第10話三回目の攻撃【すり替えられたガチャ】

 五月十四日、寛太郎はモーニングルーティンを終えて、池上とリモートで会話をしていた。

〈昨日の動画、前回同様かなり反響があったようですね。〉

「うん、てっきり個人情報程の反響は無いと思っていたけど、みんな興味深々なんだね。」

〈書き込みを見て見ましたけど、「DNAのセキュリティーはどうなっているんだ?」とか「ハッキングしているのは誰なんだ?」というのが多かったです。〉

「うん、そうだよな。ところで近いうちに何かやると言っていたけど、いつやるの?」

〈実は二日後に決行するつもりです。何があるか、分かりますか?〉

「えーっと、何だっけ?」

〈大逆転オセロシアムで、お詫びのイベントですよ!!〉

 寛太郎は思い出した、声優の個人情報流出事件により、新駒の担当声優が声の録音を全員キャンセルしてしまい、新駒の発表が延期になってしまったという出来事があった。

「ああ、そうだったね。星のかけらやバトルコインが沢山もらえるコロシアムとか、A+ランク以上の駒が必ず手に入るガチャとか、結構太っ腹なイベントだね。」

〈ええ、そこでそのイベントを更に盛り上げてやりましょう。〉

 池上の声が暗くなった、これは悪巧みの予兆である。

「何をやるかは、お楽しみということですね?」

〈はい、入学式まで時間はまだありますからね。〉

「そういえば非常事態宣言が延長になって、全国の小中学校の入学式が延期になったね、池上君の小学校の入学式は何時なの?」

「来月の三日からです、今月も後二回分散登校があります。」

「そうか・・・五月いっぱいは自粛という事か。いいなあ、子供は自由な時間があって・・。」

〈寛太郎さん、もしかして子供に戻りたいですか?〉

「いいや、ただ子供は将来をあまり気にしなくてもいいかなと思って、羨ましくなりました。」

〈寛太郎さん、何かありましたね?〉

 池上に言われて、寛太郎はごまかせなくなった。

「実は一昨日、兄から電話があった。」

〈浩二さんでしたっけ?〉

「ああ、浩二もとうとう失職したらしい。再就職はしないで、バイトを探すつもりのようだ。」

〈それは辛いですね、この新型コロナウイルスの影響は日本経済にかなりの影響を与えています。僕達も、様々な形で影響を受けていることは間違いありません。気お付けて行きましょう。〉

