋というものなのね。


 リィナはそんな部屋で生活をしている。

 まだ両親の寵愛を受けて、温かい家庭で過ごしてもいい年齢に見える少女。

 そんな少女が冒険者という荒々しい生活をしている。

 腕があるのは知ってるわよ。ダンジョンでモンスター相手に危なげなく立ち回っていたから。

 でも、酒場でのやり取りを見るに、精神はまだ大人になりきれていない。

 てか、酒場よね。なんで酒場でお酒を飲んでるんじゃー。

 異世界は往々にして成人年齢が低いから、私の懸念は身勝手なものなのかもしれない。

 リィナはこう見えて、立派な大人なのかもなぁ。


 そんなセンチになってる場合じゃあなくってよ、私!

 自分の身に起きている問題も、解決していきましょー。

 家族という部分は私も気になるとこだけど、そこはほら、精神耐性さんが良い仕事するでしょ。

 というわけで、今日の確認いってみよー。



 行商人にドナドナされて店頭に並んだ私を買い受けたのは、このすぅすぅと寝息を立てている可憐な少女。

 そこからリィナの持つマジックアイテムに助けられて━━勝手にこっちが助かっただけだけど━━MPマジックポイントの確保から耐久値の回復までお世話になった。

 その代わり、パニック映画ばりのスプラッターを目の前で見せられたけど。

 死体の解体とかされなくて良かったわー。

 モンスターは息絶えると、ファンタジー分解するらしい。ゲーム分解でも可。

 ドゥウウン……とかって画面上から消えてくやつね。

 ドロップアイテムも落とすようだけど、お金はさすがに落とさなかった。

 せめて宝石は落として欲しいです。はい。

 あ、魔石っぽいのは落としてたよ?


 ダンジョン探索が終わった後、訪れた酒場では一悶着。

 リィナはC級冒険者という大層な腕前だと判明するも、冒険者の中では腫れ物扱いのようだ。

 そうなってしまったのは、彼女の生い立ちと立場にある。

 リィナは町の領主、貴族の娘だ。

 そんな彼女が冒険者稼業などをやっているというのは、家族間が上手くいってない証拠だ。

 貴族とかって、まー、ゴタゴタの宝庫っぽいしね。

 大方、父親との意見が合わなかったのだろう。

 それで、リィナは自分の意思を通すために冒険者となり、そこで金髪の盗賊風な冒険者トラとも知り合った。

 もしくは、幼馴染みなパターンかな。

 二人は反目しつつも互いに気に掛けてるってとこか。特に男の方がな。


 うーん、異世界ってテンプレよね。

 リィナに予想外の才能があって、冒険者として上手くやれてしまったような雰囲気もあるが。

 私としては常時青ポーションが供給され、耐久値の心配のいらない今の環境は維持していきたいけど、家に連れ戻されるとかあるのかな?

 棚の置物になるのは、さすがに嫌だなぁ……。

 それだったら、まだ魔女っ子にいじくり回されてた方が飽きない。

 あ、やっぱ待って。それは考えるわ。


 この先、ダンジョン掃討作戦なんてのがあるみたいだけど、私に関係するだろうか?

 金髪がリィナも参加するとか言ってたよーな。

 そもそもダンジョン掃討作戦ってなんだろう。あまり聞き慣れない言葉だ。

 ダンジョンからモンスターが溢れてくるのはよく聞く話だけど、掃討するってよっぽどよね。

 町の平和を守るために行う行事みたいなもんかしら。

 町内ドブ清掃的なね。

 私に危険がなければなんでもいいです。



 今日分かった情報はこんなとこね。

 ふぅ、頭使ったって程じゃないけど、疲れたわー。

 甘い物が食べたーい。甘い物は脳に良いのよ? 脳みそ無いけど。

 窓の外に意識を向けてみても、暗闇が広がっているだけだ。

 夜明けにはまだ早いだろう。

 変わらず小さな寝息を立てているリィナを再度確認して、私はひっそりと活動を始める。


 なにをするのかというと、魔法の修練だ。

 だって、青ポーション使い放題……ではないけど、自分のスキルで増やしたMPマジックポイントが18分ある。

 なんの魔法を使おうかなー。どれも戦闘向きじゃあないので、部屋の中でも問題なく使えるのだ。

 戦闘向きの魔法も開発したいとこだけど、私が思い描く内容だとLvレベルがどうにも足りないようなのよね。

 光魔法というからにはビーム撃ちたーい。

 なんとなくだけど、Lvレベルが5くらいからできそうな気がする。【魔法の才能】のお陰だろうか?

