Eクラス退学危機 その2

 初めてのホームルームから4週間が経ち、今日は4月の最終日。先生に言われていた試験の最終日である。


 この日に至るまで、俺たちEクラスはいろいろなことに取り組んできた。


 まず、クラスポイントがマイナスになる行動は起こさないこと。

 数学の小テストがあるとわかれば、全員でテスト勉強(矢島を除く)をして、全員が赤点を免れた。

 また、授業中の挙手や発言を積極的に行ったり、先生の手伝いなどを率先してやるなど、模範的な生徒として1ヶ月を過ごした。


 だが、それでもクラスポイントが変化することはなかった。


 そうしてそのまま、今日という日を迎える。…はずだったのだ。


 俺たちEクラスは朝から集まり、最後の計画について話す予定だった。だが、その予定は昨日の俺の行動で一変してしまう。


 だからだろうか、朝から俺は赤髪の男、赤城翔也あかぎしょうやに言い寄られていた。


「ってめぇ、何してんだよ⁉︎ 何であんなことをした!!」


 普通だったら腰を抜かす勢いだが、俺は何とも思わない。こうなることは予測できていた。

 赤城の質問に対し、俺はあらかじめ用意していた答えを口に出す。


「何でって…俺にもわからない。矢島に指示されたんだ…。俺はそれに従っただけだ」


 そう言って俺は矢島の方を見る。俺と目が合うと、矢島は「なるほど」と口を動かし不敵に笑った。

 俺が今言ったことは真っ赤な嘘である。だが、あいつが俺にあんな面倒事を押し付けたのだ。これくらいの面倒をかけてしまうことくらい、容認してほしい。

 まぁ、別にそれだけが理由じゃないんだが。


 俺の言葉で、今度は矢島が赤城に言い寄られることになった。


「おい、どういうことだ⁉︎ あいつが言ってることは本当なのか? あぁん?」


「落ち着きたまえ、赤髪君。私は言っただろう? これはeasyゲームだと。その意味はわかるかい?」


 特に変わった様子はなく、落ち着いた様子で対応する矢島。どうやら俺の意図を汲んだらしい。嘘をつかない範囲でこの場をやり過ごそうとしている。器用な奴だ。


 すると赤城が何かを言う前に、クラスのリーダー的存在になった村田がそれをやめさせた。


「矢島君。君は何か考えがあって、その行動を起こしたのかい?」


「ははっ、何を言っているのだい? 太陽君。僕は行動など起こしてはいないのさ。起こしたのは桜井だ。僕は彼にちょっときっかけを与えただけにすぎないのだよ」


 全く…本当に器用な奴だ。何一つとして嘘を言っていない。

 確かに行動を起こしたのは俺だし、俺が行動を起こす必要があったのは、矢島が「何もする気はない」と意思表示をしてきたからだ。

 それが彼の言う「ちょっとしたきっかけ」なのだろう。

 てか、何で俺だけ呼び捨てなんだ? 俺的にはそっちの方が気になるな…。


 当然のことだが、矢島の答えにほとんどの人が納得のいかない様子である。しかし、意外にも田村がクラスのみんなに向けて説得を行っていた。


「みんな、きっと矢島君は彼なりの考えがあって行動を起こしたのだと思う。確かに相談をしてくれなかったのは残念だけど、彼を信じてみてほしいんだ。どうかな?」


 この1ヶ月、誰よりもクラスに貢献してきた田村の発言だが、そんな提案に誰も乗るはずがない。

 第一、1番初めにクラスのみんなの夢がどうのこうのと言っていたのは村田自身であり、今回の発言は明らかに矛盾していた。


「で、でもさぁ。それって…どうなんだろう…ね」


 クラスメイトの様子を伺いながら、咲がそう呟く。しばらく沈黙が続き、我慢を切らした赤城が声を荒げようとした時、突然矢島がその重い空気を打ち壊した。


「そんな暗い顔をしなくても大丈夫さぁ。何も問題はない。明日からはいつも通りだよ」


 そう言うと矢島は席を立って、お手洗いに向かってしまった。元凶とも言える人物の退出。それによって、朝の会議は幕を閉じることになった。




 少し時間が経ち、朝のホームルームが始まる。


 今日1日の授業連絡やその他諸々の報告が終わると、試験の話になり一気に空気が重くなった。


 だが、(俺と矢島以外の)全員の予想に反して、中村先生の口から発表された結果は驚くべきものだった。


「おめでとう。君たちは無事試練をクリアした。よって君たちに、クラスポイント120を贈ることにする」


『えぇぇぇぇー⁉︎』


 あまりの驚きに立ち上がる生徒、そして腰を抜かす生徒が現れた。

 そこで、立ち上がった江口が質問をする。


「ちょ、ちょっ先生! ど、どういうことっすかっ?」


「君たちは試験に合格した、と言ったのだ。不満か?」


「いや、別に不満じゃないですけど…」


 そう言われて素直に引き下がる江口。え? お前もっと聞けよ。そうじゃないと…。


「ま、詳しいことはそこの桜井にでも聞くんだな。では今日も1日しっかりと過ごすように」


 ほら…こうなるじゃん。


 先生はそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いて教室を出ていく。あの野郎、やりやがったな…。


 これから起こるであろうことを想像して、テンションが急降下する桜井だった。

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