19

 これ、スーサイドって呼べんじゃねぇ?

 でも長文だからウザいと思ったやつはさっさと読み飛ばしてくれ。

 昨日、女に殴られてる男を見たんだ。

 そこは乱交で有名だったからオレ(スペック・二十五歳、無職、彼女いない歴半年)も交ぜてもらえるかと思って行ってみたんだけど、なんかそれっぽい痕跡はあっても昨日は全然そんな空気はなくて、テンションかなり下がったんだけど、なんかいわゆる人の争う声ってのが聞こえてきたから一番奥の教室に、そこは廃校で、三階の一番奥の教室に行ってみたら、女が男の上に乗ってんのよ。

 お、やったね、とか思ったわけよ。今晩のオカズには困らないな、とか思ったわけよ。

 けど違ったのよ、これが。

 女が男の上に乗ってんのは、マウントを取ってたわけ、男の。

 オレがのぞいた瞬間、女は殴り始めるわけよ、男の顔を。

 男の方はもう一方的に殴られっぱなし。つうかそれ以前に顔面血だらけで意識もあるかどうかって感じだったな。じゃないとあんなに一方的に殴られてないと思うわ。

 女はすげぇ安定したリズムで殴ってんの。

 普通、人の顔を何回も何回も何回も殴るのって相当エネルギーがいると思うんだけどリズムがずっと同じ調子で右左右左右左って、ほんとすごかった。

 女の手、男の血で真っ赤に染まってて、手の皮がべろべろに剥けてんの。でも安定してんだよ、リズム。変わらねぇの。

 震えたね。

 だんだん恐くなってきて、このまま殴り続けると死ぬんじゃないのかと思ったからロム失格だけど飛び出そうとして、オレ、気がついたんだわ。

 リズムがずれんだよ。ガンガンガン、が、ガン、ガン、ガンって感じでなんか間ができるんだよ。

 で、オレはさらに気がついた。

 女がしゃくりあげる度に、拳の動きが鈍るんだよ。つまり、女は泣いてるわけだ。泣いていた、わけだ。

 泣きながら拳を振るう。

 なんか、胸にくるじゃねぇか。最初は何やってんのか全くわからなかったけど、オレはそれで理解したね、こいつらはワケアリだ、ってね。

 だんだん泣き声みたいなのが大きくなって、女の咽から溢れ出して、それに合わせて拳のリズムが狂って、徐々に「殴る」んじゃなくて「叩く」になっていった。

 すぐに女は倒れこんで、それでも男の胸を叩く、叩いて、叩き続けた。

 その時には男も意識があったみたいで胸を叩かれるたびに顔をゆがめていたっけ。でも男はされるままだった。受け入れているとかそういう感じじゃなくて――そうだな、うん。

男はオレ達みたいな視線だった。ロムっている時のオレ達みたいだった。スーサイドを見ている時の、オレ達みたいだったんだ。

 そう、それで最初に繋がるってわけだ。

 これってなんか、スーサイドにそっくりだろ?

 だからオレはロムとして、この事件の唯一のロムとして、これをスーサイドと呼びたい、そう思っている。

 長文失礼した。

(――スーサイド・ヒューマンズ【スポーツはみんなスーサイドpart6】244投稿日2136/06/16/02:13:40より引用)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る