面倒事がやって来る

「街までは、どれくらいかかりそうですか?」

「歩きですと、3時間ほどです」

 屋敷を出て、街道を歩きます。この世界の移動方法は、馬車がメインみたいです。魔導馬車というのもあるみたいですが、ここにはありません。勇者パーティは、歩いてここまで来たそうなので、こちらも歩いて街に向かいます。

「この辺りは、魔物も少ないですね」

「解るのですか?」

「これくらい、この状態でも出来ますよ。ある程度なら、レンもわかりますよね?」

「周囲2キロが、限界」

「それでも、充分凄いです・・・」

 サーシャは、レンが強いということを、改めて認識しました。だったら、他のメンバーは死ななかったのでは?という言葉は、言わずに飲み込んでいます。

「魔物はいないけど、人がいる」

「5人という事は、冒険者でしょうか?」

 この辺りの冒険者は、5、もしくは6人のパーティで行動するのが基本みたいです。勇者パーティは、2組合同だったみたいです。

「何か、探してる?」

「そうみたいですね。勇者パーティを探しているのかもしれません」

おそらくそうでしょう。私達が、屋敷から出た瞬間、こちらに向かってきています。場所を特定できるアイテムが、紛れ込んでいる可能性があります。

「レンの荷物の中に、居場所を知らせるもの何かある?」

「遺品の中に、あったかも」

「ギルドの関係者でしょうね」

 やってきたのは、男が5人です。冒険者と思ったら、騎士のような鎧を着ています。

「サーシャ殿、ご無事でしたか」

「ロット様?」

「知り合い?」

「アイゼン王国、第2王子親衛隊の隊長です」

 隊長という役職の割りに、若い様な気がします。全員10代後半様な幼さがあります。

「お飾りなので・・・」

 小声で、補足。

「なるほど」

 若い理由はそれだけではないでしょう。王子の友達がコネで所属している可能性もありそう。

「他の方々は、どうされました?」

「街に戻ったら、説明します」

 それだけで、何があったのか理解したのでしょう。

「なら、丁度良かったです。我々は、サーシャ殿を迎えに来ました」

「私を?」

「クロト王子様の命令です。我々と来て貰います」

「その話は、お断りしたはずですが?」

「事情が変わりました。勅命です」

「何かあったの?」

 横から入り込んで、事情を聞きます。

「クロト王子から、何度も側室へ勧誘されていました。聖女の加護、王族や貴族が欲しがるのです」

「玉の輿?」

「クロト王子は、それほど問題はありませんが、王家は問題だらけなのです。教会としては、許可できないので、ずっと断っていました」

「王家を、馬鹿にするのか?」

 騎士達は、腰の剣に手を添える。

「継承者問題で、何年も内戦状態のところに、嫁ぎたいとは思えません」

 サーシャは、王家の問題を指摘する。

「だからこそ、クロト王子の側室に、聖女様が必要なのだ」

「そうなの?」

「聖女の加護、国民には受けが良いのです。女神の祝福を受けたと思われているみたいなのです」

「ここに来て、何か変化があったのね・・・」

「そうみたいです。それにしても、他のメンバーがいたらどうするつもりでした?」

「ギルドとは、話が付いています。勇者たちは、クロト王子が買収したので問題ありません」

「そう言うことだったのね」

「心当たりが?」

「最初、色目使ってきて鬱陶しかったけど、途中からそう言う気配が消えたの」

「これだけ可愛かったら、仕方ないね」

 サーシャ、育つところは育っているし、美人さんと可愛い系の両立した中々の逸材だ。お風呂の時、ゆっくり出来なかったので、今後が楽しみです。

「邪な気配を感じます」

「気のせいではないです」

 サーシャとレンが、半目でこちらを睨んでいます。ぐっじょぶ。

「とにかく、私は大事な使命があります。行く事は出来ません」

 それを聞いて、騎士達の表情が曇る。

「既に、そちらにも話が行っていたのですね?」

「何が?」

「教会から、王家に対してサーシャ殿への接近禁止の通達が昨夜ありました」

「今までだって、いくら言っても聞かなかったじゃない!」

 サーシャが、声を荒げます。嫌な事があったのでしょう。

「昨日の通達は、教皇様直属の通達でした」

「教皇様が?」

「サーシャ殿が、聖女で無くなった。大事な使命ができたという通達でした」

「聖女じゃない?」

 そういわれて、サーシャが何かを確認しています。

「あ、本当です。加護が変わっています」

 教皇の言葉というのが気になったのでしょう。普通、加護は確認しません。加護が変わるという事は、基本無いのです。

「本当ですか?」

「神のメイドという加護になってます」

 メイドさんですか、神のというのが気になりますが、メイドさんは良いものなので、良しとします。

「聖女ではないのですね?」

「はい」

 にっこりと、サーシャは返事をします。加護で色々と苦労したのかもしれません。この世界、加護で人生左右される人が多すぎる気がします。

「この事は、王子に報告します」

「どうぞ、ごじゆうに」

 騎士達は、大人しく引き下がりました。このこの価値を、加護だけで見ているようで、気分の良いものではありません。

「これ、後で問題になりそうですか?」

「クロと王子は、聖女の加護を持った人物を欲していたので、問題ないともいます」

「そうなの?」

「メイドの加護も、それなりに存在しますから、大丈夫でしょう」

「神のと付くメイドは?」

「あっ!」

「聞き流してくれれば、良かったけど、どうかな?」

「始末します?」

 レンが、過激な事を言います。

「やめておく。面倒な事になったら、その時考える」

「仕方ないね」

 こんな事で殺したら、限が在りません。失言の責任を、別の方法でサーシャには取ってもらいます。

「あうぅぅ・・・」

 今後起きる出来事を、考えているのかサーシャの顔色はよくありません。

「とりあえず、ギルドに報告して、その後はこの国から出て行きます。面倒ごとは、避けましょう」

 色々と、考えが甘かったと、後になって思いました。

 面倒ごとは、どうやってもやってくるものだと、後になった知りました。

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