 それまではせっせこ魔法を使用して、Lvレベルを上げていくしかない。


 というわけで、なるべく高いLvレベルのものを使用しましょう。

 それが熟練度を高めるセオリーだから。


『無から有、紡ぎしは、光……うぬうぬ……プロジェクション!』


 かっちゃかちゃと蓋を鳴らしながら━━実際は口語詠唱に成功している━━私は魔法を発動させる。

 ガラスの球面にぼうっと制服を着た少女が映し出された。


『やっぼー、呼ばれて出て来でババババーン』


 そこに投影された私が意識と五感を持っている訳ではないが、作り出した言葉に合わせて映像の私を操作する。

 なかなか上手いもんじゃない? 映像劇だってできると思うのよねー。

 こっちの世界にテレビとかあんのかしら。あるわけないか。

 でもこれ、実は自分の姿しか映し出せない。それも制服姿限定。

 私の、自分に対するイメージが最も強いものしか投影できないっぽい。


『ふむ。もうちょっど、言葉の練習が必要がもー』


 改めて意識してるみと結構ダミ声だわ。

 魔女っ子が異様に怯えた理由は、このあたりもあったかもしれない。

 は魔法とは関係ないスキルだからMPマジックポイントの制限がないけど、練習するには場所を選ぶわね。

 ポーションの瓶が喋ってたら怖いし。


 ま、今は魔法の修練を優先させましょ。

 私は『プロジェクション』を維持したまま、次の魔法に取り掛かることにする。

 ちなみに維持するMPマジックポイント消費量は三分で1ポイントだ。クッキングかな?


「ううん……」


 やっば、煩くし過ぎたかな?

 ピタリと蓋を止め気配を消すも、最初から私に気配なんてなかった。

 リィナは少し身動ぎしたかと思うと、規則正しい寝息に戻っていく。

 ふっ、かわいいお嬢さんだ。


 んー、詠唱魔法はやめておきましょう。

 万が一でも見られれば、また呪われた道具とかってポイ捨てされるかもしれないからね。

 ポイって感じじゃなかったけど。


 それなら無詠唱魔法に致しましょう。

 何十回と練習した結果、Lvレベル2までの光魔法であれば無詠唱を成功させている。

 というわけで、お次は『ミラー』よー。


 空中に現れる輝く長方形の

 魔法自体は輝く板なのだが、景色を反射させる魔法なので片側は薄闇に沈んでいる。

 暗い室内を反射させているからだ。

 なーんか、いまいち勝手が悪いわねぇ……。

 暗い所で使おうと思ったら、『フラッシュ』なども併用しないといけないかも。

 今は『ライト』というあかりを灯す魔法を創造したけど、暗闇で角の向こうにいる敵を反射させて見つける━━なんて事は難しいかもしれない。

 そんな機会来るとは思えないけど。


 むー、『プロジェクション』に『ミラー』かー……なんかに活用できると思うんだけどねー。

 いい案はないかしら。なにか上手い使い道は……。

 そうだ。『ミラー』に『プロジェクション』を投影するのはどうだろうか?

 名付けてスクリーン。

 ……それ、大きくなっただけじゃない?


 魔女っ子に告白した際に生じた、正面から見ないと映像が歪んでなんだか分かんないよ問題、は解決できるかもしれないけど、そんな魔法必要か?

 突き詰めていけば映画館だが、私の姿を大衆に大々的に発信してどーする。

 映し出される特大スクリーンの中で踊る私に、空き瓶の蓋を打ち鳴らして音楽を奏でれば━━超異世界空き瓶アイドルの爆誕である。

 速攻で女神に見つかるわ!


 盛大に方向性を間違えた私は、軌道を修正しながら、空が白んでくるまで思考に耽った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る