試験最終日
桜井学side
試験最終日。時刻は10時23分。
俺たちの足取りはまさに順調だった。ただ、それは途中までだった…のだが。
試練は13個目を過ぎたあたりで難易度が上がっていたのだ。
ルール上、試練をクリアしないとゴールが出来ないというわけではない。だが、全てクリアすると15ポイントが無条件で手に入るので、クリアはしておきたい。
「んー。んんー。ん〜〜。…わかんない」
散々唸った挙句、そう呟いたのは蒼井だ。今、俺たちは15個目の試練に挑戦している。
内容は事態は至ってシンプルなものだ。
【平等とは善だろうか、悪だろうか。あなた自身の回答を述べよ。また、その理由を10文字以内で述べよ】
「そもそも、どーして『回答』っていう漢字を使ってるの?『解答』じゃなくて?」
南が確認をするように問いかける。良い着眼点だ。その部分がこの試練の肝と呼べるものだろう。
「そうね。読み方は同じだけれど、単純な違いは答えがあるか無いか。今回の場合は答えが無いみたいね」
「どういうこと?」
柊の説明でも、優が理解できていないようだ。ただ、その答えは柊に求めて欲しかった…俺にではなく、な?
でもこれくらいは一般常識だろう。そう思って、優の質問に答える。
「アンケートに回答する場合に使う回答だな。答えが無いっていうのは、人によって様々な答えが出てしまうってことだ」
「なるほど…、じゃあこれ答えはないの?理由があれば何でもいいの?」
「それがわからないのよ。何て答えればいいのか…。大体、答えが無い試練を最後に持ってくるわけがないわ。これにはちゃんとした『回答』があるはずなのよ」
柊が言っていることは当たっている。言うならば、国語のテストみたいなものだ。人それぞれで回答は違えど、意味するところは同じ。そういう答えが求められているのだろう。
30分ほど熟考するが、答えは出ない様子。仕方がない、今回ばかりは少しだけ手を貸すか。これまで何もしてないし、それで責められたくもない。
「平等ってなんなんだろうな」
俺が突然放った言葉に、全員が首を傾げている。俺はそれに構わず言葉を続けた。
「この世に完全な平等なんてないだろ。そうなるよう努力はしてても、実際は平等になんてならない」
「つまり…どういうことかしら?」
「つまりあれだ、答えを出そうにも俺たちには比べる判断材料がないんだ。完全な不平等を知っていても、完全な平等は知らない。だからどちらとも答えようがないんだ」
俺の考えを聞いて柊は「なるほど」と納得してくれたようだ。他の3人もそれぞれで頷いている。
「それじゃあ答えるか」
俺は目の前のパネルに答えを打ち込んだ。内容はざっとこんな感じ。
『回答:どちらともいえない
理由:平等を知らないから。』
周りに確認を取り「回答」という所を押すと、パネルには「合格」と表示された。これで無事、全ての試練をクリアしたようだ。
「なんかよくわかんないけど、学ナイスっ!」
蒼井が俺の背中を叩く。軽はずみのボディータッチって結構効くんだよな…。特に美少女だとね。まぁ別にいいけど。
俺と柊以外の3人はそれなりに喜んでいるようだった。ただ、忘れていけないのはまだ試験があるということである。
「喜ぶのはまだ早いわ。気を引き締めましょう。試験はこれからよ」
「そうだね!」「うん」「かんばろう!」
柊の言葉にそれぞれが頷く。その光景はとても微笑ましくあった。柊はリーダーとしてクラスをまとめる立場だが、性格からして普段から周りと関わることをあまりしていない。その彼女がこういった場で馴染めてきたのは大きな進展だろう。
そう思っていると、柊が何故かこちらを見ている。不思議だったので目を合わせると、何やら嫌な笑みを浮かべた。
「あら、学くんからの返事がまだね。やる気がないのかしら?せめて意気込みくらいは言ってほしいものだけれど」
「…さっき俺が試練クリアしただろうが。やる気なかったら答えねぇよ」
「あら、これまでの試練の貢献度としては私の方が上よね?それにリーダーは私よ?逆らうの?」
「引き締めましょうって言ってたのはどこのどいつだよ…」
俺の抵抗も虚しく、あえなく撃沈。
権力の力を思い知り、やっぱり平等は正義なのかもしれないと思ってしまったのだった。
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