第41話 Confrontation

念願かなって鷹飼御門たかがいみかどの彼女となった私には大きな問題が残っていた。


彼の妹、鷹飼美野里たかがいみのりの事である。


彼女が私たちの交際に否定的ひていてきな感情をいだいているのは、ほぼ間違いない。


彼女と和解出来るのであれば、もちろんそれに越した事は無いのだが、どう考えても、その可能性は無い様に思えた。


もし和解出来ないのであれば、私と彼とのきずなを見せつける事で、彼女に勝ち目が無い事を理解させるしかない。


勝てるという確信は無かったものの、結局私は和解ではなく鷹飼美野里たかがいみのりとの対決を選択した。


翌日、私は放課後の女子更衣室に鷹飼美野里たかがいみのりを呼び出した。


彼女を待っている間、私はひどく緊張していたが、女子更衣室に入って来た彼女の顔を見た時、相手も同じように緊張している事が一目で分かった。


女子更衣室を見回した彼女は、室内で待っていたのが私一人である事が意外そうな様子である。


彼女は緊張した表情のまま、口を開く。


「こんな所に呼び出して、何の用ですか?」


「あなたと二人きりで話がしたくて、ここまで来てもらいました。放課後の更衣室なら、邪魔が入る心配は無いから・・・鷹飼たかがいさん、私と御門みかどさんは体の関係があるの。今から証拠を見せてあげる。」


私はそう言うと上着を脱ぎ捨て、上半身裸になる。


彼女が目にしたのは、ピンクのペイントブラだった。


「あなたなら、これを誰がいたか分かるでしょう?御門みかどさんにとって、あなただけが特別な訳ではないのよ。」


私の胸を見た彼女は一瞬目を丸くしたが、私の期待に反して、大したショックを受けていないようだった。


「全く・・・体の関係なんて言うから、何事かと思ったら、ただ兄さんにブラをいてもらっただけじゃないですか?まぎらわしい言い方しないで下さい!」


「あまりおどろかないのね。」


蘭堂らんどうさんなら、それくらいの事はすると思ってましたよ。その胸だってどうせ、お人好しの兄さんに頼み込んで無理やりかせたんじゃないですか?そんな事ばかりしていると、すぐに捨てられますよ。」


「何ですって!・・・」


本当に何て嫌な事を言う女なんだろう!


彼女の言う通り、これは彼の方から望んでかれたものではない。


相手の言っている事が当たっているだけに、余計に腹が立ち、私は目の前の鷹飼美野里たかがいみのりつかみかかりたい衝動しょうどうられる。


それをギリギリで耐えた私は彼女に宣戦布告する。


「邪魔しても無駄よ!私はそれをあなたに伝えたかっただけ。」


「邪魔なんてしませんよ。そんな事をしなくても、あなたが普段通り行動してさえくれれば、振られるでしょうからね。」


「このっ!」


遂に我慢の限界を超えた私は、彼女をひっぱたいてしまう。


『しまった・・・』


思わず叩いた私の方は少なからず動揺どうようしたが、叩かれた彼女の方がむしろ平然としていた。


自分のほおを手で押さえた彼女は、真っ直ぐ私の目を見ながら口を開く。


「本当にあなたは自分の気持ちに正直な人ですね。」


私は内心の動揺どうようを押し隠し、言葉を返す。


「それはめ言葉と受け取っていいのかしら?」


「そもそも蘭堂らんどうさんは変態がおきらいじゃなかったんですか?」


御門みかどさんは変態じゃありません!侮辱ぶじょくは許しませんよ!」


「どこかで聞いた言葉ね、それ」


そう、それは以前この場所で彼女が口にした言葉だった。


くやしい・・・何でこうなるの?』


私は完全に目算もくさんあやまっていた事に気付きづく。


鷹飼美野里たかがいみのりは全く油断ならない人物だった。


今まで彼女は私から攻撃を受けても大した反撃はせず、いつも撤退てったいしていた。

そのため私は彼女の事を完全にめていた。


しかしそれは間違いだった。

彼女は単に本気を出していなかっただけなのだ。


私が無力な子猫と思って対峙たいじした彼女は、実は人食いトラだった。


戦況は一方的に不利だったが、私は負ける訳にはいかなかった。


私は鷹飼御門たかがいみかどの正式な彼女なのだ。鷹飼美野里たかがいみのりは妹に過ぎない。

逆転の目はあるはずだ。


私は彼女に反撃をこころみる。


鷹飼たかがいさん、あなたがいくら御門みかどさんの事が好きでも兄妹きょうだいは結婚出来ないのよ、残念ね。」


「そんな事知ってます。蘭堂らんどうさん、あなたがいくら兄さんの事が好きでも、あなたの性格では兄さんと結婚出来ませんよ、残念ですね。」


「そんな事分からないじゃない!あなたと一緒にしないで!」


「付き合ってすぐに結婚だなんて、痛い女!男が引くタイプね。」


相手を挑発ちょうはつするつもりが、逆に挑発ちょうはつされてしまう。


私は次第に冷静さを失い、彼女の術中にはまっていった。


「妹のあなたがいくら反対しようが関係ないから!御門みかどさんは私のものよ!」


「それが蘭堂らんどうさんの本音って訳?兄さんは誰の物でもありません。さっから聞いていれば、あなたが言ってるのは自分の事ばかりじゃない。あなたは自分の気持ちを兄さんに押し付けているだけ。」


「そんな事ない!」


「あります!蘭堂らんどうさん、あなたでは兄さんを幸せには出来ない。あなたにだけは兄さんを渡さない!」


「・・・どうやら話し合っても無駄のようね。」


「ええ、全く同感です。」


議論は全くの平行線であり、これ以上戦い続けたところで私に勝ち目は無かった。


あなどっていた・・・』


相手を圧倒あっとうするはずが屈辱的くつじょくてきな敗北をきっした私は、くやしさに震えながら女子更衣室を後にした。

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