足りないパーツと先制攻撃

 入学式当日のホームルーム。

 担任の中村先生は、村田の「なぜ欠陥品の生徒を入学させたのか?」という質問にこう答えていた。


「ーーーーー君たちのように価値のない欠陥品が、価値のある良品となって未来を変えていく。そうすれば元々良品の奴らはさらに自分を磨いて最良品となるのだ。君たち欠陥品にはそういう使い道がある。わかったか?」


 俺はこの言葉を聞いた時、欠陥品をどうやって良品にするのか、という部分に注目していた。そしてその部分をこの学校のシステムと照らし合わせると、面白いことがわかる。


 I類のA〜Cクラスには、貴族、と言ったら語弊があるがそういう生徒が集まっている。もし仮に、この学校の言う通り彼らが良品でEクラスが欠陥品だとすれば、Dクラスは一体何のために存在しているのだろうか。


 俺はその疑問からある一つの可能性に辿り着く。


「Dクラスは、俺たち欠陥品に足りない部分を補う部品パーツにすぎないのだ」と。


 つまり、俺は先生のあの言葉を聞いて確信していたのだ。他クラスと戦い競わせる。そんな試験が今後出されていく、ということを。


 俺はそのことに気がつき、すぐに行動を起こした。それが前回の試験期間の1ヶ月で主に行っていたことだ。


 尾行、変装、聞き込み、デマ情報の流出など、様々な方法を使い他クラスを調べ上げた。流石にAクラスは情報管理が徹底されていたが、その他のクラスはほぼ調べ上げている。


 そして俺が南に頼んだ情報が俺の元へメールで送られてきた。

 しかし、その情報と俺が集めた情報には大きな誤差があったのだ。

 その事から、Dクラスはあの時点から既に俺たちを警戒していた、という事がわかっていた。


 それでも全ての情報が嘘であったわけではない。少なからず10人ほどはちゃんとした情報が集められていた。


 では何故、Dクラスは全ての情報を嘘で固めなかったのか。

 それにはDクラスの現状が大きく関わっていると思われた。


 獅子優馬ししゆうま綾瀬愛里あやせあいりという2人のリーダーの存在と方向性の違い。


 彼らは今、クラス内で対立をしている。

 そこが俺たちEクラスが見出せる勝機であり、付け入る隙であることは、疑いようもなかった。





 勉強会が始まって一週間が過ぎた。柊から毎日課題を出され、週に3回ほど俺の部屋に集まり勉強を教えてもらう。そんな毎日が続いていた。


 クラスの方針としては、情報を集める部隊と相手を惑わすためのリーダー身代わり部隊を作り、相手の出方を伺うようだ。


 しかし、そうしてから既に一週間が経っている。そろそろ動き出しても良い頃だが…。


 そう思っていた昼休み、EクラスにDクラスの生徒が入ってきた。


「邪魔するゼェ」


 そう言いつつ現れたのは、小岩進太郎こいわしんたろうという男子生徒。

 一応Dクラスをまとめていると思われる生徒だ。


「あぁ?誰だお前?ウチになんの用だよ」


 赤城がそう言って小岩に突っかかる。こういう時に赤城の存在はありがたい。が、小岩はそれに怯えることなく、目の前にいた赤城を素通りした。


「まてやこら!」


 明らかに怒りを抑えきれていない赤城。それとは正反対に、赤城とは同じタイプであろう小岩は落ち着いていた。

 今のでなんとなく、こいつがリーダーとして動いている理由が分かった気がする。


 小岩は迷うことなく歩みを進め、ある男の前で立ち止まった。

 その男の名前は…、矢島叶助である。


「よう、矢島。お前に一ついい提案があるんだが、聞くか?」


 矢島は小岩のその言葉に興味がなさそうに答えた。


「僕の貴重な時間を奪ってまでする話なのかな?」


 突然の訪問者に動じない矢島。それを見て小岩は信じられない一言を口にした。


「それはお前が決めるんだな。なぁ矢島。お前、Dクラス側につかないか?もしリーダーの情報を渡してくれるのなら、お前を5人のうちの1人として選んでもいいぜ」


 それはEクラスを裏切り、Dクラス側につけという誘いだった。普通の生徒ならそんなことはしない。が、この男、矢島に関しては絶対はない。


「何を言っているんだい?そもそも何故君が上から目線で話しているのかな?頼むのは君の方であろう?」


 どうやら、よくわからないが矢島はその誘いには乗らないらしい。

 小岩は意外とあっさり引いてしまうようだ。


「まぁ気が向いたらこいよ。いつでも歓迎するぜぇ」


 そう言って教室を出て行った小岩。


 どうやら断られることは承知の上だったようだ。矢島の性格を知りながらも、あのような態度を取ったのだろう。


 つまりこれはDクラスの作戦。そしてその作戦がうまくハマってしまった瞬間だ。

 明日からは皆、疑心暗鬼になるだろう。もし矢島がリーダーを言えば、俺たちの敗北は決定する。そうすれば、誰がこの学校に残れるのかわかったものではない。


 唯一助かる方法は、誰よりも早く、EクラスのリーダーをDクラスへ伝えることくらいだ。


 これでより一層統率を取ることが難しくなった。早めに手を打たなければ手遅れになるだろう。


 さて、Dクラスはこのあとどんな手を打ってくるのだろうか。お手並み拝見だな。






 今日は変化のある1日だった。


 教室に小岩がきて矢島を勧誘。それは失敗に終わったが、全てはDクラスの作戦通りだった。

 そしてその変化は現在進行形で進んでいる。


 俺の部屋には柊峰がいた。勉強会があるのであれば、別段不思議なことではない。しかし、今日は勉強会はないのだ。


 それなのに彼女が俺の部屋にいるのは、メールで「会えるか?」と聞かれたからである。


「単刀直入に聞くわ。前回の試験、あれは全てあなたが仕組んだことよね?」


 表向きは俺が矢島に指示されてやった、となっているが、柊はそれを信じていないらしい。


「何を言っているんだ?俺は矢島に指示されたんだ。それを矢島が否定していたのか?」


「いいえ。否定してないわ。けど、認めてもない」


 どうやら何か確証を得ているのかもしれない。そこら辺を探ってみるか。


「まぁいいが、何故そう思ったんだ?」


「彼はそんな人間じゃないわ」


 あたかも昔から矢島を知っていたかのような発言だ。彼女の目は俺を捉えて逃さない。嘘ではない、か。


「私と彼は同じ中学だったのよ。まさか高校も同じになるとは思わなかったけれど、それ以上に彼がクラスを助けるために動く方があり得ないわ」


 これが彼女の確信の理由、か。とりあえず嘘と真実を混ぜて誤魔化すことにする。ここで実力がバレるのはまずい。


「まぁ確かに少し嘘をついた。俺は先生のちょっとした言い回しが気になって矢島に聞いたんだ。そうしたらブラボーとか言いながら褒めてくれたよ。それで、気がついた褒美にってあの方法をレクチャーされたんだ」


 その説明でも納得できないのか、首を傾げながら聞いてくる。


「それは…、本当なの?」


「ああ。本当だ。それにお前ならわかるだろう?あいつはああいう奴なんだ。全部気まぐれだ。多少筋すじが通らなくても、なんら不自然なことじゃない」


「…ええ、わかったわ。確かにそうよね」


 どうやら誤魔化せたようだ。用件はそれだけだったらしく、柊は「さよなら」と言ってすぐに部屋を後にする。



 もし良ければ、置いて行った勉強の課題を持ち帰って欲しいものだった。

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