第43話 Precious memories

嵐が去り、翌日は晴天せいてんになった。


「おはよう、兄さん」


「おはよう・・・」


妹はまるで昨日の事など何も無かったかのように、全く普段通りの態度で俺に接してくる。


妹の態度があまりにも普通なので、あれは夢だったのだろうかと思いたくなるが、やはりどう考えても現実だ。


『あれはキス・・・だよな、やっぱり』


妹がどうしてあんな事をしたのか、俺には全く心当たりが無かった。


確かに最近、妹の胸にブラをいたり、Dカップに変身させたりしたが、それがキスの理由にはならないだろう。


かと言って、ただの悪ふざけでキスをしたとも思えなかった。


そもそも悪ふざけをするような状況ではなかったし、何より妹は泣いていた。


妹に直接理由を聞いても、本当の事を教えてくれそうになかったし、理由が分からなければ怒る事も謝る事も出来ない。


『自分で考えろって事か・・・』


俺は妹に難問を突き付けられた気分だった。


部屋に戻った俺は、手がかりを探すために昔のアルバムを引っ張り出す。


アルバムを開くと、そこには屈託くったくなく笑う小さい頃の俺と妹の姿があった。


アルバムの写真を見つめながら、俺は妹との事を改めて振り返る。


ケンカもしたけど、昔から仲の良い兄妹だった。


あれは何時いつの事だったろうか?


そう、俺が小学校1年の頃だ・・・


俺の中で、手繰たぐりせた記憶がよみがえる。


「わたし、お兄ちゃんのおよめさんになってあげる。」


「いもうとがおよめさんなんて、へんだよ。」


「へんじゃないよ。だってわたし、お兄ちゃんのこと大好きだもん。」


「それならいいよ。お兄ちゃんもみのりのこと大好きだから、およめさんにしてあげる。」


「やくそくだからね、お兄ちゃん。ぜったいだよ。」


美野里みのりはずっと変わらない。

忘れていたのは俺の方だ。


美野里みのり・・・そうだ、決して口にはしないけれど、美野里みのりはいつだって俺の事を一番に考えてくれていたんだ。』


俺は妹の素っ気ない態度の裏にかくされた想いに気が付く。


美野里みのり、ごめん。俺はお前の事を全然分かっていなかったんだな。』


しばらく無言で考え続けた俺は、おもむろに彼女へ電話をかける。


蘭堂らんどうさん、突然で済まないが、今度の土曜日に家に来てくれないか?妹と3人で話がしたいんだ。」

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