12:Bluff×Tomorrow

 画面に映し出されたのは見た事のある顔だった。

 現ルナシティの全権を握る最高指導者の男だ。

「私に話があると言うのは君かね?」

「はい、単刀直入に申し上げます」

 男はそう言って、先程の説明をする。

 証拠として、煙管の女との会話なども聞かせた。

「ふむ、分かった。しかし、それで勝算はあるのか?」

「勝とうとすれば確実にルナシティはなくなります。しかし、友和を求める事は出来る筈です」

「旧人類に首を垂れろと言うのか?」

「今更何を言っているんですか……?」

 男の怒りは臨界を超えたまま、マグマの様に無尽蔵に溢れていた。

 その怒りは、ルナシティの全権を握る指導者にも向けられた。

「元はと言えばアンタらのせいだろうが!宙域戦闘の出来る船舶もなく、あるのは暴動を制するための対人兵器のみ!だったらそれを最大限生かせる方法を考えろよ!ふんぞり返ってる場合か!?」

「貴様!最高指導者に向かって何たる!」

 傍に控えていた側近らしき男が顔を真っ赤にして割り込んできた。

 しかし、それを最高指導者本人が遮る。

「よい、非常事態だ。して、君の言う作戦が上手くいけば、旧人類との戦闘にはならないと?」

「ルナシティが選べる道はそれしかない。地球側はまた俺達がカマキリである事を知らない。だったら、『蟷螂の斧』だって脅しとして十分に通用する筈だ」

 若干の沈黙の後に、大きな笑い声が響いた。

「フハハハハハ!面白い奴だ!良いだろう、そのように計らってやろう。ただし……」

「ただし……?」

「地球へ降下する全部隊の指揮をお前が執れ。に責任を取ってもらおうではないか」

 男は奥歯を噛み締めた。

 コイツらは未だに現実を見ようとしていない。

 単純に、危機感が足りないのだ。

 煙管の女やリーダー達が早々に退場したがる意味が分かる。

 こんな奴らと心中などしたくない。

 しかし、だからこそやらなければならない。

 和平条約が結べれば、地上で暮らすのもいいだろう。

 こんな奴らの元で暮らすのはまっぴらだ。

「分かった、俺が指揮を執る。全権大使として地球へ行く」

「うむ、良い。では頼んだぞ」

 嘲笑の様な笑みを見せる最高指導者との通信が終わった。

「行くのか?」

 支部長が男に問いかける。

「行くしかないだろ……。じゃないと、俺達は終わりだ」

「分かった。貴様の命、我々が守る。各員、準備に掛かれ!軍への連絡も忘れるな!」

 支部内が再び慌ただしくなる。

「支部長、大気圏突入用の船舶以外に、頑強な船を用意してくれ」

「そうするつもりだ?」

「爆破した後に出港しても遅い。準備が出来次第、順次出港したい」

「なるほど、核爆発の衝撃やデブリからの盾にするのか」

「その通り。出来るか?」

「軍にもそう伝える。準備が出来るまで待っていろ」

 そう言って、支部長は男に小さな荷物を渡す。

「なんだ?これ」

携帯食料レーションだ。何か腹に入れておいた方が良い」

「ありがとう」

 地球への降下作戦は急ピッチで進められた。



「奴らが指定した爆破予定時刻まで残り1分!」

 男は船の中にいた。

 その船と爆破予定地点の間には、無人の大型貨物船が壁の様に並んでいる。

 これが爆破から守ってくれる盾だ。

 被害を食い止めてくれることを祈るしかない。

「予定時刻まで残り10秒!」

 カウントダウンが始まる。

 緊張の糸が張り詰める。

「3……、2……、1……」

「核融合反応を感知!爆心点の座標が分かりました!予定航路を修正!」

「衝撃波が盾に到達するまで残り、5秒!4……、3……、2……、1……、インパクト!」

 大型貨物船が揺さぶられているのが見える。

「大量のデブリ群飛来!」

「まだ盾から出るな!」

「盾4番艦、7番艦、11番艦が操舵不能!5番艦は機関部が大破!爆発の可能性あり!」

「デブリ群は!?」

「通過しました!爆心点までの航路、安全クリアです!」

「全速前進!盾を迂回しつつ進め!」

「盾2番艦、5番艦から出火!爆発します!」

「巻き込まれるなよ!ここからが正念場だ!」

 船は急加速して盾となった貨物船を迂回しながら地球へと向かう。

 そんな中、貨物船の1艘が爆発した。

「盾2番艦、轟沈!降下船1番艦に被害が!」

「被害状況!」

 貨物船の爆発による2次デブリをもろに喰らったのだ。

「艦橋と連絡がつきません!」

「1番艦はルナシティに戻らせろ!回光通信機で連絡!」

「2番艦、耐熱パネルが数枚破損したそうです!」

「ええい!耐熱パネルが破損した船は全てルナシティに戻れ!本艦の被害は!」

「本艦の被害はごく軽微です!大気圏突入には耐えれます!」

「では、5番艦である本艦が先頭。無傷の船だけついてこい!」

 大気圏で燃え尽きるなど許されないのだ。

 デブリ層に穴が開いた今、地上の人達は皆空を見ている筈。

 そんな中で、降下中の船が大破するという失態を見せる訳にはいかない。

 今から男達がやろうとしているのははったりブラフなのだ。

 ない戦力をあるように見せかけ、脅す。

 大気圏突入の失敗を見られては、脅す事など出来なくなるのだ。

「一世一代のだ!失敗するなよ!」

 支部長の声が響く。

 そうだ、こけおどしなのだ、これは全て。

 このこけおどしが成功するか、失敗するかで、ルナシティの運命は決まる。 

 男は奥歯を噛み締めながらニヤリと笑った。





Hole of the GLORY ————End...

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Hole of the GLORY Soh.Su-K(ソースケ) @Soh_Su-K

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