第31話 城里の一筋の光

 時刻は夜の十一時十五分。

 

 城里は部屋で電気もつけずに音楽を聴いていた。

 題名は「gather one」。

 これはとあるアニメの主題歌で、そのアニメのキャッチコピーは、『〜君に贈る青春群像劇、開幕〜』。

 そのアニメでは様々な境遇のキャラクターたちが笑い、泣き、挫折し、最後には笑顔になる。

 その物語が故に、その主題歌であるその曲の歌詞も、人生の道標というか、  悩み、苦しみ、考える、そして自分を見つめ直す、という歌詞だった。

 城里はとあることに気づき、その歌詞にハッとさせられる。


 そう、この歌詞は自分にとてもよく当てはまっていた。

 この歌詞に何度、自分を重ね合わせたことか。

 この歌詞に何度、救われたことか。

 この歌詞に何度、応援してもらったことか。


 だが、全て“た”だ。


 重ね合わせ“た”。

 歌詞に救われ“た”。

 応援してもらっ“た”。


 全て過去のことだ。今の私が聞いても、何も刺さらない。

 むしろ、嫌悪感さえでてくる。


「なぜ、昔の私はこの歌詞に、こんな歌詞に共感していただろう」


 フッと、聴きながら自嘲的に笑う。自分に、自分自身に、自分自身が信じられなくなっている。疑心暗鬼になっている。私はどうしてしまったのだろう。


「もう、何を信じればいいの」


 口から出る悲痛な叫び。私は、どうしたいのか。歌を続けたいのか、続けたくないのか。続けた場合、また失敗するかもしれない。また、こんな辛酸を嘗めることになる。こんな思いは二度と味わいたくない。


 そうとう、城里の心はまいっていた。

 

 あの悪夢のような光景が、城里の脳裏をよぎる。


 ピンと張り詰めた雰囲気。

 極寒にいるかのようなひんやりとした空気。

 そして、私を見ているようで見ていない審査員の虚ろな目。


「怖い……怖い……!!!」


 城里のその失敗した記憶は、トラウマになって城里の身も心も蝕んでいた。

 城里の心も体もその記憶に憑りつかれていた。


 「私はどうなるんだろう……」


 不安が一気に心を占める。

 そこで、ふと一つのことを思い出す。

「そうだ、そういえば『gather one』がオープニングになっていたアニメの三期がやるらしいな。そのアニメのオープニングもその人が歌っているのかな。


 「まあ、いっか」


 正直、興味はある。だが、見ようとするほど興味はない。


 ボーッと時間を過ごす。普段は音楽を聴きながらリラックスするが、こんな時まで音楽なんて聞きたくもない。いや、音楽は聴いていたい。歌でも聞こうかと思ったが、さっき耳にながれてきた歌で聞く気分ではなくなってしまった。なので、歌は聴きたくない。聞くとしてもクラシックやジャズだ。


「『gather one』はもういいや」


 少しの間、ボーッとし別の音楽に切り替えようと、自分のコンピュータの電源をオンにする。


 何聞こうかな。


 とりあえず、無意識的にYouTubeを開く。

 YouTubeでは登録しているチャンネルのYouTuberさんが新しい動画をだしたと通知が来ていた。

 すると、とあるものが目につく。


「Liveやってる……。閲覧が1000人以上いる。 なにこれ?」


 訝しげに手をマウスに置き、その手を動かした。そして、ちょうどカーソルがそのサムネの前にたどり着いたところで手を止めた。


 クリックしようか、クリックしまいか。

 声にまでは出していなかったが、そのカーソルが矢印から手のマークに行ったり来たり変わっている。


 1000人以上いるということは、すごいライブに違いない。

 そして、1000人もの人を魅了させる何か素晴らしいものが\あるはずである。

 いったいその魅力とはどんなのだろう。めちゃくちゃ気になる。

 私もそのLiveに行ったら、なにか得られるものがあるのだろぁか。

 燻っている私に、一歩進む勇気をあたえてくれるだろうか。


 「クリックっと」


 クリックした瞬間、一筋の眩い光が眼に差し込んできた。

 

「まぶしっ!」


 


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