初めてのホームルーム

「静かにしろ、全員席につけ。これからホームルームを始める」


 まさに鶴の一声。その一声で教室中の雑音が消えた。


 クラスの全員が自分の席についたことを確認すると、担任の先生である女性教師が口を開く。


「入学おめでとう。私はこのクラスを受け持つことになった中村紗江なかむらさえだ。よろしくな。早速だが、今から資料を配る。受け取った者は1ページ目を開いてくれ」


 そう言われて配られた資料は、10ページほどにまとめられていた。

 言われた通り1ページ目を開くと、事前に説明されていたこの学校独自のルールが載っている。


「皆も知っていると思うが、この学校に通う生徒は寮に住むことになる。そして、君たち1年生はB寮を使用する。B寮には1棟〜5棟の5つあり、君たちEクラスと隣のDクラスは、4棟と5棟を使用する。ここまでで質問はあるか?」


 先生の問いに対し特に手が挙がらなかったため、そのまま説明が続く。


「ちなみに部屋は1人1部屋用意されている。寮内の備品を壊さぬように注意してくれ。あと一応言っておくが、A寮が2年生、C寮が3年生だ。間違えないようにな。あとのわからないことは寮の管理人へ質問するように。このページの他のところには、各自で目を通してくれ。では次のページにいくぞ」


 先生の指示に従いページをめくった。

 今回説明されていなかったが、この学校はI類とII類でクラスが分かれている。I類はA〜C、II類がD〜Eとなっているようだ。


 この2つの違いは、簡単に言えば地位が高いか高くないかだ。

 I類には超大手企業の御曹司や御令嬢が集まり、II類は一般入試で受けた者が所属する。


 この学校は元々貴族のために作られた学校であり、これはその名残であると考えられている。

 まぁ一応、多額の寄付を行っているから、という説もあるのでなんとも言えないんだけどね。


 あとの説明は、この学校の細かい校則についてだった。大切なことといえば、


 外部との連絡や接触は、この学校に所属している間は一切禁止であること。


 バイトは行えないため、月に3万円のお小遣いをもらえるということ。(もらうお金はポイントか現金を選ぶことができるらしい)


 あとは、寮の水道、ガス、電気などは一切お金がかからないということ、くらいだろうか。

 俺としては特に関係はない。無難に過ごして卒業する。そうすれば、あいつから身を守ることもできるし、将来も約束されるオプション付きだ。


 中村先生は、ある程度の簡単な説明を終えると、「あとは各自しっかりと目を通しておくように」と言って資料を閉じた。


 もう終わりだと思って、誰もが気を抜いたタイミングを狙うかのように、先生が言葉を発する。


江口えぐち、君がこの学校に進学した1番の理由はなんだ?」


「…へぇぁ?」


 突然の質問にクラスのほぼ全員が首を傾げた。


 江口と呼ばれた金髪の男子生徒も、質問の意味を図りかねたのか、素っ頓狂な声を上げて首を傾げている。


 答えがなかなか返ってこなかったため、中村先生はもう一度同じ質問を繰り返した。


江口智哉えぐちともや、君がこの学校に進学した1番の理由はなんだ?」


「えぇ…っと、卒業できれば将来が約束される、と聞いたので…」


「まぁそうだな」


 どうやら、江口は先生の思い描いていた答えを導き出したようだ。中村先生はその答えを聞くと、満足げにうなずいている。


「そう。この学校の最大の売りは、この学校を卒業すれば将来が約束される、というものだ。まぁ卒業できれば、だがな」


 先生の最後の一言に、またもクラスのほぼ全員が首を傾げた。その様子を見て、先生が不気味な笑みを見せる。

 そして、次に発せられる一言は俺ですら耳を疑うものだった。


「無難に過ごして卒業できると思うなよ? お前たちはすでに落第生だ」


「っ…⁉︎」


 先生のあまりに衝撃的な一言に、俺たちは言葉を失った。すでに落第生? どういうことだ?


「君たちは全員落第生だ。欠陥品なんだよ。このままじゃあ1ヶ月後には全員退学だな」


 随分と楽しそうに話す先生だ。欠陥品ならなぜ入学させたのか、そこが疑問である。

 その疑問を代弁するかのように、銀髪のイケメン君が手を挙げて質問をした。


「先生は先ほど、僕たちのことを欠陥品だと言いましたが、ならなぜ僕らを入学させたのでしょうか?」


村田陽むらたようか。まぁ当然の質問だな。その質問に答える前に聞いておくが、この学校が「未来に役立つ人材の育成」を目的に作られたのは知っているな?」


「はい」


「未来のことを考えれば、優秀な奴だけを学校に入れて育成をするのが最大の近道だ。そうすれば、手間もかからず役立つ人材が育つだろう。だがな、それでは本当の意味で役に立つ人材は育たないのだよ。君たちのように価値のない欠陥品が、価値のある良品となって未来を変えていく。そうすれば元々良品だった奴らはさらに自分を磨いて最良品となるんだ。君たち欠陥品にはそういう使い道がある。わかったか?」


「…はい」


 理由には納得できたが、自分たちのひどい言われようには納得できなかったのだろうか。村田と呼ばれた男子生徒は、渋々といった表情で席に座る。


 それを確認すると先生が「パンっ」っと突然手を叩いた。

 それに釣られて、全員が彼女の方向を見ている。そのことを確認してから、彼女は先ほどとは違う資料を持ってこう言い放った。




「君たち欠陥品に最初の試練を与える。さぁ、1ヶ月以内に退学を回避してみろ」


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