D対Eの暗躍
試験の結果が発表され、すぐに俺の携帯が震えた。
相手は南のようだ。すると、また携帯が震える。今度の相手は清水だった。
2人とも、話の内容は今回の試験結果についてだろう。
南は俺が裏で動いていた事を知っている。だから連絡来てもおかしくはない。しかし清水はそうではなかった。ならなぜ俺に連絡を取ってきたのか。
それは清水新名こそが、今回の試験をクリアするにあたって最重要人物であるからだ。
それについては後で説明をしよう。
清水からは「今回のテスト、私と同じ点数じゃん⁉︎引き分けだね!次も勝負しようね‼︎」とメッセージが入っていた。
俺はそれに「わかった」と返信し、今度は南のメッセージ画面を開く。
南からは「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。今日の放課後あんたの部屋に行くから、予定空けといて」とのことだった。
俺はそれにも「わかった」と答え、クラスメイトの反応を見る。
ほとんどの生徒は純粋に喜んでいるようだ。だが何人かの生徒は、ここまで圧勝できたことに疑問を抱いている様子が見て取れる。
まぁ、全ての手柄は柊にいくであろう。彼女の采配が見事に当たった。それが表の真実だ。
周囲がお祭り騒ぎで喜ぶ中、俺はただだだ時間が過ぎるのを待っていた。
南はベッドの上に座り、俺は床に敷いた座布団に座る。これが俺たちの定位置になりつつあった。
そして話は南から切り出される。
「私から見ても、あんたが暗躍しているようには見えなかったけど…。今回は…何したの?」
純粋に疑問を感じているようだ。俺がどう動いたのか。それが知りたいらしい。
別に南に隠しておくことはないので、正直に話すことにした。
俺の計画の始まりは、獅子優馬についてのデマ情報を流したところからだ。
Dクラスが対立している事をあらかじめ知っていた俺は、その関係を壊すことから始めた。
獅子優馬を有利にし、綾瀬愛里を不利にする。そこがまず最初の計画準備である。
そして次に俺が取った行動は、綾瀬愛里に俺の有能さをアピールすることだ。
全ての事実を話すのではなく、嘘と真実を混ぜた絶妙な武勇伝を作り、それを信じ込ませた。
今回の試験はEクラスとの対決。
しかしDクラスは思うように動かず、獅子に任せることであいつがDクラスを支配すれば、大勢のクラスメイトが傷つくかもしれない。
そんな状況に陥った愛里は、必然的に獅子を止めようとするだろう。しかし、当然ながらDクラスの生徒には頼れない。なら誰を頼るか。
それは一定の信頼を持ち、この状況を打開できるかもしれない人物であろう。
その人物を愛里が探した時、真っ先に頭に浮かぶのは俺だったはずだ。と言うよりも、そうなるよう仕向けたのだが。
ここから先はあくまで俺の推測だ。
そうして俺は愛里に相談を受けることになる。が、その裏切りを予期していたのが獅子優馬だ。
獅子は良くも悪くも綾瀬愛里という人間を知り尽くしていた。
それは恋愛感情とかそういうものではない。ただ敵として、相手を知ることは何よりも大切なことだからだ。
クラスの皆のために動く愛里なら、獅子の率いるクラスを裏切る。そう確信していた獅子は、愛里にある提案を持ちかけた。
それが「Eクラスを裏切り、Eクラスのリーダーを確認すること」である。
きっと愛里も初めは拒否をしたのだろう。それに対して獅子はある交換条件を出した。
それが何かは正直なところわからない。
まぁきっと、「Dクラスを裏切ってしまう」という愛里の罪悪感を刺激するような条件であったのだろう。
そうして愛里は獅子に従い、俺へ接触してきたのだ。
ここまで語ったのは完全に俺の推測、というより、「俺の思惑通りに事が運べばこうなるな」という俺の計画だった。
計画を立て、そこまで頭の中で展開をシュミレーションしたうえで、俺はリーダーとして立候補をしたのだ。
柊の提案もあり、すんなりとなることができた俺は「先生への報告は自分でする」と嘘をつき、別の人物をリーダーにした。その人物こそが最重要人物である、清水新名だ。
正直誰でもよかったが、一定の学力があることが条件であった。
それに加えて、俺と席が近く、それなりに話す相手。どう考えても清水しかいなかった。
…いや、誰でもよくねぇじゃん。
そして、俺の計画がうまくいっているのか。それを確認する事ができたのは愛里に相談を受けた時だ。
彼女はあの時、致命的なミスを犯した。
俺が、俺自身がリーダーである事を暴露した時に、驚きよりも喜びを一瞬だけ表に出したのだ。
そこで確認できたことは、俺がリーダーである事を知っているという事。そしてDクラスの勝利を確信したという事だろう。
それが、俺の計画が完璧に進んでいた証拠になったわけだ。
獅子優馬の作戦は「Eクラスから裏切り者を出させる」という大胆なものだ。
自分たちがEクラスよりも上の立場である事を利用し、人の心の弱さにつけ込んだなかなか良い作戦である。
そして獅子はかなり慎重な男であり、機転の利く男だった。Eクラスからリークされた情報の信憑性を確かめるため、裏切ろうとしていた愛里を利用した。
そのことから、俺は絶対に獅子はDクラスのリーダーを大道千帆にすると確信していた。
大道千帆。
勉強は普通で、何よりも愛里側の人間であり、愛里の一番の親友。
そんな人間を獅子がリーダーに選ぶはずがない。誰もがそう思うであろう。しかし獅子はその裏をかこうとしたのだ。
獅子には、リーダーがそれなりに勉強ができなくても勝てる自信があった。
Dクラスの全員が相手のリーダーを当てることができる。
その絶対の自信が獅子にあったからであろう。
しかし、慎重すぎる男が考えていることを見通すなど、俺からすれば造作も無い。
獅子のミスは慎重すぎたこと。そして相手の実力を見誤ったことだろう。それがDクラスの敗因である。
全ての決着は、ほぼ2週間前についていた。しかしそれでは確実ではなかった。
理由は、清水がテストでそれなりの得点を取れるか、というところである。
そのため、俺は清水とテストの点数で競い合うことにした。
それなりに仲が良ければ、席が隣同士で点数を競うことなど別段不自然なことでは無い。
正直に言うと、そこまで俺が手回しをする必要性を感じなかった。が、それで清水が勉強に勤しんでくれるのなら安いものであった。
他にも色々と行動を起こしていたが、主要な部分はこんなところだろう。
あらかたの説明を終えて、南を見る。
何やら口をパクパクさせて、頭から煙が出る勢いで顔が真っ赤だった。
「ご、ごめん。…ちょっと情報量多いから、少しだけ…寝る」
そう言ってそのまま俺のベッドで寝始める南。
男子の部屋で寝るのはよろしくないのよ、南さん?
ちょっと勘違いするじゃない‼︎
この後、彼女を起こすのに大変な労力を割かれたことは言うまでも無いだろう。
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