実力の片鱗
目の前の画面は6画面に分かれており、それぞれにトランプが裏向きになって並べられている。
画面右上の端にはカウントダウンが表示されており、この数字が0になった瞬間から2分間、俺たちはカードを記憶することができる。
そのカウントダウンも既に15秒を切り、一桁台へ差し掛かろうとしていた。
もうすぐ試験の始まりである。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。
「スタート」
放送で始まりの合図が出された。合図と同時に裏向きだったトランプは一斉に表へとひっくり返る。
正直、教室の人や柊たちには悪いが、ヒントをもらうつもりは毛頭ない。ある程度、俺の実力の鱗片を見せつけるためだ。
まぁ言うならば、ここが腕の見せ所ってやつだろう。
「記憶作業を終了してください。これより解答をしていただきます。時間は12分間です。また、もしヒントが欲しい場合は、画面左下にあるヒントボタンを押し、どちらの方々からヒントが欲しいのかを選択してください。それでは解答を始めてください」
2分間の記憶時間が終わり、解答時間がスタートする。
俺は合図とほぼ同時に手を動かしていた。
迷うことなんてない。全てが頭の中に入っているからだ。
1画面目を1分でクリアし、2画面目に入った。今度は1分もかからない。
俺はそのままペースを落とすこなく、次々とペアを作っていく。
約6分間もの間、休めることなく手を動かし続けて全てのカードをめくり終えた。
当然ながら、目の前に現れた表記は「perfect」という文字だ。
これで俺たちの1位は確実なものだろう。
俺はそう確信したのだった。
1年Aクラス 教室
1学期最終試験の結果発表が行われた。その結果は以下の通りだ。
1位 Eクラス 162 ヒント0
2位 Aクラス 159 ヒント5
3位 Dクラス 154 ヒント5
4位 Cクラス 78 ヒント5
5位 Bクラス 63 ヒント5
1年Aクラスのほとんどの生徒はこの結果を見て驚いていた。いや、きっと全クラスのほとんどの生徒が驚いていたことだろう。
1位のEクラスは、ヒントを使わずにperfectを叩き出したのだ。驚かないはずがない。
Aクラスの生徒たちは、それぞれ驚きの声を上げる者、プレイヤーを務めた生徒を罵倒する者など、様々な反応を示していた。…が、ただ1人だけ、そういった者たちとは違う反応を示す女子生徒がいた。
その女子生徒はこの結果を見て、「Eクラスですか…」と呟く。そこには驚きでも悔しさでもない、喜びという感情が滲んでいた。
「
Aクラスの
「いえ、お気になさらないでください。思わぬところに伏兵が潜んでいたもので、少しばかり舞い上がってしまいました」
「そうですか。珍しいですね、西園寺さんが興味を持たれるなんて。…しかし、Eクラスの解答者は誰なのでしょうか」
「さぁ、興味がありませんでしたからね。流石の私でもわかりませんよ。でも、突き止めたいものですね」
そう言った西園寺は机の上に置かれていた紅茶に口をつける。
その所作は美しく、微塵の隙もない。
西園寺は目を瞑って、顔もわからず性別すらもわからない、そして、とんでもない能力を秘めた人物を思い浮かべる。
いったいどんな人物なのか。その人物は自分と張り合える人物なのか。退屈を紛らすことができる人物なのか。
全ては会ってみないとわからないものだらけだ。
「うふふ、次の試験が待ち遠しいものですね」
勝った時ですら笑うことのない西園寺が笑う。そんな光景に驚くAクラスの生徒たち。
そんな生徒たちには目もくれず、西園寺は次の試験のことで頭がいっぱいなのであった。
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