第13話崩壊の宣告

 五月二十二日、寛太郎はリモートを起動し池上と繋いだ。しかし昨日警察に尋問された事による、緊張感と恐怖心はまだ寛太郎の心の中にあった。

〈寛太郎さん、今日僕の手紙が届きますので動画の方は頼みましたよ。〉

「ああ、分かった。」

 寛太郎は自然に返答したつもりだったが、池上は異変を察知した。

〈寛太郎さん、何かありましたか?〉

「どうしたんだ、池上?」

〈寛太郎さん、何かありましたね・・・。〉

 どうやらポーカーフェイスは失敗だったようだ、心配を掛けないためにはやはり真実を言うしかない。

「実は昨日、警察が来て任意同行されたんだ。もちろん君の事は話して無いけど、動画を投稿していたのが僕だという事はもう突き止めていたようだ。何とか解放されたけど、あの時の緊張感がまだ抜けなくて・・・。」

〈そんなことがあったなんて・・・、少し警察を侮っていたようです。寛太郎さん、手紙の投稿を終えたらネットには触れないほうがいいですよ。〉

「そうだな、心配かけて悪かったな。」

「気にしないでください、計画を持ち掛けたのは僕ですから。後、もしまた警察が来た時のために、今回は封筒だけ処分しないでください。」

「え?それはどうして?」

〈警察はあなたに情報を送っている者が狙いです、封筒にはでたらめの住所が書かれているので暫くはその辺りを捜査するのでしょう。〉

「そうか、なるほど。」

〈でもこれはただの時間稼ぎです、いずれにしても警察から目を付けられる身になった事に変わりはありません。〉

「分かった、じゃあ君が計画を実行するまでリモートを止めよう。」

〈はい、しばらくは会えなくなりますが、互いにご健闘を祈りましょう。〉

「じゃあまたな、楽しみにしてるぜ!!」

 寛太郎はリモートを止めた、池上に励まされる自分に子供っぽさを感じたが、それも悪くないなと寛太郎の気持ちはほぐれた。




 それから三時間後、寛太郎の所に速達郵便が届いた。そこには「中尾聡」と書かれていた。

「ついに来たか・・・。」

 寛太郎は封筒を破く前に撮影の準備を始めた。そしてカメラのスイッチを入れた。

「みなさんおはよう・こんにちは・こんばんは、寛チャンネルへようこそ!!今回は例の『謎のハッカー』からの手紙です。実はですね手紙が来る前に予告されたんですよ、『次に送る手紙には私からのメッセージが書かれている、寛チャンネルの視聴者にぜひ聴いてもらいたい。』とね。それでその手紙がつい先ほど、届きました。」

 寛太郎はカメラに向けて封筒を見せた。

「これがその封筒です、では今からメッセージを読んでみたいと思います。」

 寛太郎は封筒を開けて、中から二枚の便箋を取り出した。そして便箋に書かれたメッセージを読み始めた。



『この動画を見ている皆さん、私はブラックハッカー・ABである。私は今回、株式会社DNAの「大逆転オセロシアム」が大変にプレイヤーを不快でみじめにさせるゲームであると判断し、ウイルス攻撃による抹殺に動き出した。このゲームは「負けてる時が、面白い!!」と謳っているが、やはりゲームには勝ち負けがあり、勝てば嬉しいし負ければ悲しいものだ。理不尽ではあるがその事実は崩せない、しかし「大逆転オセロシアム」は人同士の戦いにAIを導入し、理不尽の上に理不尽を重ねているという、非人道的行為をしている。これはもはや最低の極みである。逆転の快楽の裏には敗北の苦渋があることを、このゲームは隠蔽している。故に逆転の快楽に誘われて「大逆転オセロシアム」をスマホにインストールしたものは、やり込むごとに敗北の悔しさと、絶対に連勝しなければならない強迫観念に駆られるのだ。これは運営の課金利益を狙う、露骨な心理戦略が感じられることであります。ですのでこれから「大逆転オセロシアム」に苦しんでいるプレイヤーに、救いの手を差し伸べたいと思います。はまり込んでいるプレイヤーの文句や恨みは、その一切を黙殺します。私の言っている事が愚かな逆恨みや逆上に感じられる方も大勢いると思いますが、人の気持ちは人のは一切分からないという信念の下、私の気持ちを捨てたり曲げたり変えないことを、ここに宣言します。そしてウイルス攻撃の決行日は、九日後の五月三十一日にします。それまではどうか、不満のある方は理不尽の苦しみに耐えてください、そしてのめりこんでいる方は「大逆転オセロシアム」の終わりが来るまでせいぜい楽しんでいるがいい。それでは来る時が来るまで・・・。」

                                    

                                                      


 便箋を読み終えた寛太郎は、池上にこんな脅迫文が書けることに感心するのと同時に、動画を見ている人々同様に「池上がこれから何をしようとするんだろう?」という気持ちになった。

「いやあ・・・物凄い文章でしたね・・・。ブラックハッカーABからの手紙ということでしたけど、コンピューターウイルスって制作できるものですからね・・・、これからどうなるんでしょうか?ちなみにここでぶっちゃけな話をします・・・、実は昨日警察が来て事情聴取を受けました!!僕はただ謎のハッカーがハッキングで得た情報をYouTubeに投稿していただけということで一応解放されましたが・・・もしかしたらこれからも警察は僕の所に来るかもしれません。そしてもしかして・・・という事になったら、僕はこのチャンネルを終了しユーチューバーを引退します。正直そうなったら悔しいですけど、信用を一度損ねるということで当然の事だと思います。それでは今回の動画は以上です。もしこの寛チャンネルが生きていれば、高評価とチャンネル登録をお願いします。それではさようなら。」

 寛太郎はこの日、真顔でお辞儀をして動画を終わらせた。




 五月二十三日、世間のTwitterでは前日YouTubeに投稿された寛チャンネルの動画が大きな話題を呼んでいた。

『ブラックハッカー・AB・・・・一体何者?』

『そいつ色んな情報を抜き取ってきたけど、ついにウイルスを送り込むか・・・大逆転オセロシアムが消えてしまうのかな・・。』

『何か知らないけど、こんな子供みたいな脅迫文で大逆転オセロシアムが消える訳無いだろ!!』

『逆恨みも大概だよな、だったら大逆転オセロシアムを止めろというんだ!!』

『マジそれな。本当にいい迷惑だぜ。』

 しかしそれから数分後、ネットニュースで「株式会社DNA、六月末日で大逆転オセロシアムのサービス終了を発表」というニュースが報じられると、世間のTwitterがさらに騒ぎ出した。

『嘘でしょ・・・始めてからまだ二か月しかたってないのに。』

『おい、ふざけるなよ!!こんなハッカー相手に、何ビビってんだよDNA!!大逆転オセロシアムを無くすなよ!!』

『世間体のためなら、会社員もアプリケーションも切り捨てる企業。リアルすぎてマジ乙WW』

『まあ会社が決めたことなら仕方無いけど・・・、このゲームが無くなるのは本当に悲しい。』

『何だよそれ・・・、何で大逆転オセロシアムだけがこんな目に遭わなきゃならないんだよ・・・、何で四年も続いたゲームをここで潰すんだよ!!畜生、チクショウ、チクショウ―ーーー!!』

 Twitterではショックと悲哀と憤怒と罵倒の文章が混ざり合い、ネットの世界に小さなカオスを生み出していた。一方の寛太郎はテレビニュースでこの事を知ったが、特に何も書き込まなければ思う事も無かった・・・。




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