第42話 A storm in the night

「ねぇ兄さん、蘭堂らんどうさんにブラをいてあげたでしょう?」


学校から帰るなり俺の部屋に来た妹は、妙にやさしい口調で俺に確認してくる。


妹は表情こそ笑顔だったが、目は決して笑っていなかった。


それにしても何で妹がその事を知っているのか?

考えられる可能性は一つしか無かった。


しゃべったのか?彼女」


しゃべるどころか、ご親切にも私に見せてくれましたよ。」


「・・・何のために?」


妹はあきれたように溜め息をつくと、能面のうめんのような表情で言葉を返した。


「それは自分で考えたら?」


妹はそう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。


その事について、もっと根掘り葉掘り聞かれるのではないかと身構えていた俺は、拍子ひょうし抜けする。


『何だったんだ?一体・・・』


***************************************


その夜はめずらしく本格的な雷雨になった。


はげしい雨音と雷鳴らいめいのせいで、俺はなかなか寝付く事が出来ない。


ようやく眠りかけた時に、俺の部屋に人が入って来る気配がする。


美野里みのりか?」


相手は何も答えないまま、俺のベッドにもぐんでくる。


深夜の侵入者しんにゅうしゃはやはり妹だった。


再び轟音ごうおんのような雷鳴らいめいとどろき、妹は無言で俺にしがみ付く。


妹の身体からだの震えが俺にも伝わって来る。


俺は安心させるように妹の頭をポンポンと叩きながら話しかける。


「何だ、高校生のくせに雷が怖いのか?怖いんだったら今日は一緒に寝ていいぞ。」


「兄さんがそんなだから、私は!」


そう言うと妹はいきなり俺にのしかかり、自分の唇で俺の口をふさぐ。


俺は突然の事態に身体からだが固まってしまい、抵抗する事が出来ない。


やがて唇を離した妹は、俺の上に馬乗りになったまま枕を両手で持つと、力任せに俺の胸を叩き始める。


「兄さんのバカ!バカ!バカッ!!」


その時、雷光が彼女の顔を一瞬照らし出す。


妹は泣いていた。


妹の眼から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちているのがはっきり分かった。


俺は成すすべも無く、叩かれ続けていた。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・」


妹の手が止まり、暗闇の中で彼女の荒い息づかいだけが聞こえて来る。


雷雨は益々ますます激しくなり、嵐が全てを支配しようとしていた。

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