クラスリーダーへの指名と勉強会

「…なぁ、あいつ誰だ?」


 突然の指名に困惑する俺。

 俺をクラスリーダーへ指名したのは、黒髪ロングのつり目美女だった。


 誰だ? と聞いたが、実際知らないわけでは無い。確か柊峰ひいらぎみねという名で、勉強、運動共に優秀な生徒だ。


 「知らない」というのは、彼女との関わりがないため表面上のことしか知らないという意味である。


「知らないの? 確か、柊峰ちゃんだよ」


「確かってことは、仲良くはしてないのか?清水なら誰とでも付き合いがありそうだが」


「いやぁ、声はかけたんだけどね。「あなたと仲良くする意味がどこにも見当たらないわ」って言われちゃった」


 清水はそう言いながら「あははぁ」と力なく笑う。清水ほどのコミュ力を以ってしても無理なのか。俺では手に負えないんじゃないだろうか…。


 そして話し合いは柊と咲の会話が中心となった。


「柊さん。どうして桜井君が良いと思うのかな?」


 多分、クラスの誰もが思っていることを代弁したのだろう。しかし、いつもならこの役目は村田であるはずだ。なぜ咲がこの役目を担っているのか。そこが気掛かりではある。


「別に何も不思議なことではないでしょう? 優秀な人がリーダーにつけば指名される危険がある。だから中間の人がリーダーになれば良いのよ。ほら彼、数学の小テストで50点だったでしょ?」


「んー。中間の人で大丈夫かな? それだったらそれなりにできる人の方が良くない?」


 咲は俺がリーダーにならないように説得してくれているのだろうか。前回の試験で、俺が表立って目立ちたくないことを悟ったからか?

 だとすればありがたいが、今のところ全くもって役に立っていない。


「あなたの言いたいこともわかるわ。でも、それでも選ばれる可能性が0ではないでしょう? それなら確実に選ばれない人にして、その人の力を1ヶ月間で伸ばした方が良いわ」


 彼女の答えはクラスメイトを納得させるのに十分すぎた。俺が提案した案と同じ案というのもあって、隣の清水もほへぇーと言いながら納得している。どうやら俺がやる以外なさそうだ。ここで俺が別の案を出しても逆効果になるだろうからな。


 俺は挙手をして声を張る。全員に俺の声を届けるのは初めてで、少しばかり緊張してしまった。


「…別に俺がやっても良い。その方が良さそうだ」


 この時に「え、良いの?」という顔をした南と目があったが、首肯して言葉を続ける。


「それに、結果的にああなったとはいえ、前回の試験は一歩間違えば大惨事になってたしな。ここで役に立っておきたい」


 俺の発言に驚きつつも村田は感謝を述べた。しかし、この提案をした当の本人は澄まし顔で席に座ってやがる。

 俺は一応勉強は結構できるほうだが、表の評価は至って普通。故に問題は誰に教えてもらうか、だ。


 すると、先ほどまで澄まし顔で席に座っていた柊が、いつの間にか俺の目の前にいる。その手には数冊のノートを抱えていた。


「これ、この間までの授業の内容をまとめたノートよ。今日の放課後からあなたの家で勉強会を始めるわ。そのノートに私の連絡先が書いてあるから、追加しておいて頂戴」


 そう言い残して、彼女はまた自分の席へ戻っていった。

 良くも悪くも柊は顔が良い。性格はキツいが見ている分にはマイナス要素はなく、もはやプラスしかない。

 そんな彼女からの勉強会への誘い。

 それによって高まるのは「恋の予感」などではなく、他の男子からのヘイトであった。





「それでは、勉強会を始めましょう。…と、言いたいところなのだけれど…」


 放課後はすぐに帰宅しなさい、との趣旨であるメールが届き、俺は急ぎ帰宅をする。

 そして数分で柊が俺の部屋へ着き、いざ勉強開始、となったわけだが、柊はすぐに勉強を始めることはなく周りを見渡していた。


 俺の部屋には特に物を置いていないため、非常に殺風景な部屋だ。ただ一つ、いつもと違う点があるとすればここにいる人数であろう。

 柊はどうやらそこが気になったらしい。


「なぜあなたたちがいるのかしら? 七海さん、石橋さん、それに桐崎さんまで」


「いやぁ〜それはまぁ。なんとなく気になっちゃって」


 咲、その答え方はまずいだろ。色々と勘違いをされるんじゃないか? まぁ柊なら関係なさそうだが。


 南には「勉強会に来てくれ」と連絡をしたが、なぜ咲と愛花まできたのだろうか。南ならまだ自然だが、この2人は不自然だ。

 それに柊も気がついたのだろう。当然の疑問を投げかけた。


「桐崎さんはわかるわ。でも、七海さんと石橋さんはなぜ勉強会に来たのかしら。あなたたちの小テストの結果なら覚えているわよ。かなり上位の方よね?」


 そう言われて、明らかに目を泳がせる2人。仕方なく、俺が助け舟を出す。


「俺は初対面の相手と喋るのが苦手でな。それで咲に頼んだんだ。来てくれってな。そしたらその場に愛花もいて、2人とも参加することになった」


「では、なんとなく気になった、というのは嘘ということ?」


 そう言って七海を睨む。俺はそれを否定する。


「別にそういうわけじゃないんだ。俺が頼んだと知ればお前も良い気はしないだろ? だから言わないでくれって俺が頼んだ。気分を悪くしたなら謝る」


「…そういうこと。なら今日は居てくれて構わないわ。でも次回からは不要ね。初対面じゃなくなるもの。それと桐崎さん。あなたは勉強に不満があるから来たのよね?」


「う、うん…」


 突然話を振られて動揺したのか、なんとかそう返事を返す南。柊はそんな南ことにはお構いなしのようだ。


「なら、あなたの分のノートも作っておくわ。次回も来なさい」


 そう言ってテキパキ物事を進めていく柊。


 そうしてついに勉強会が始まり、3時間ほどで終わりを告げた。

 





 柊峰。彼女はリーダーになる素質を持っている。村田は確かに人を惹きつける魅力があるが、他人を見捨てることができない性格だ。


 だが、柊はそれを行うことができる。そして、頭の回転が速く行動力もある。


 協調性がやや足りないが、クラスを率いていくという点では彼女が適任と言えるだろう。


 これは近い将来、クラス内の立ち位置が大きく変化するかも知れない。


 

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