十一、新たな里親募集中!
「キラキラしててかわいい瓶ね!」
私を持ち上げて、全体をぐるりと観察した少女は喜びの声を上げる。
店主のおじさんも「よっ、お嬢ちゃんお目が高いね!」などとおだてている。
お目が高いってか、たまたま私が荷台に落ちて来ただけで、あんたが仕入れた訳じゃないでしょーがー。
商売人恐るべし。
面の皮の厚い店主は置いておいて、私を手に取る少女に注目してみる。
肩ぐらいまでの栗色の髪を赤いリボンで結んだ少女。
控え目に言ってかわいらしい少女。
しかしその身は軽鎧を纏い、腰には小剣。それとクロスさせるように木の杖まで下げている。
折り目の着いたスカートに、短いマントを背負った可憐な姿。
ふおぉ、美少女魔法剣士きたっ! とか、ちょっくら思ってしまった。
これが、私を手に取ったのが小汚ないおっさんとかだったら、身震いしていたかもしれない。
━━震える身体はないけれど。
同性の、それも美少女なのもあって、願わくばお買い上げ頂けないかと祈りを捧げる。
━━捧げる女神は仇敵だけど。
さっきまでのノット人身売買はどこへいったのか。
客に買われる物達も、魂があれば同じことを思っているのかもしれない。
良い人に買ってもらいたいと。
「おじさん、これいくら?」
「銀硬貨10枚だ!」
「えぇー!? ポーション瓶よね? 高過ぎない?」
私が
「じゃあ、銀硬貨5枚だ!」
「なんで急に半額なのよ……でも高い!」
「銀硬貨3枚!」
「もう一声!」
おお、栗髪少女も食らい付くなぁ。でもこのおっさん仕入れはゼロなんだぜ。
こっちの通過単位は知らないけど、少女の反応を見るにぼったくろうとしてたみたい。
元手ゼロでよくやるわ……ホント、商売人恐るべし。
でも、私としてもこの娘に付いてってみたい気持ちになってるので、是非とも頑張って欲しい。
「かぁー! お嬢ちゃんには参ったぜ、銀硬貨2枚でいいぜ。持ってけドロボー!」
「ううぅ、買った! それでもポーション瓶にしちゃあ、高いけど……いいわ。気に入ったから!」
どうやら栗髪少女に軍配が上がったらしい。
おー、店主のおっさんがほくそ笑んでる。
栗髪少女がそんなに気に入ってくれたのには嬉しいんだけど、店主の黒さに人間不信になりそうですわー。
私は言いたい。ドロボウはお前だ!
「うわぁ、キラキラ輝いてる……。ちょっと予定外の出費だったけど、買って良かった!」
銀色に鈍く光る硬貨2枚と引き換えに、私を購入した少女は日の光に当てて喜んでいた。
少女の顔に落ちた光を見ると、虹色に輝いている。
おーぅ、私の素材ってば、単なるガラスじゃないのかしらね?
宝石とまでは言わないけど、ス◯ロフスキーくらいはあるんじゃないの?
暫く乱反射する光を眺めていた少女は、私を手元に持ってきて瓶の口を開ける。
おや、と私が思っていると、腰に下げたポーチから干からびた種のような物を取り出して、私の中に放り込んだ。
むぐ、梅干しの種かしら?
多少の異物感を感じていると、次は水場に移動する。
渇いた大地に掘られた井戸。
相当に深い所から水を組み上げているのだろう。少女が手繰る桶の紐は、なかなかに長いようだ。
「よいしょ、よいしょ。ホイ」
組み上げた桶の水を飲むのかと思いきや、私の中に入れ始める。
おーやおや、私はポーションの瓶ですよ? 水筒なら他を当たっておくんなまし。
少女はもちろん私の抗議に気づく筈もなく、容量いっぱいに水を入れて蓋をする。
この娘、本当に水筒代わりにするつもりかしら。
花瓶にされるよりはマシだけど、せっかくだからポーションを入れて欲しいな。できれば青いポーション。ね、ね? 青いポーション入れよ?
私の思考が呪われたアイテムに傾いていると、お腹の水に変化が生じた。
干からびた種に見えた物から、青い染料が染み出したようになっている。
おお? これは一体どーいうこっちゃ。
「うふふ、専用のポーション瓶欲しかったんだよねー。これで買い足す必要がなくなったわ」
嬉しそうに少女が独り言ちる。
ははーん、
この干からびた種みたいなのを水に漬けておくと、勝手にポーションが生成されるってもんなのか。
それも、青ですよ、あお!
奥さん聞きました? 無限に青ポーションができるんですってよ、この干からびた種!
水を入れる必要はあるみたいだけど、青ポーションが常時湧いて出てくるってもんですよ。ひゃっはー!
瓶の中身が全て青色に染まる頃には、ステータスにしっかりと
『ポーション品質向上Lv3』のお陰で最大値が三割上昇している。
ぐっふっふ、魔法使い放題ね。いやいや、ポーションが薄まったら怪しまれるか。
それでもこの種があるうちは、青ポーションが勝手に作られていく。
私が
ふむ。青ポーションを生み出す種も、さすがに無限ということはあるまい。
私の容量いっぱいに青ポーションを入れて獲得できる
本来の容量であれば60のところが、スキルのお陰で18分は上昇している。
この栗髪少女はどうやら魔法剣士の様相をしている。
恐らく魔法も使うのだろう。
魔法を使えば
その部分は私のスキルで生み出した分だから、私には使用する権利があるわ!
つまりは、上手いことやりくりすればいいって事よー。
栗髪少女は、私にポーション品質向上のスキルがあるのを知ってて選んだ訳ではあるまい。
それに薬学のスキルでもなければ、私のスキルに気づく事はできない。
おーっほっほっほ、隠れて使っちゃおー。魔法を使っちゃおーっと。
栗髪少女は私を腰のホルダーに括り付けると、鼻唄混じりに通りを歩き出す。
自然と流れてくる町の風景に、意識を半分持っていく。
なんだろなー。殺風景というか、緑が全然ない町ね。全体的に赤っぽい。
地面を見れば水分の少ない赤土が風に舞い、町の中を漂っている。
木製の簡易的な建物がそこらに建っているが、生活感は感じられない。
ゴーストタウンは言い過ぎかもしれないけど、そんな雰囲気だった。
そうするうちに、役割を果たしてるかどうか怪しい柵を越えると、町の外へ出た。
どうやら道は続いているようだけど、先は荒野だ。
へばりつくようにして生えている雑草を避け、人が無数に歩いたことによって自然とできた道を歩いていく。
んー? この先になにがあるんだろ。
こんな美少女魔法剣士が、こんな所に如何様で?
先を見据えれば、こんもりとした小山が見える。
どうやらそこへ向かっているようだ。
徐々に近づいてくると、小山には口があった。
ぽっかりと開いた、黒い口。
はっはぁーん、これはもしや……。
「さて、今日の分を取り戻すわよー!」
元気良く声を上げた栗髪少女は、黒い穴━━ダンジョンへと足を踏み入れた。
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