第2話 封印されました

 目が覚めると、森の中でした。

 久しぶりに、体中に重力を感じます。大地に立っているという感覚があります。

 嬉しい物です。肉体があることを意識します。体中に、血が流れています。ついでに、体のかなに、恐ろしい量の魔力がある事も判明しました。

 体中に、自然を感じているので、何か違和感を感じます。

「って、何で裸?」

 どうやら、何も身に付けていません。あの戦場では、意識を巨大な機械兵器と融合していたので、肉体はありませんでした。久しぶりの肉体ですが、物凄く違和感があります。体の、ある部分が、すっぽりと抜けています。

「って、何で女の子になっていのですか?」

 自分の意識を、少しずらして自分のことを確認します。これくらいの事は、簡単にできます。

 今の自分は、女の子になっていました。年齢は10代前半でしょうか?

 銀色の長髪で、赤い目をしています。この姿は、見覚えがあります。あの忌々しい上司の姿を幼くすると、こんな感じなるのでしょう。

「やれました・・・」

 姿を意識した瞬間、精神が引き寄せられます。

「心まで、女になってたまりますかぁぁあ!」

 それに逆らいます。体が女の子になっても、心は日本男児でありたい。

 生前の記憶が、少し蘇りました。自分は男でしたよ。こんな女の子ではありません。

 自分の裸を見ても、何も感じないのが少し寂しい?気がします。

 ちなみに、胸のサイズは、小盛りです。外見相応なのかもしれません。これは、あの戦女神の趣味なのでしょうか?

 如何した物かと悩んでいると、何者かが転移してくる気配です。

「使途様、お待たせして申し訳ありません」

 やって来たのは、神様だと思います。この世界の管理神かもしれません。

「あれ、この波動は先輩ですか?」

「そう言う君は、後輩か・・・」

「随分と、可愛い姿になってしまったのですね」

 そう言いながら、抱きついてきます、あの戦場で、一緒に戦っていた仲間だ。格が上がり、神になる道を選び、何処かの世界に修行に行った後輩です。

「戦女神様の作られた、この世界を守護する神の一柱、エメラルダと申します。使途様のご訪問、心より歓迎します」

 後輩改め、エメラルダは、自分の知らないいろいろなことを、上司から聞いているらしい。

「女になった理由は、そんな事なの?」

「大事な事です」

 一番気になった事を聞いてみると、答えは単純だった。自分がここで、子供を作った場合、世界のバランスを壊す可能性のある存在を産み出してします。その可能性を減らす為に、女にしたらしい。

「考えたくないけど、自分が妊娠して子供を産んだらどうするの?」

「するつもり、あります?」

「無い」

「大体、あの時、私を含めて何人もの天使が交際を申し込んでも、全部断っていたじゃないですか!」

「あの場所で、そんな余裕があるか!最前線での地獄の日々、他の事考えられないから休みが欲しかったのに!」

「余裕はありましたよ。先輩が、見なかっただけです。この世界、戦女神様が基礎を組んだので、争いごとが多いけど、先輩なら余裕で休めると思いますよ」

「後輩が、管理している時点で不安だよ」

「言いますね。先輩の存在は、色々とバランスを崩すので、私からも制限をつけることできますよ?」

「できるなら、やってくれ。面倒ごとは減らしたい」

「そう言うと思いまして、先程抱きついた時に、色々と細工をしたのですが、無駄でした」

「無駄?」

「先輩、格を上げすぎです。私の加護が全部弾かれました」

「加護?」

「この世界の住人は、神より加護を受けています。加護を得ることでスキルを得ます。それにより、色々と評価される世界です」

「加護がない人間はいないのか?」

「どの種族も、基本的に加護を得ています。例外は、古代種という太古の種族だけです」

「私が、それだという設定は?」

「可能ですが、苦労しますよ?」

「多少の苦労は大丈夫。理不尽な戦場よりは、ましだよね?」

「そう言われれば、そうですけど・・・。色々とトラブルを呼びそうです」

「それも、休暇の醍醐味」

「解りました。加護が駄目なら、初期装備をプレゼントします。裸のままでは、駄目ですよ」

「好き好んで、こんな格好をしていたのではないに・・・」

 思考が、徐々に幼くなっているのを感じます。肉体に、精神が引っ張られる感覚があります。これは、面白いので身を任せます。

「どうですか!」

 気がつけば、全身鎧を装備していました。

「悪くないな」

 黒色の全身鎧です。軽く動いてみると、良い感じで動けます。

「その美貌だと、余計なトラブルを招きます。先輩なら、その鎧でも普通に動けますよね?」

「なるほど。いきなり全身鎧は無いと思ったけど、理に叶っているのだ」

「後一つ、名前はどうします?私が仮の名前を授けましょうか?」

「あの世界の異名の一つ、レッドで良い。瞳が赤いので、丁度良い」

「っち」

 エメラルダが、小さく舌打ちをした。名前を、仮でも受け取ったら、支配されかねない。この後輩、中々危険である。

「武器は必要ですか?」

「戦う相手がいるの?」

「戦女神様が作った世界ですよ」

「少し待って」

 確かに、あの上司が作った世界なら、何があっても不思議ではない。体の中に意識を向け、自分の能力値を推測する。できること、できないことを読み取る。

「今は、必要ないみたい」

「なら、この短剣を差し上げます」

「そう?」

「この後は、どうします?」

「とりあえず、街に行ってみる」

「でしたら、この先にある街がお勧めです」

「何かあるのか?」

「ギフトの関係で、苦労している子がいます。面白い人材なので、出来れば

延命してほしいです」

「何もしなければ、死ぬのか?」

「死にます」(にやり)

 神が言うなら、間違いないだろう。個人に関わる事は、出来るだけしないのが神という存在だ。

「なら、行って見る」

「よろしくお願いします。私は、出来るだけ見守っていますよ」

「覗き見は、辞めてほしいの」

 鎧の頭部を外して、上目使いで後輩にお願いしてみる。

「せ、先輩と解っていても、その仕草は卑怯です。その凶悪は顔は出来れば封印してください。道を誤る人が出そうで怖いです」

「考えとく」

「では、私はこれで失礼しますね」

「ありがとう」

 にっこりと微笑む。

「だから、それは駄目です。封印してください」

  兜をかぶるのを見てから、エメラルダは転移していきました。余計なトラブルを回避する為にも、封印しましょう。

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