桜井学の4週間 その1
俺がこの空白の4週間で一体何を考え、どのような行動を取っていたのか。ここにそれを記しておこうと思う。
先生に「お前たちはすでに落第生だ」と言われた後、俺が1番初めに着目した点は、俺たちが落第生になった理由の部分である。
落第生の理由、その答えは「欠陥品だから」というものだった。
そして、次に俺が気になった点は、俺たち欠陥品が入学できた理由についてだ。
これについては村田が質問したため、簡単に知ることができた。その理由の一部分で、先生はこのように語っている。
『ーーーーー君たちのように価値のない欠陥品が、価値のある良品となって未来を変えていく。そうすれば元々良品の奴らはさらに自分を磨いて最良品となるのだ。君たち欠陥品にはそういう使い道がある。わかったか?』と。
つまり言い換えるなら、俺たちにはそれなりに利用価値がある、そう言っているのだ。
それなのに退学にするというのは、あまりに非効率であり、この学校が1番嫌うものでもある。
以上のことから、俺は「簡単な抜け道があるのではないか?」と予測した。
そして抜け道を探しながら話を聞くと、様々な疑問が生じてくる。
まず先生の言動をおさらいすると、最初に出されたヒントは「クラスポイント マイナス一覧例」という資料であった。
それを配った際、先生はこのように語っている。
「それはクラスポイントのマイナス例だ。そこに書かれている行為をした場合、クラスポイントがマイナスになる可能性がある。ここにあるのはあくまで一例だ。ここに書かれていないこともマイナスになる場合があるから気をつけろ。まぁ、全ては学校側と私の独断と偏見だよ」
ここではクリアする為に欠かせない1番大切なヒントが隠されている。しかし、このヒントが活用されるのは後のことなので、ここでの説明は省くことにしよう。
その後、先生が出したヒントは次のようなものだった。
「ちなみに、退学の危機が迫っている君たちのクラスポイントはマイナス100。そして、君たちが退学の危機を免れる唯一の方法、それはこの低い評価を変えることだ。しかしまぁ本当にギリギリだな。最低評価はマイナス120だぞ? ここまでのクラスは初めてだ」
「しかしまぁ」からはふざけているようにも聞こえるが、ここもヒントである。
ここからわかることはーーー
Eクラスのクラスポイントは、マイナス100であること。
退学を免れるには、俺たちの低い評価を変える必要があること。
クラスポイントの最低評価はマイナス120であること。
ーーーこの3つだ。
ここで一番気になったのは、わざわざ最低評価がマイナス120だということを教えた理由についてだ。
正直教える必要はない。それなのに教えたのには、何か深い意味が隠されているのだろう。
その次に気になったのは、「低い評価を変える」という不自然な言い回しについてである。
これについては、まずどのように評価を変えるか、そこが明確にされておらず、わざわざ「低い」という言葉をつけていることにも違和感を覚える。
わざわざ最低評価を示し、俺達の評価を低い評価と言った。そして、どのように俺たちの評価を変えるのかを明確にしていない。
それらを踏まえて考えてみる。すると、ここで俺はある一つの簡単な抜け道にたどり着いた。
それはーーーー
「低い評価を最低評価に変える」
ーーーーというものだ。
そう考えると、村田が質問した「なぜプラスになる例を出してくれないのか?」という質問に対しての先生の答えも、別の意味に聞こえてくる。
「そんな例を出したらつまらないだろ? マイナス例を出したのは、私の優しさだよ。くれぐれも間違いだけは犯さないようにな、そんなことをしたら退学へまっしぐらだぞ?」
この答えの前半部分の意味としては、「プラス例を出せばそれしかしなくなり、欠陥品を集めた意味がなくなってしまう」というところだろう。
俺たち欠陥品を集めたのは、俺たちのようなイレギュラーが起こす化学反応に期待しているからだ。
それなのに模範的な行動を起こしていたら、それこそ良くて良品止まりになってしまう。
そしてこの後半部分については、そのまま受け取ってもらって構わないと思う。ただし、ここでの「間違い」は模範的な行動を起こすことであると考えられる。
ここまでくればわかるだろうが、1番初めに出されたヒントである「クラスポイント マイナス一覧例」という資料が、この試験をクリアする上で最も重要なヒントだったのだ。
あとは、その資料に載っている行動をひたすら起こし、低い評価を最低評価に変えることでこの試験はクリアとなるわけだ。が、ここで問題となるのは全ての評価が先生や学校側の独断と偏見によって決められるということである。
つまり、例に従って行動を起こしても、それが実際にマイナスにならない可能性があるのだ。
だがこれについては、すでに解決策になるであろう考えが浮かんでいるので、問題にはならないだろう。
ちなみに俺がこの答えに至ったのは、初めてのホームルームが終わった直後のことである。
それなのに、なぜすぐに行動を起こさなかったのか。
その理由は、まず目立ちたくなかったからだ。そして、クラスメイトの力量を図る時間が欲しかった。今後、俺が自由に動かせる駒を見つけるために、その時間が必要だったのだ。
そして、もう一つの理由はーーーー
ーーーーー矢島叶助という男の存在、である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます