南の島(14)

「おい、嘘をついたな!」

 数日後に再び東の小屋に現れたビンディは、以前以上に激しく怒っていた。

「あれからお前のアドバイスに従って、その服装と似たような格好をしてみたが、マヤに会いに行ったら『汗臭い』ってイヤな顔されたぞ! おまけに、背中にあせもができちまった!」

「そうか。それは残念だったな」

 勝手に真似をする方が悪い――と内心では思ったが、ムラコフはいかにも済まなそうな表情を作った。

「それなのにお前ときたら、二人で楽しくハイキングなんかして、マヤとさらに仲良くなっているじゃないか! これはいったい、どういうことだ!」

「どうと聞かれても、仕方がないさ。面白い場所があるから一緒に行こうって、向こうの方から誘われたんだからな」

「勝手に抜け駆けした上に、ライバルを油断させるためにそんな大嘘までつくとは、どこまでも卑怯なヤツだな!」

 そう言うと、ビンディはちっちっと人差し指を立てた。

「しかし、オレも鬼じゃないからな。どうやってマヤに取り入ったのか、今度こそ本当のことを話せば、お前を許してやらないこともない」

「うーん……」

 ムラコフは返答に困って、ポリポリと頭をかいた。

 前回とまったく同じ展開のような気がするのは、おそらく気のせいではない。

「そういえば、この前ワニから助けたことにずいぶんと感謝されたな。やっぱり女に好かれるためには、ピンチを救うのが一番じゃないか?」

「そうか。ワニか!」

 ムラコフの言葉を聞くと、ビンディはパッと明るい表情になった。

「なるほど、サンキュー。それじゃ、またな!」

「ああ、またな」

 どんどん小さくなっていくビンディの後ろ姿を見ながら、ムラコフは半分微笑ましいくらいの気持ちになった。

「どこまで空回りするんだろうな? あいつ……」

 ビンディの背中が小さくなって消えるまで、ムラコフはその後ろ姿を見守っていた。

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