旅の支度 その2

「何をしているのですか?」

「ちょっと、訓練」

 サーシャが起きるまで時間があったので、中庭でレンと組み手をしています。

「百烈拳っ!!!」

 レンが、連続で拳を激しく突き出してきます。中々の威力です。

「もっと、速く、正確に!」

「うがぁぁぁぁあぁ!!」

 その全てを、手のひらで軽く受け止めます。受け止めた瞬間、物凄い衝撃が発生しているけど、特に痛みはありません。これくらい、可愛いものです。

「その一撃で、岩が砕けそうなんですけど・・・」

 サーシャは、その威力を正確に見抜いています。この子も、それなりに見所はあります。時期が来れば、スカウトしたい人材です。

「何か、企んでいませんか?」

「今後の予定を、考えていただけですよ」

 サーシャの事も、考えないといけません。

「一度、やってみたかった事、やっても良い?」

 攻撃が止まったレンに対して、私は告げます。

「嫌な予感しかしません・・・」

 体を守るようにして、レンが言います。その姿勢では、成功しないでしょう。止めておきます。

「では、最後の仕上げです。全力の一撃を放ってください」

「覇っ!!」

 気合の入った良い一撃です。単純な正拳突きですが、それで良いのです。

「山、崩れませんか?」

 それくらいの威力は、あったと思います。

「久しぶりに、全力が出せました」

「もっと精進しなさい」

「はい」

 私とレンを見たサーシャは、この時恐怖したらしいです。朝のじゃれあいなのに、失礼な話です。


 その後、簡単に朝食を済ませて、話し合いをしました。

「最初に、街に行ってレンを身請けします」

「身請け?」

「ギルド関係で、もめる可能性あるよね?」

「勇者達の死亡、レンのせいにされる可能性はあります」

「そうなると、処罰がある?」

「最悪、死刑。良くて奴隷扱い?」

「レンの責任じゃないのに、酷い話ですね。そうなると困るので、こちらで引き取ります」

「ですが、いくら使途様でもそんな事出来ますか?」

「材料は、これがあります」

 一本の剣を取り出します。

「これは?」

「報酬で得た、聖剣です」

「報酬?」

「勇者と戦った報酬です。レンの加護ですね。アイテムボックスの中に入っていました」

「アイテムボックス、お持ちなのですか?」

「異世界を旅するのに、必要なスキルはある程度持ってますよ」

 鑑定と、アイテムボックスは、戦女神からの贈り物です。

「聖剣のほかにも、賢者の杖もありますね。中々のレベルの品です」

「レンがいれば、それが手に入るとなると、手放さなくなるのでは?」

「その都度、壊滅的な被害が起こるとしてもですか?」

「私もそうでしたが、自分達が負けるとは、中々思いません。私達なら、出来るとおもう人は多いです」

「確かに、そうおもう人は多いでしょう。今回、ギルドのマスターは抹殺の対象なのですよ。なので、問題ありません」

 そう言うと、サーシャは悲しそうな表情になります。

「仲が良かったのかな?」

「ギルドマスター、街の英雄です。あの人のおかげで、今の街があります。殺さないで済む方法ありませんか?」

「エメラルダの資料は、色々問題感じています。実際に会って、判断します。それと、私達の感覚が、サーシャと違うのは理解しています。この世界に生きている人の意見は大事なので、遠慮なく言ってね」

「ありがとうございます」

 サーシャに、感謝されてしまいました。元々、このたびは休暇です。世界を引っかき混ぜる予定はあります。

「私は?レンは何をしたら良いの?」

「レンは、マスコットです。旅の癒しとして連れて行きます」

「本気ですか?」

「本気です。サーシャは、案内人です、この世界の常識と教会との繋ぎをお願いします」

「サーシャは、聖女だから当たり前。私は、元々関係ない」

「レンには、一応報酬を考えています」

「報酬?」

「加護により、色々と不便な思いをしていると聞いています。休暇が終わるとき、もしくは3年過ぎるまでに、安心して暮らせる環境を作ります」

「三食昼寝つき?」

「レンガ望むなら、頑張ってみる」

「上司の所で雇うのは、駄目だよ?」

「流石に、それはありません。レンは、この世界の住人です。この世界で幸せにならなければ、あの世界で戦った日々の意味がありません」

 正直、お持ち帰りしたいですが、自制します。彼女がそれを望んでも、共にいく事はないでしょう。これだけは、しっかりと意識しておきます。


 サーシャから、周辺の地図と情報を受け取ります。

 この周辺は、魔物が多く、治安もあまりよくないらしいです。

「盗賊は、いるのかな?」

「質の悪い冒険者はかなりいます。残念ながら、女3人の旅は危険かもしれません」

「なるほど」

「何故、そんなに嬉しそうなのですか?」

「お約束を体験しなければ、旅じゃない」

「出来れば、皆殺しは避けてください」

「状況しだいだね。楽しみ」

 荷物は、レンが運びます。半分は、私のアイテムボックスに収納しました。

 食料も、ある程度確保してあります。

「管理は、任せる」

「了解しました。またのお越しを、お待ちしております」

 最後に、管理精霊に挨拶をして屋敷から出ます。

 さぁ、旅の始まりです。

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