試験への話し合い その1

今回長くなっちゃいました。次回も長くなりそうです。すみません。


かさた

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「さて、まずはプレイヤーを選ぼうか」


 当然のように前に出て話し合いを進める村田。いつもならそこに立つのは村田ただ1人だが、今回は違う。

 今回からは柊も中心的に話し合いに参加するようだ。

 実質的にリーダーが2人。それでも村田の方がこのような話し合いの進行には向いているように思える。柊もそれは自覚しているのか、村田が進行することに異議は唱えないようだ。


「…と言っても、この中から5人を選ぶのはなかなか難しいと思う。それでね、僕から1人だけ、プレイヤーに推薦したい人がいるんだ」


「…誰かしら?」


 村田の思いがけない発言に、冷静に聞き返す柊。話し合い、というよりも2人の会話を聴いているような感覚だ。

 村田は、その質問に十分な間を開けてから答える。


「それはね……桜井学くんだよ。僕は桜井くんをプレイヤーに推薦したい」


 何を言っているのか、皆目見当もつかない。

 と言いたいところだが、実際はそうでもない。

 今までのことを踏まえて、ある程度頭の回るやつならば、俺を選んでもおかしくはないだろう。


 それでも俺の評価は、根暗、凡人、変な奴、とかそんなところだ。ほとんどの生徒が村田の発言に驚いている。


 前回の試験でもそうだったのだが、なぜ俺はこうも毎回毎回指名されるのだろうか。偶然にしてはタチが悪い。


 「また赤城に絡まれるよ…」

 そう思ったのも束の間、意外にも、最初にその意見に異議を唱えたのは真中だった。


「それは何か理由があるのかい?君が何の理由もなくそんなことを言う人間とは思えないが…。なぜ彼なんだ?」


 その質問が来ることを予測するのは容易だろう。村田は予め考えていたと思われる理由を口にしていく。


「まず、今回の試験はプレイヤー選びが重要になってくる。それは当然、みんなもわかっているはずだよね。それで、僕は僕なりに、どんな人がプレイヤーには必要かなって考えてみたんだ。ちなみに…どういう人だと思う?」


 村田がそう尋ねたのは、隣にいた柊だった。柊は村田の突然の問いかけにも迷わずに答える。


「知力、体力、ここら辺は備えていてほしいところね。あとは、リーダーとして意見をまとめることのできる人物。それと、体格的にも大きい人や筋力のある人がいた方が良いのかもしれないわ」


「うん、そうだね。僕の意見も大体はそんな感じだよ。それでもね、僕は集団には絶対に欠かせない能力が一つあると思うんだ。それが、冷静でいられる人、だよ」


「…つまりそれが桜井くんだと?」


 村田の言っていることに納得がいかないのか、真中は首を傾げながらもそう尋ねている。


「うん、その通りだよ。冷静でいられる人は視野が広くなり、物事を多角的に見ることができる。もし意見が割れてしまった時でも、第三者の目線で答えを出せるんだ。僕は、桜井くんはそう言った能力を持っていると思う。赤城くんや矢島くん、Dクラスの獅子くんに絡まれても冷静に受け答えをしていたことが、何よりの証拠だよ」


 困ったものだ。ここまでの理由を出されてしまったら、なかなか否定がしにくい。


 ポーカーフェイスってことにしようかな。

 いや、それだと冷静ってことになんのかな。もうよくわからん。


 まぁちょうど良い。今回はプレイヤーになった方が物事を有利に進められるはずだ。

 こんなにも自然な形でプレイヤーになれるなら願ったり叶ったりである。


「そう言うことなら、私も賛成だわ」


 村田の理由に納得がいったのか、柊がそう言葉を発した。


 村田、柊というクラスの支柱である2人が賛同したため、俺はほぼ強制的に「わかった」と答えることになった。

 こうなれば、手元に動かせる駒が欲しいな。あとは、俺の実力を多少なりとも知っている奴で固めるのが得策ではあるのだが…。


 そこで俺は、プレイヤーの1人として意見をすることにした。

 その行動の理由としては、先程の二つが主な理由ではある。が、一応ある程度みんなに認めてもらうために、それなりに頭が回る奴だと示した方がいいと思ったからでもあるのだ。


