第9話背徳の連撃

 五月十日、寛太郎には気がかりがあった。五月の頭から突然、池上とリモートで連絡が取れなくなってしまったのだ。

「池上君、一体どうしたんだろう・・・。」

ルーティンの筋トレをしても、仕事での動画配信をしても、池上の事が頭のどこかにあり忘れられない。そして昼食を食べ終えた時だった、リモート通信があり出ると、そこには池上の姿があった。

「池上君!!」

〈寛太郎さん、長い間音信不通にしてしまい申し訳ございません。〉

「顔が見れたからもういいよ、それよりこれからどうする?」

〈またいくつかは、ハッキングした情報をこちらに送ります。後、面白いことを考えましたので、やってみてからのお楽しみです。〉

「おお!!それは楽しみだ・・・ん?池上君、なんか画面が粗くないか?」

 確かに池上の顔が、鮮明に映し出されていない。

〈やっぱりそうなりますか、気に障ってしまってすいません。〉

「やっぱりそうなるって、どういう事?」

〈実はパソコンを買い替えました、といっても秋葉原で格安で売っていた、四年前の中古品ですが。〉

「もしかして、それでしばらく連絡ができなかったの?」

〈はい、あのパソコンはもうハッキングをしたので、その痕跡が付いているんです。ですからデータを他のパソコンに移して、後は処分しました。〉

「そうか・・・でも、そんな中古品のパソコンでハッキングできるの?」

〈僕はプロです、弘法筆を選ばずですよ。〉

 流石は天才少年、子供ながらに言葉が大人である。

「そうか、それじゃあまた何かあったら連絡してね。」

〈はい、それではまた。〉

 そして寛太郎はリモートを切った。



 五月十一日、DNAに出社した松原は大門から社長室に来いと呼び出された。松原が社長室に入ると、大門が週刊新潮を握りながら顔を引きつらせながら立っている。松原はそれを見て、最悪の予感を察し身を震わせた。

「あの・・・話というのは、何ですか?」

「君、週刊新潮の記者から取材を申し込まれたそうだね?」

「はい・・・、でも取材は受けていません。」

「受けていないんじゃなくて、逃げたんだろ!!ほら、このページにちゃんと書いてあるんだから!!」

 大門が週刊新潮を開いて見せたページには、大逆転オセロシアム情報流出事件についての、様々なことが書かれており、四日前に社員に取材を申し込んだところ、逃走したということも書かれていた。

「何で取材を断らずに、逃げるなんてことをしたんだ!!」

 大門は怒鳴った。

「取材を受けたら、あることないこと書かれて、会社の評判を落としてしまうと思ってしまい、それで・・・。」

「その考えが余計なんだよ、そのせいで我が社は非常に怪しいとあんなことこんなこと書かれているんだぞ!!」

「ごめんなさい、ごめんなさい!!」

 激昂する大門に、松原は土下座をした。

「大門君、静かにしなさい。それはパワハラですよ。」

「社長・・・、取り乱してしまい申し訳ありません。」

「あの、僕は解雇されるのでしょうか・・・?」

「松原君、そんなことはしない。そんなことしたら、更に我が社の評判が悪くなる。とにかく君は、いつも通りに仕事をしていればいい。さあ、もういいから戻りなさい。」

「はい、失礼しました。」

 松原は社長室を出たが、あの時何故あんなことをしてしまったんだと、自分を責めた。



 五月十二日、非常事態宣言延長が宣告されてから八日が過ぎた。あれから新型コロナウイルスの感染者は益々増え、国から国民一人当たり十万円が特別定額給付金として支給されることが発表され、それにより自治体の窓口が混乱しているなどや、休業要請に応じないパチンコ店の公開などの、政府のコロナウイルスへの躍起とそれに困惑する国民が、毎日ニュースで報じられている。

「非常事態宣言の延長で、もう持たないと思っていたけど、これで今月は生き延びれそうだな。政府さまさまだ。」

 寛太郎は特別定額給付金を見て、顔をニヤニヤさせた。生活費はYouTubeからの収益で何とかなっているので、このお金はいつかプロジェクトをやるための軍資金として取っておくことにした。そんなことを考えていると電話が鳴った、でると声は浩二だった。

「寛太郎、そっちは大丈夫か?」

「大丈夫だよ、それより浩二は今仕事中だろ?」

「ああ・・・寛太郎には言ってなかったな。俺、五日前に仕事失くした。」

「浩二もクビか・・・、会社で大きなミスでもしたの?」

「リストラだよ、会社の収益が減って人員削減が始まったんだ。俺は嫌だって言ったけど、結局残れなかった・・。」

「そうか・・・、それで今は実家にいるのか?」

「うん、俺もバイトを始めようかと思う。」

「バイト?再就職はしないのか?」

「したけど、どこもコロナのせいで雇う余裕が無いんだってさ。」

「そうか、じゃあ元気でな。」

「コロナが終わったら、実家に顔を出せよ。」

 寛太郎はムッとして電話を切った。実家にはもう帰るつもりは無いが、浩二も新型コロナウイルスの影響で苦労していることは分かった。




 五月十三日、寛太郎は池上からの手紙を待っていた。昨日寛太郎からリモート通信で「堀場ひとみという名で速達郵便を出すから、その中の事をYouTubeに流して。」と言われた。午前九時に速達郵便が来た、名前は堀場ひとみになっている。

「中身は何だ・・・また駒の声優の個人情報か?」

 そう思い封筒を開けると、文字ではなくイラストが描かれた紙が入っていた。

「なにこれ・・・何かのキャラクターかな?優しい顔の格闘家かな・・・・こちらはぽっちゃり系の女の子・・・・。」

 寛太郎は見ているうちにハッと気が付いた、これは大逆転オセロシアムに登場予定の新しいキャラ駒のイラストだ。

「こりゃまたすげえの持ってきたなあ・・・。」

 寛太郎は感心して、動画撮影の準備を始めた。そして撮影が始まった。

「どうもみなさん、おはよう・こんにちわ・こんばんは、寛チャンネルへようこそ!さあ急に投稿することになった今回の動画なんですが、今回もまた謎の手紙です。だからこの動画は前回同様、配信してから一時間後に削除されますので、ご了承ください。それでは中身を見て見ましょう。」

 寛太郎は一度戻した封筒の中身をもう一度出した、そしてそこに書かれているイラストを見せた。

「さあ、これはイラストですね・・・。おっ、何か飄々とした顔の青年がいますね。頭に角があるし竜のようなものが見えるから、竜駒でしょうか?後こちらは、ぽっりゃりとした女の子ですね、周りに食べ物のイラストもありますね・・・。これは見た目的に、神駒でしょうか?」

 寛太郎は十分間、カメラにイラストを映し続けた。

「えーこれで本日の動画は以上です。それではみなさん、チャンネル登録よろしくお願いします。それではさよならーー!!」

 そして動画撮影を終えて動画を投稿して、寛太郎はイラストの描かれた紙と封筒をシュレッダーで処分した。果たしてこの動画投稿は、今後大逆転オセロシアムの命運をどのような方向へ連れて行くのか?






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