EクラスとDクラスの対決

 中間テスト2週間前になった。

 放課後になると毎日のように、報告やら作戦会議やらが行われている。


 しかしEクラスは依然として、今回の試験の突破口を見出せずにいた。


 今日も当然クラス会議が行われる。俺としてはこの後に予定が入っているため欠席したかったのだが、柊の「リーダーとしての自覚を持ちなさい」という一言によってあえなく撃沈した。


「では偵察部隊、報告を」


 柊がそう指示を出すと、クラス内でも特にコミュニケーションに優れた生徒が前に立つ。


 顔ぶれは、村田、加藤、咲、蒼井あおい水瀬みなせ、清水といった感じだ。

 大方俺の想定通りである。


 柊の指示に村田が、まず報告をした。


「Dクラスはかなり揉めてるみたいだね。リーダーの対立、そこが彼らの弱点と見て良いと思う。それでも現状は綾瀬さんの方が若干不利みたいだね」


 続いて蒼井ミミが報告をする。


「はいはーい。でもですねぇ、やっぱり誰がリーダーかはわからないですねぇ。対立しててもそこら辺は協力してるみたいでーす」


 その後も似たような報告が続き、柊が全体に今後の方針を伝える。


「まずは桜井くん。あなたは頑張って勉強を続けなさい。それ以外の人は情報管理の徹底とリーダーの詮索をして。それじゃあ今日のところは終わるわ」



 実はこの会議、円滑に進んでいるようで実際はそうでもない。

 数日ほど前に、Dクラスが仕掛けてきた小岩の攻撃によってほとんどの生徒が「誰か裏切るんじゃないか」と疑心暗鬼になっている。


 そうでないのは柊や村田、そして例外の矢島くらいのものだ。


 柊は目先の「勝利」という所しか見えていないし、村田は単にクラスを信じすぎている。


 きっとそれを見越してのDクラスの作戦なのであろう。裏切りが出れば、今後の試験もその可能性を考慮しなければならない。これから先、Eクラスが上に上がる事はできなくなるだろう。


 このクラスを変えていくにはあまりにも時間がない。今回の試験を乗り切るには、やはり俺が動くしかないようだ。


 幸いなことに、俺の手札は十分に揃っている。打てる布石も打ってある。

 勝つための道筋は着実に出来つつあるのだ。





 不安の残るクラス会議が終わり、舞台は俺の部屋に移った。

 俺と綾瀬でどうやって獅子を攻略するのか、その話し合いのためである。


 早速綾瀬から話が切り出される。


「まずは協力してくれてありがとう、桜井くん。それで早速本題なんだけど、私たちとしては、Eクラスに私たちのリーダーを当ててもらうよりも、勉強で直接勝って欲しいの」


 俺はその言葉に若干の違和感を覚えて、質問をする。


「…という事は、お前たちのリーダーは獅子なのか?」


「うん、そうだよ」


 まぁ本当にそうなら、獅子に与えられるダメージはかなり大きい。


 俺は彼女の作戦を聞く姿勢を取る。それを感じたのか、愛里は慌てて作戦を話し始めた。


「そ、それでね、獅子くんの作戦はEクラスを混乱させて、リーダーを見抜いちゃおうって感じなの。だからその作戦をまず防がなきゃいけない」


「そうか。それで、俺は何をすれば良いんだ?」


 すると、愛里は申し訳なさそうにお願いをしてきた。


「こんな事を言うと、ちょっとアレなんだけど、リーダーを教えて欲しいの。そうしたら、私がうまくやってそのリーダーが選ばれないように操作するから」


 まぁ確かにそれくらいしか方法はないだろう。俺たちEクラスの誰かから流れる情報は本物だ。それを偽物にすり替えることができるのは、内部の人間だけである。


「なるほど、な。それくらいなら構わない。お前たちだって俺にリーダーを教えたしな。お互い様だ」


「ほ、本当に⁉︎あ、ありがとう!それで、誰なの、かな?」


「俺だ」


「そっか!ありがとう!」


 俺はその反応で確信してしまう。それでも俺はそれを悟られぬように言葉を返した。


「感謝なんていらない。言っただろ、お互い様だ」


「うんっ、そうだね」


 嬉しそうに微笑む愛里。そしてその笑顔を絶やさぬまま、彼女は自分の部屋へ帰っていった。



 俺はパズルのように勝利への道筋を立てていく。そして、今の話で最後のピースが埋まった。


「決まったな。勝負あり、か」


 そう呟いて、俺は電話帳を開く。それはある人物に連絡を取るためだ。

 今回の俺の計画、その最重要人物である。


 そして二言ほど会話をして、電話を切った。



 宣言しよう。


 1年Dクラス 綾瀬愛里 は俺たちを裏切る、と。





 他クラスも自分のクラスも、その全ての人を信じることができない。そんな毎日の終わりを迎えた。

 つまり中間テストが終了したのだ。


 そしてさらに時間が流れ、週明けの月曜日になった。この日が中間テストの結果発表であり、試験の結果発表でもある。


 その結果が待ちきれないDクラスはいつも以上に賑やかだった。


 そしてその誰もが自分のクラスの勝利を信じて疑わなかったのだ。


 それもそのはず。


 Eクラスの生徒からリークされたEクラスのリーダーと、綾瀬愛里が協力関係を持ち出して発覚したEクラスのリーダーが完全に一致したのだ。


 そして、こちらが用意したリーダーは明らかに勉強ができない生徒。とされていたが、実際は中の上くらいの成績で、綾瀬愛里側の生徒だ。

 獅子優馬がほぼDクラスを仕切っている、と思っている奴らが当てることなどできるはずがない。


 獅子優馬ですら、その確信は揺らぐ事はなかったのだ。


 実際にDクラスの作戦はうまくハマっていた。そして立ち回りも上出来だった。

 唯一の誤算は、相手の力を見誤っていた事。その致命的ミスが今回の結果につながってしまった。



結果


Dクラス リーダー 352点 相手リーダー正答者0

Eクラス リーダー 395点 相手リーダー正答者2


クラスポイントの変動


Dクラス 28→14

Eクラス  0→24





「なっ…⁉︎」


 発表された結果に驚きを隠せないDクラスの生徒たち。

 この結果に一番驚いたのは、言うまでもなく獅子優馬と綾瀬愛里だろう。






 ふぅ…。まずまずの出来だった。きっとEクラスの生徒たちもこの結果に驚いているだろう。


 まぁ南とかにはちゃんと説明しないとな。

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