「なぁ、少し良いか」


 俺はそう言って席を立つ。なるべく注意を引き付けて意見を言うためだ。


「今回の試験、大規模な試験という割には単純すぎると思うんだ。それと、先生の「もう試験は始まっている」という言葉、何か引っかからないか?」


「確かに…そうだね。でも、大規模というのは、「学校から出て行う試験だから」では無いのかな?」


 村田が俺の言葉に耳を傾け、質問を返してきた。俺はその質問に対し、しっかりと肯定した上で話を進める。

 現時点で、その意見に反論できる術は持ち合わせていないからだ。


「ああ、そういう捉え方もできる。だから俺の意見が正しいのか、正しくないのかは不確かだ。が、無い話でもないはずなんだ」


「一体、どういう考えなんだい?」


「その問いに答える前に、一つ思い出して欲しい。先程、先生はこうも言っていた。「試験としては今までやってきたこととそう変わりはない」と。ここで突然の質問になるが、俺たちが受けてきた試験で行ってきたことって何があった?」


 その質問に答えたのは咲だ。「うーん」と頭を捻りながら必死に考える姿は、何とも可愛らしい。直視しすぎて赤城に絡まれるのも嫌なので、程々にしておく。


「えーっと、1回目の試験では頑張って模範的な生徒を演じて、2回目の試験は騙し合いだったり、リーダーを当てようとしたりした…かな?」


「ああ。まぁ具体的に言えば結構色々なことをしてきたと思うが、大体そんなところだと思う。そして、今回は1回目の試験で俺たちがやってきたことを含めない方がいい。理由は1回目の試験は俺たちEクラスしか受けていないからだ」


 そこで何かに気がついたのか、村田がぼそっと呟く。


「…公平にならない、からだね」


「ああ、そうだ。となると、俺たちがこれまでの試験でやってきたことは、騙し合いとリーダー当ての2つになる。先生の言葉通りなら、この2つから今回の試験で優位に立つ方法を見出す必要があると思うんだ」


「なるほど。つまり、そういうことが得意な人をプレイヤーに選んだ方がいい。そういうことだね?」


「まぁ、そうだな。だから、人脈が広くて他クラスの人をより多く知っている人がプレイヤーになった方がいいだろう。あと、騙し合いなら得意な奴が1人いるだろ?」


 俺はそう言って、マジシャンを目指す山口大和を見る。目があった彼は、ムリムリと両手を振りながら拒否をしていた。


 今回の試験は12時間の間、施設を彷徨い続けることになるだろう。となると体力が必要になってくるわけだが、どうやら彼には体力が無いらしい。まぁ知っていたんだけどね。



 俺がどうしてこんなにも回りくどく行動を起こしたのか。

 それは、桐崎南をプレイヤーにするためである。


 本当なら彼女自身に名乗り出て欲しいところなのだが、南はどうも女子会の後から俺への態度がおかしい。きっと、俺との関係について何か言われたのだろう。


 そうなると、俺が南を指名しなければならないのだが、それもそれで南に迷惑がかかってしまう。


 だから俺は、自然と南がプレイヤーになるよう、嘘の推測を立てたのだ。

 もちろん、先程語っていた俺の推測もなくは無い話である。が、俺の本命の推測はあれでは無い。ま、それは後々語っていくことにしよう。


 ともあれ、これで南がプレイヤーに選ばれる状況は揃ったはずだ。


 Eクラスで人脈がある生徒と言えば、咲か南のどちらかだろう。

 そして、俺が山口を誘って断られた理由のように、今回の試験には体力が必要不可欠だ。

 お世辞にも咲には体力があるとは言えない。となれば自然と南が選ばれることになる。


 こうして、俺の狙い通りに2人目のプレイヤーには南が選ばれることになった。



 この時点で俺のやるべき事は終了。あとの人選は他に任せることにした。


 もし、俺が動いて完璧な勝利を収めようとするならば、プレイヤーは俺が動きやすくて動かしやすい人間を選んだ方がいい。だが今回はそれをしない。


 理由はこのクラスの自立のためだ。

 俺は本来、穏やかで平穏な生活を過ごしたいのだ。

 こんな試験ごときで動くようなことは、本当はしたく無い。今は退学がかかっているため、仕方がなく動いているのだ。


 だから、一刻も早くこいつらには自立をしてもらわなければ困る。



 俺がこいつらの試験の捉え方や幼稚な考え方を変えてやる。俺がいなくても勝てるように教育をしてやる。


 それが俺の、これからの試験の大きな目標だ。


 つまり、今回の試験は自立への第一歩と言えるだろう。



 しばらくして、俺は円滑に進む話し合いを抜けるため、トイレへと席を立つ。



 どうやら、俺の仕事は終わっていなかったらしい。

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