Ⅳ 選挙の日

そして、選挙当日……。


「――いやあ、これはこれはカルロマグノ王、ずいぶんと久方ぶりだな。どちらが皇帝になろうとも、すべては皆が帝国のためを思うた結果。お互い恨みっこなしですぞ?」


 投票結果を聞くために集められた玉座のある大広間で、この選挙では初めて顔を合わせることとのなるフランクルーゼ一世は、余裕に満ち満ちた態度でそう挨拶を口にする。


 色白だががっしりとした体格に黒い口髭を蓄えた荒々しい風貌……エルドラニア王即位前、カルロマグノはフランクル王国の都パリィーシスでまだ王太子であった頃の彼と幾度か会ったことがあるが、相変わらずの自信家で、滲み出る野心にてられてしまいそうな濃い人物だ。


「ご無沙汰しております、フランクルーゼ王。ええ。そうですね。どちらがなろうとも潔く結果を受け入れましょう」


 対してカルロマグノも笑みを浮かべると、あくまでも王としての品位を保ち、心の中とは裏腹に寛大なる言葉を彼に返した。


 ボヘーミャン風の優雅な装飾の施されたその大広間には、両王とその側近の者の他に、七人の選王侯達も席を並べている。


「それでは、公平で厳選なる投票の結果を発表いたします……」


 選王侯達の前に並べられた椅子に二人が着座すると、選王侯筆頭であるマイエンズ大司教により、いよいよ帝国選挙の勝者が発表された。


「結果は、7対0。我ら選王侯は全員一致でカルロマグノ一世をイスカンドリーア王として選出いたします」


「ば、バカな!」


 まったく予想外のその結果に、自身の勝利を疑っていなかったフランクルーゼは思わず腰を浮かせて叫んでしまう。


「おお、なんということでしょう! まさか全員がこの私を推してくれるとは……このカルロマグノ一世…いえ、イスカンドリア皇帝としては歴代より数えてカロルスマグヌス五世、謹んでその大任、お受けさせていただきます」


 一方、カルロマグノは今の今までまるで思いもしなかったとでもいうように、、しらじらしくも大仰な台詞でその圧勝に驚いてみせている。


「何がどうなっている!? ……貴様、いったい何をした!?」


 選王侯達を見回せば、当初よりカルロマグノ側であった三人よりも、むしろ自分に味方するはずであったザックシェン公をはじめとする四人の方が、フランクルーゼに向けて憎悪にも似た鋭い視線を送りつけている。


「さあ? 私は・・何も。すべては選王侯達自らの考え・・・・・による結果……ということで、恨みっこなしですよ、フランクルーゼ王?」


 驚愕と焦燥、そして怒りのない交ぜになったような顔で怒号をあげるフランクルーゼに、カルロマグノは屈託のない笑みを湛えると、そう言ってすっ惚けてみせた――。

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