ギルドにて

 面倒になったので、サーシャを担ぎ上げて、レンと全力疾走をします。といっても、レンの速度にあわせています。今の私なら、音速を超える事も可能でしょう。

 そこまでやるつもりはありません。本当は、ゆっくりと楽しみたい所ですが、サーシャが教会に急いで行きたいというので、急ぐ事にしたのです。

 3時間はかかるという距離を、10分ほどで駆け抜けました。ショックで、サーシャの顔色は悪いです。

 少し休憩して、街の中へと入ります。

 門番に、色々と聞かれると思いましたが、その辺はサーシャが手続きしてくれました。聖女という肩書きは、中々効果があります。

 まずは、ギルドに行って報告です。

 サーシャが、その辺の事を引き受けてくれました。使途様に尽くすのですと、気合が入っています。

 ギルドの中は、時間的に人が少なく、受付の人に挨拶するとすぐにギルドマスターの部屋に通されました。

 勇者達の死亡は、すでにギルドは把握していました。監視チームを、最初から手配していたみたいです。戦闘力は無く、監視するだけの存在。

 勇者の戦力を分析するのが目的で、今後の方針を決める為の存在だったそうです。


 その監視チームが、勇者パーティの全滅を報告した時、ギルドマスターは、複雑な気持ちになっていた。

 勇者チームの育成は、国から頼まれた物だった。時代の英雄を作り上げる。それを国が求めていた。

 ただ、彼は英雄は作り上げるものではないと思っていた。

 時が来れば生まれる存在。自らの力で、危機を乗り越え、機会を己の手で引き寄せる者。かつての自分の手には、その力があった。

 何度もの試練に打ち勝ち、巨大な敵を討ち取り、栄光をこの手におさめた。

 だけど、その力は今時分の手の中に無い。ある日、突然消えてしまった。

 理由は解っている。戦うのが怖くなったから。

 信頼していた仲間を失った時、光り輝く未来は消えた。

 勇者たちが死んだのは、弱かったから。英雄でなかったから。

 それなら、それを倒したという目の前の少女は何者だろう?

 外見は、子供だ。銀色の、美しい髪が目立つけど、真っ赤な瞳は恐ろしさを感じる。

 その身に纏っている魔¥力も、強大で濃密だ。底が見えない。彼女の話だと、レンという少女を引き取りたいということだった。

 その子は、特殊な加護を持ち、少々扱いに困っていた子だった。つれて行くというのなら、問題ない。勇者の死に関して、国から何か言ってくる可能性はある。

 その前に、余計なトラブルと排除しておいたほうが良い。

 聖女だったサーシャに関しては、教会から行動の自由を保障するように言われている。この事も、確認しなければいけない。


 目の前の男を見て、がっかりです。英雄というから、どれだけ凄いと思っていましたが、当てが外れました。

 刈り取りリストから除外します。能力だけを見れば、かなりの物を持っています。力だけある雑兵が増えても、あまりうれしくありません。私が、がっかりしている事を、サーシャは見抜いたみたいです。少しほっとしています。殺され無いと、判断したのでしょう。中々、気が利くこのようですね。

「レッドと、名乗る事にしましょう。このレンと、ついでにサーシャを私の従者としてつれて行く許可を貰いたい」

「従者ですか?」

「ある目的の為、この地を探索する必要が出来ました。それに必要なのです」

 にっこりと、笑顔絵でお願いします。ギルドマスターは、それをさらりと受け流します。この辺は、評価しても良いでしょう。

「目的を聞いても?」

「魂の採取ですね。ある筋から頼まれたのです」

 嘘は言っていません。

「悪人を始末する旅でもするのかな?」

 こちらを、少し小ばかにした言い方です。

「善人も、狩りますよ」

 にこっりと、返事をします。次の瞬間、部屋の空気が重くなります。中々、良い威圧です。

「無差別殺人を、認めるわけにはいかない」

「可愛い少女の、戯言だと思いませんか?」

「嘘を言っているわけではないのだろう?」

 ギルドマスターは、部屋に結界を張ります。

「私と、やりやうつもり?」

「・・・」

 返事はありません。

「この街の人間を、皆殺しにするといったら?」

「嘘は言わなくても良い・・・」

「なるほど・・・。加護の能力ですか。私の言葉を判断できるとは、厄介な物ですね」

 一応、言霊に気をつけて発言してますよ。嘘を見抜くギフトの存在は、想定しているから、対策は取ってあります。

「魂を集めて、どうするつもりだ?」

「それは、上の存在に任せます。私は、ただ集めるだけです」

「それなら、あいつの、ガルの魂がどうなったのか、知っているのか?」

「ガル?」

「英雄の片腕です。先の大戦で命を落とした・・・」

 サーシャが、すぐに応えてくれました。ただ、その声には何か含む感じがします。

「接続・・・」

 データベースに接続します。この世界の情報を取得。あっち側にいたみたいですね。既に、転生済みですか・・・。私が、討伐しています。中々、手ごわかったので、優秀な存在だったのでしょう。転生先は、権限が無いので閲覧は出来ません。

「何処かの世界に、転生していますね」

「・・・」

「どうかしました?」

「私の、望みをかなえてください、神よ・・・」

 涙を流しながら、ギルドマスターは、膝をついて、願うのでした。

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