ゴコク観光……その後に

「ふううぅぅ~~こやん……」

「おつかれ。本当に。おつかれ」


 お出かけしたときに疲れた感を出してしまうのは場を乱しかねない。そんな下らない十字架を自分に背負わせ俺は必死に耐えていた。


 ん、遠くに見えるは森で襲ってきたタコ。誰かと喋っているのが見えた。


「タコじゃん。ターコタコタコじゃん」

「だね」


 流石に聞こえたのか目が合った気がするがもうそんなことはどうでもいい。


 今思うこと??


 疲れた

 クソ疲れた

 腹減った

 クソ疲れた

 さっさと宿に行きたい


 吊り橋効果とか言ったか。二人っきりで危機に瀕すると距離が縮まるやつのことだ。俺はすっかりあの一件で二人の間にあった壁のようなものを崩してしまい、左手は犬でも可愛がるかのようにキタキツネの頭をゴシゴシと撫で回している。


 こうでもしないと溜まったストレスが爆発してしまいそうだから。

 するとキタキツネだるそうな声で空に向かってつぶやいた。


「もう一生ここから出られないのかなぁ」

「他の人と一緒に出るから大丈夫だって」

「全員まとめて閉じ込めるかも」

「ピン芸人がなんとかしてくれるさ。なんだってあいつは……園長らしいからな」

「ギンギツネぇ……」


 キタキツネは大きなため息をついた。

 キツネみたいに丸まって(キツネそのものだが)尻尾を抱え込んで動かなくなってしまい、辺りが静寂に包まれた。他の参加者の話し声と落ち葉を踏む音がよく聞こえる。


 このままここでゆっくりして出発を待つか。どうせ数分の辛抱だ。


 ふと空を見ると小さい雲がちらほら浮かんでいて、頭上の枝の間から見続けていると動いているのがやっと分かる程遅く流れている。


 やっぱ良いな。


 正直さっきの化かされ事件はイライラしたが、いつか思い出になると思うと感慨深い……多分。それを抜きにしてもここの環境は本当に良い。日本のどっかにあるネズミの夢の国はどこかをモチーフにセットを作っているが、ここは「ここ」だ。○○風とかではなく、そのものの良さがある。


 いつか現実に戻るんだと思うと嫌になって視線を落とすと、キタキツネが体を起こしてボーッとしているのが見えた。



 キュルル~~(わざとらしいオノマトペ)


「おなか、へった」

「だよなぁ」


 すると俺のお腹からも、けものフレンズ二期に出てくる緑髪で帽子をかぶった、序盤でサンドスターの満たされたカプセルから出てきて未だに詳細のわからないあいつを彷彿とさせる恥ずかしい音が響いた。


「くそ……やっぱ許さんぞあの酔っぱらいダヌキめ」

「ぺろのせい。ぺろが怒らせた。そういうこと言うから化かされるんだよ」

「言ってないぞあのときは! ちょっと、その、思ったことを……思っただけだ」


 やっぱりイライラする。それに空腹がいよいよ辛いレベルまできた。


「それに……」

「そうした?」

「ううん」


 キタキツネが見つめている先を見てみると、不思議な雰囲気の白い服を来た女性が芸人の近くに立っているのが見えた。


 どんな人相かと思って凝視してみたが、遠くてはっきりと見えない。ただ顔が小さくおそらく美人であろうことは分かった。


「なにしてるんだろ」

「あの人か?」

「ヒト……? ふふん」


 あ、人じゃないんだな。じゃあフレンズじゃん。

 しかし耳や尻尾は見当たらない。そうしてまた凝視しているうち、目が合ってしまった。


 不思議な感覚。そうとしか言い表せない。時間がゆっくりになり、数分経ったかと思った瞬間ようやく視線が逸れた。おそらく3秒にも満たなかっただろうが、なんとも言えない力を感じた。


 そんなことをしているうち芸人が出てきた。もう出発の時間か。


「それでは、この後は今夜宿泊する施設へと向かうのですが……、その前に、先程から皆さんの気になっていたこの方に自己紹介して貰いましょうか。では、お願いします」


 もしかして。


 予想は当たった。さっきの人(?)だ。


「皆さんこんにちは。ここからサンカイエリアまでご一緒させて貰います、伏城 澄禾ふしぎ すみかです。暫くの間ですが、宜しくお願いしますね♪」


 ウソつけ絶対偽名だゾ。



 ___________________



 挨拶の後はすぐにバスに案内され、目的地の宿まで揺られることになった。


 ああ腹が減った。疲れた。席に座ると溜まった疲れやら何やらが溢れてきた。キタキツネは席につくなり目を閉じてしまったので話し相手がおらず寂しい。とはいっても全体的にお疲れムードであり話し声はあまり聞こえてこなかった。


「子供扱いしないでって……」

「うふふ……」


 芸人とふしぎさん(?)が話しているのが聞こえた。ちなみに彼女はよりによって斜め前の席に座っている。


 しかしそんなことはどうでもいい。宿についたら思い切り羽を伸ばせる。疲れと汚れを取るんだ。飯を食って、風呂に入ろう。そして寝る。キタキツネと一緒に。


 キタキツネと一緒に。


 まさか風呂が男だけとかまさかそんなことないですよね。そんなん一人旅と一緒ですよ。寝るときも、一人旅どころか知らん男と一緒にされるなど言語道断である。キタキツネと寝る。


 素晴らしい。グレート。


 バスがガタガタと揺れる中、期待に胸を膨らませながら寝ているキタキツネの手の上にそっと自分の手を重ねた。

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