朝の騒動とクラス分け

 「ままなく到着です。全員船を降りる準備を済ませて、部屋の中で待機していてください。」


 船内アナウンスで無機質な音声が流れた。どうやら船が港についたようだ。 


 船から降りると、少し離れたところに大きな建物が見える。あれが、これから3年間通うことになる学校だろう。なんだかワクワクしてきた。

 時計を見ると入学式まで15分をきっている。


 「ちょっと急ぐか…。」


 そう思って歩き出すと、何故だか目の前に人だかりができていた。


「ねぇ、ちゃんと謝りなさいよ。高校生にもなるのにそんなこともできないの?」


「うっせーな。そんなところに突っ立ってんのが悪りぃだろうが」


 かろうじてそのような言葉が聞こえる。


 少し近づくと、人だかりの中心には5人の人物がいた。

 赤髪の男、服が汚れて泣いている女子、黄土色の髪でショートカットの女子と、穏やかそうなセミロングの女子、あとブロンドでポニーテールの女子だ。


 5人とも制服に赤の刺繍が入っているため、俺と同学年のようである。


 ちなみに言い争っているのはショートカットの女子と赤髪の男だ。

 状況から察するに、赤髪の男が泣いている女子とぶつかって謝らなかったため、それを見ていた3人が注意をしているのだろう。


 気になったので様子を見てみると、ずっと黙っていた穏やかそうな女子とポニーテールの女子が、ショートカットの女子に声をかけた。


「ねぇ、さきちゃん。もうそろそろ入学式始まっちゃうよ? 彼のことは放っておいて、美咲ちゃんを保健室まで運んであげようよ」


 美咲ちゃんって…、泣いている女子か。


「そうそう。こんな奴のために、うちらの時間使う必要ないって」


愛花まなかみなみ、何言ってんの⁉︎こいつが反省しなきゃまた同じような被害に遭う子たちが出てくるんだよ? そんなの許さない! というわけでそこの赤髪君、早く謝って! そしてちゃんと反省して!!」


 決して譲る気はなく、何が何でも謝らせるつもりの咲は、頬を膨らませて赤髪の男に指を差している。


「ったく、少し顔がいいからって調子乗んなよ? そいつが悪いんだ、俺は悪くねぇ」


 こちらも決して譲る気はなく、謝らないつもりの赤髪は、鬼のような形相で咲を睨んでいる。


 あーらら、まったく終わる気がしない。これじゃあ平行線じゃないか。ま、俺には関係ないけどね。


 そう思って時計を確認すると、入学式まで残り10分になっていた。

 そろそろ行かないと本格的に遅れてしまう。そう思って人だかりを抜けようと動くと、何やら視線を感じた。

 気になったのでついそちらの方向を見る。すると、愛花と南という女子と目が合ってしまった。


 やばい、と思ったのも束の間。2人揃って口パクで「助けて」と伝えてきた。いや、なぜ俺? 他にもいるじゃん。


 俺は数秒迷った挙句、拒否とアドバイスの意味を込めた「ドンマイ」を口パクで伝え、その場を去った。


 何故だろう。ものすごくあの2人の目が怖いんだけど…。







 入学式が終わり、クラス分けが発表された。

 どうやら俺はEクラスに所属するようだ。この学校は基本的にクラス替えがない。だから3年間同じメンツで過ごすことになる。


 変な奴がいなければいいなぁとか思ってしまう。特に、赤髪とかブロンドとかセミロングとかショートカットとかね! もう朝のあれ見ると流石にね…ちょっと無理。いやガチで…。


 そう思いながらEクラスに入ると、見覚えのある顔が4つほどあった。

 この時点で見覚えのある顔って…朝の5人だよね! 泣いてた子は正直あんま覚えてないから、あいつらか!!ぇぇ…、あいつらか…。


 とりあえず気持ちを切り替え、ホワイトボードに貼ってある座席表を確認し、自分の席に座る。


 1番前の右から2番目か…。まぁ授業が受けやすそうだから良しとするか。でもあいつらがいるんだよなぁ。何が良しなんだろ…。ってか気持ち全然切り替えられて無いじゃん…。


 いつまでも落ち込んではいられないので、沈む気持ちをrising《上昇》する。暗い気持ちをどこまでも広がる光で照らすと、俺の心に朝日rising sunが昇った。

 俺の心は朝日のおかげでクリアになったよ!クリア朝日になったよ!!

 …なんかもうテンションがおかしい、俺はもうダメかもしれない。




 何人かの生徒はもう仲良くなったのか、後ろでグループを作って会話に花を咲かせている。


(俺も頑張らなくちゃ!)


 そう思って、話せそうな近くの席の人を探すことにした。

 まず右に赤髪の男。うん、無理。

 右後ろには、…まだ誰もいねぇ。

 じゃ、じゃあ後ろは…オタクか…。会話の糸口が…無い。

 左と左後ろは…、女子じゃん。駄目ですね、はい。


 などと考えていると左にいた女子と目が合った。髪色と同じ綺麗な群青色の瞳が、こちらに向いている。ベリーショートだからだろうか。なんか、男の子みたいだ。いや男の娘…か?


「君…今私のこと男の子みたいって思ったでしょ?」


 二タァっと不敵な笑みを浮かべて俺に話しかけてくる少女。怒っては…無いみたいだ。それでも一応謝っておく。


「あぁ、その…なんだ、すまなかった」


「あ、いいのいいの! そんなことより、3年間よろしくねぇ! って自己紹介してないじゃん⁉︎ はーい!私、清水新名しみずにいなっていいまーす! 君は⁉︎」


 俺の謝罪に対して、ケラケラ笑って許してくれる清水。許すだけでなく、マシンガンの如く繰り出される言葉の応酬に、頭が追いつかなくなる。

 ほんとぱねぇ。1を言ったら、10倍,20倍くらいで返してくるあたりぱねぇ。

 女子高生って怖ぇ。


 まぁとりあえず名前くらいは言わないとな。


「俺は桜井学さくらいまなぶだ。こんな感じだが、よろしく頼む」


「ふむふむ、よろしくよろしくぅ〜」


 さっきから気になってたんだけど、2人ほどあの3人組がいる方から睨んでる奴がいるんだよなぁ。


 もう絶対愛花と南じゃん。話してもねぇのに嫌われるとか、俺ってばほんと特殊だよね!

 特殊すぎてもうSpecialまである。どっちも同じ意味だけど…。

 Specialって優れたって意味もあるんだよなぁ…とか、そんなバカみたいなことを考えていると、担任の先生が教室に入ってきた。

 教卓に資料をドサっと置き、よく通る声で生徒に指示を出す。




「静かにしろ、全員席につけ。これからホームルームを始める」








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