彼の望み

 正直、おっさんの涙なんて見たくないです。ギルドマスターの望みはガルという、かつての仲間の魂の所に導いて欲しいと言う物でした。

「私は、そこまで出来る権限は無いのですよ」

 転生にまつわる事は、管轄外です。神の奇跡を望むなら、神に愛される行動をするべきなのです。

「その魂の側に行きたいのなら、行動を悔い改めるしかないですね」

 今のままでは、女神は微笑みませんよ。

「レッド様は、何故ギルドマスターをきらうのですか?」

 私の態度から、それを察したサーシャが聞いてきます。

「守る存在を間違えてますからね」

 勇者たちに関しても、監視するだけで、未熟な存在を守る事をしていません。

 ただ、これだけなら問題ないと思いますよ。冒険者は自己責任という風潮があるみたいです。

 問題は、レンの存在です。

 このこのスキル、敵を強くします。一度強くなった相手は、死ぬまで弱体化しません。これを利用すれば、一度敵対すれば強くなれると思もう人もいそうですが、それは出来ません。

 加護やスキル、色々と未知の部分が多いのは仕方ありません。知らないものを、危険と知らずに放置するのは良くは在りません。

 最初に、危険として殺そうとした人たちのほうが、実は正しかった可能性もあります。

 付近に、龍クラスの魔物がいた場合、私がいなければこの国は消滅していたでしょう。

 知らなかったではすまない事が、この世界には多すぎます。

「レンガ暴走して、魔物がこの街を襲っていたら、貴方はどうしました?」

「当然、最後まで戦う」

「勝てないと解っていても?」

「それが、冒険者だ」

「街の住人は?」

「避難させる」

「誰が?」

「街の兵士にお願いする」

「冒険者が逃げたら?」

「冒険者は自由な職業、それは仕方ない・・・」

「普通は、逆だよね?」

 街を守るのは、兵士の仕事。住人の避難は、冒険者が護衛したほうが効率良い。

「そんな事は無い、兵士に、街の防衛など出来ない」

「何故?」

「あいつらは、ガルを見殺しにした!」

「見殺しにしたのは、貴方では?」

「そんな事は無いっ!」

 ギルドマスターの怒気が、空間を支配する。

「つまらない・・・」

 この体、色々と便利な機能がありますね。ギルドマスターの記憶を読み取る事に成功しました。

 街を襲った魔物の群。兵士達は、必死に防衛していました。

 それを、邪魔したのは冒険者です。個人の手柄を求め、兵士の隊列を乱し、補給物資を奪っています。

 教会から派遣された治癒部隊は、兵士の為の部隊なのに、冒険者が割り込んで治療を強要していたみたいです。

 ガルという人物は、個人では最強クラスの戦力みたいで、1人で群に飛び込んで、孤立していたみたいです。

 ギルドマスターは、個人でそこそこ、パーティを組む事で実力を発揮できるタイプの戦士でした。彼の名前もガル。ガルガルコンビとして、活躍していましたが、片割れが先行した事で、実力を発揮できなくなっていました。

 彼が遅れた理由は、他の仲間を守っていたから。仲間を失う訳にはいかないと、危険な部分を援護して、誰も死なせないと、躍起になっていました。

 彼の的確な指揮の元、当時の冒険者は、1人の犠牲で魔物の群を撃退しました。

 兵士は、3割の犠牲者が出ています。隊長は戦死。

 冒険者の犠牲が少なかったので、この日から街の人間は、兵士よりも冒険者を頼るようになりました。

 頼られなくなっても、兵士は職務に忠実で、今も街の平和を支えています。

 犠牲となった冒険者は、ガルでした。魔物に包囲され、嬲り殺されました。

 道連れに、多くの魔物を倒しましたが、多勢に無勢。援護が間に合わず、絶命しました。

 この時、援護しようとしたのは、冒険者ではなく兵士達でした。戦死した隊長は、ガルを助ける為に無謀な事をしたのが原因だった。でもそれを彼は知らない。

 兵士にとっては、冒険者もこの街の住人。助ける対象だった。

 治癒部隊に関しても、民間人を優先にという考えの下、兵士を後回しにした。これは、隊長のミス。隊長が死んだのは、ある意味自業自得。助ける必要の無い存在を、助けた結果。この魂、街の側で彷徨っているから、後で回収だけはしておこう。道を間違えたけど、能力はあるみたいだからね。街のことが気になって、未練があるみたいだから、それを調べて断ち切ってあげましょう。

「もしもの話だけど、貴方が冒険者を助けなければ、兵士の損害は縮小して、ガルが助かったとしたらどうする?」

「何の話だ?」

「あの時の出来事。仮定の話だけど、聞きたい?」

「・・・」

「私は、過去の事が見れるみたいなの。貴方は、駄目過ぎね」

「駄目だと?」

「戦場で、誰も死なせない?馬鹿なの?見方の犠牲は覚悟しなさい。無理な援護で、中途半端な生き残りがいたから、その分無駄に治療が遅れていました」

 冒険者も、覚悟の上で参戦していたはずです。死ぬ気で戦えば、活路が開いた場面もありました。中途半端に助かったので、生にしがみ付き、治癒に関してのリソースを奪っています。この分を、兵士に回しておけば、犠牲は1割まで抑えられたでしょう。生延びた冒険者のほとんどが、怪我と恐怖を理由に廃業しています。

 このた戦いでの報酬もあるので、引退した人が多いのでしょう。

 街の防御力は、かなり低下しています。この状況で、即戦力となる勇者チームを失ったのは、マイナスです。殺した私がいうことではないけど、街を守るのであれば、失格ですね。

 兵士達を、意図的に下に見て、関係は悪化しています。この状況は、街の住人に浸透しています。街の上層部は、冒険者ギルドに期待していて、防衛に関しては大きな権限を渡しています。

 それなのに、この失態。状況の元凶と言っても良いのに、自分だけ仲間の魂の所に行きたいなんて、上司が認める分けがありません。

「理解できましたか?」

 簡単に説明すると、生き残ったほうのガルは、膝をついてうなだれるのでした。

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