試験開始まで1ヶ月

「それではこれより、これから実施する試験の説明を行う」


 まだ前回の試験の余韻が冷めぬまま、新たな試験が幕を開けようとしていた。

 Eクラス(矢島以外)のほとんどの生徒が、真剣な表情で説明を聞いている。それもそのはず、先生から先ほど信じられない事実が言い渡されたのだ。


「そう言えば言い忘れていたが、2年生進級時、最下位だったクラスは全員退学となる。まぁ救済処置として、次最下位になるクラスが選んだ生徒5人は、そのクラスに入り退学は免れるがな。いずれも最下位にならなければ良い話だ」


 中村先生は関係なさそうな感じでそう言ったが、俺たちには大いに関係ある。現時点での最下位はEクラスだからだ。


 現在のクラスポイントは各クラスこうなっている。


Aクラス 96

Bクラス 83

Cクラス 61

Dクラス 28

Eクラス 0



 つまり、この試験を落とすということは退学に一歩近づいてしまうということだ。


 そして俺たちの命運を分けるかもしれない試験。その内容はこうだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 試験に伴って各クラスが行うことは二つ。


 リーダーを1人決めること。

 相手リーダーを当てること。


 相手リーダーの指名は全てのテストが終了後、アンケート形式で行われる。

 リーダーを適当な理由無く変更することは認めない。リーダーは今日から3日後に担任に申請すること。


 勝敗はリーダーの中間テストの合計点数で競われる。

 相手のリーダーを当てた人数×2点が相手リーダーの点数から引かれる。


 勝利クラスにはクラスポイントがプラス20、敗北クラスにはクラスポイントがマイナス10される。

 相手リーダーを当てた人数×2点がクラスポイントに付与される。


 同点だった場合は、リーダーを当てた人数で競うことになる。それでも決まらなかった場合は、リーダー同士で学校側が用意した課題に取り組み、勝敗を決することになる。


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 今回のルールはあまり細かいものではない。学校側からの介入などはなさそうだ。つまり本当に他クラスとの真剣勝負。

 俺たちの底力が試されるわけだ。


「皆もわかっていると思うが、今回の試験はDクラスと競うことになっている。くれぐれも不正がないようにしろ。それでは何か質問はあるか?

ーーーー無いなら、後の時間は今後の方針決めにでも使え」


 そう言って中村先生が教壇から降りると、それと入れ替わって村田が教壇に立つ。

 そして、落ち着いた表情でクラス全体に語りかけた。


「みんな、もうわかっていると思うけど、今回の試験は僕たちの今後がかかっていると思う。2年生進級まであと10ヶ月くらいあるけれど、それでもあと何回試験があるかはわからない。だから…確実に勝利していきたい。みんなで協力して、みんなで勝とう」


 その言葉がEクラス全体に広がる。そしてクラス全体が大きな輪となり、ひとつの集団となった。


 しかし例外もいる。俺もそうだが、一番の問題は矢島だ。説明中も爆睡をしていた。もはやルールを聞いていたかすら怪しい。


 それでもそのことについて村田もその他のクラスメイトも何も言わないので、放置する方針に決まったのかもしれない。


「ねね、桜井君。誰がリーダーになるかな?」


 クラスで話し合いが行われている中、俺にそう話しかけてきたのは左隣の清水新名だ。女子なのだが、見た目は男の子なので接しやすい。


「そうだな…順当にいけば頭の良い奴だろうけど、それだと相手にバレるからな。それなりに勉強ができる奴がなるんじゃないか?」


 本当にそう思っているわけではないが、無難な答えとして解答をする。


「んー。でもそれだとDクラスも同じようなこと考えるんじゃない?」


「俺が思いつくくらいだからな。きっとそうかもな」


「そうだよねぇ。でもね、私に結構名案があるんだよね」


 そう言って胸を張る清水。おお、意外とあるんだな。


「そうなのか。それで、その名案ってなんだ?」


「ふふっーん。それはね、当日にリーダーが風邪をひいたって言って休むんだよ。そうすればリーダーが交代。そうしたら相手は、こっちのリーダーが誰かわからなくなるの」


 指摘をするか迷ったが、一応指摘をしておく。


「それはできないだろ。試験の結果に大きく関わるんだ。学校もそれなりの対応をするんじゃないか?例えば風邪を本当にひいたのか、事実確認をするとかな」


 それを聞いて、清水はそっかーと言いながら落ち込む。すると清水は、群青色の大きな瞳を輝かせて俺に尋ねてきた。


「じゃあ何か方法はある?」


 ここも答えるか迷ったが、ひとつの案を出しておく。彼女にはこの試験で、それなりに役に立ってもらうかもしれないからだ。


「まぁ例えば、この1ヶ月間で普通の成績の奴を育てて、そいつをリーダーにするとかな。できない奴を1ヶ月で育てるのはきついが、真ん中くらいの成績の奴なら、それなりのところまでいくだろうしな。相手もそんな奴がリーダーとは思わないだろう」


 俺の解答が意外と良い線をいっていた為か、清水はキョトンとして不思議そうな顔をしていた。


「…桜井君って、実は凄い人?」


「そんなんじゃない。俺より凄い奴なんていっぱいいるだろ」


 そこはすかさず否定しておく。俺の評価は低い方が良い。それでも納得をしていないのか、清水は首を傾げたままだ。そして彼女がまた口を開きかけたところで、話し合いになぜか俺の名前を挙げる声が聞こえた。



「私は、リーダーに桜井学を指名するわ」


 それは俺の知らない女子生徒の声だった。

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