 寛太郎は池上の言葉に賛同して頷いた、そしてリモートを切った。



 六月十五日、松原が出社すると自分の部署・ゲーム企画運営部がざわついていた。松原は胸騒ぎを感じて、矢島に声をかけた。

「矢島さん、一体どうしたの?」

「実はまた情報流出事件が起こりました・・・。」

 矢島は暗い声で言った。

「えっ!!また誰かの個人情報が!!」

「いいえ、今度は新しく実装される予定だった新駒のイラストが、流出してしまいました。」

「そうか・・・それでどうして分かったんだ?」

「高守さんがTwitterで、載っていた画像を見たんです。『大逆転オセロシアムの実装予定の新駒イラスト、大公開!!』ってタイトルで。」

 松原は高守にそのTwitterを見せてと頼み、高守のスマホ画面を覗き込んだ。

「ああ!!オオゲツヒメのイラストだ・・・、それに聞道まで・・・。一体どうしてこんなことに・・・。」

「私も同感です、TwitterではDNAのセキュリティ能力の低さについて、かなり過激に書かれています。更に二度目の情報流出事件ですから、警察がまた来ますよ。」

 そして三十分後、高守の予想通りあの時の二人の刑事・古井と柳崎が事情聴取に来た。

「松原さん、また大変なことになってしまいましたな。」

「はい、でも今度は個人情報じゃなくて良かったです。」

「あの時から、セキュリティはどうでしたか?」

「はい、部署全員でパソコンのプライバシーポリシーについては、重点的に対策しました。」

「なるほど・・・それでは流出したイラストは、元々どのパソコンに保管されていましたか?」

「矢島さんが使っているパソコンです。」

 松原は古井と柳崎に、矢島が仕事で使っているパソコンを見せた。そしてパソコンに詳しい柳崎が、パソコンをいじって何かを見ていた。

「ふむ、個人情報のセキュリティーに問題はありません。ただイラストの方は、セキュリティーが甘いようですね。」

「はい、今度もまた個人情報を狙うだろうと思っていました・・・。」

「でもこのハッキングの痕跡から、ハッキングしたパソコンを特定できます。」

 柳崎は特定を始めた、その間に古井は矢島に聴取をしていた。

「矢島さん、あなたのパソコンに何か異変を感じた事はありましたか?」

「いいえ、仕事中はスムーズに動いていました。」

「では、このパソコンを使っていたのはあなただけですか?」

「いいえ、高橋さんと飯田さんが使っています。」

「では、このパソコンのパスワードを知っているのは、あなただけですか?」

「はい、二人には入力後にしか使わせていません。それに互いのパソコンのパスワードを教えるのは、会社の規則で禁止になっています。」

 その後、柳崎から結果が知らされた。残念ながら、特定できなかった・・・・。





 五月十七日、ついに池上が例の計画を遂行する日だ。昨日池上から「午前九時を過ぎたら、大逆転オセロシアムの『特盛スペシャルA+&Sランク駒大集結!!』を回してください。」と言われた。今は午前八時五十五分、九時まではもうすぐだ。

「寛太郎は一体何をするんだろう・・・、ガチャに何か細工をするならそれは何だろう・・・?」

 そうこうしているうちに午前九時を過ぎた、寛太郎はハッと気づいて大逆転オセロシアムを開き、寛太郎に言われた通りのガチャを見つけた。ちなみにこのガチャは無料の一度きりなのだが、かなりの高確率でS駒が手に入るという。

「何が起こるんだ・・・。」

 寛太郎はそう思いガチャのハンドルを下に落とした、機械のように動くガチャが銀から金に輝き、そしてバイブル音が鳴った。これはS駒確定の仕様である。

「さあ・・・何が来る!!」

 金とプラチナの駒がベルトコンベヤーからぞろぞろ出てきた、そしてガチャの結果を見た時、寛太郎は唖然とした。

「何だこれ!!亀とカーバンクルだけじゃないか!!」

 出てきたのは駒のレベルアップに使う強化亀と特定のキャラ駒の進化のみで使うカーバンクルばかりだった。

「カーバンクルは嬉しいけど・・・やっぱり新しいS駒の方が良かったなあ・・・。これは詐欺だと思われる可能性があるぞ。」

 寛太郎は懸念とこれからが楽しみという気持ちが、入り混じった表情をした。



 五月十八日、寛太郎の予想通りDNAには大逆転オセロシアムのプレイヤーからクレームの電話が、雨あられのように襲い掛かった。

「お詫びの特盛ガチャがずさん過ぎる、本当に誠意があるのか!!」

「ラニーとかジークフリートとか欲しいS駒があったのに、期待を裏切りやがって!!本当にクソゲーだな!!」

 このような罵詈雑言が、クレーム対応をする社員の鼓膜を爆撃する。しかも前回のこともあるので、クレームは苛烈を増している。

「何だこれは・・・。」

 出社した松原はクレーム対応に追われる社員達を見て愕然とした。

「松原さん・・・おはようございます・・・。」

「高守さん、どうしたんですか!!」

 普段元気な高守の顔が、今日は顔色が悪い。

「出社したら電話が鳴っていたので出たら、物凄い怒鳴り声でクレームを受けました・・・。しかも連続で十回も・・・。」

 松原はけたたましく鳴る電話の呼び出し音に、耳を塞ぎたくなった・・・。

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